天国から来た大投手 四、佐々木裕香 29 | 六月の虫のブログ

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四、佐々木裕香

 弘子も野球部のマネージャーの仕事に慣れてきた。森次郎がウエートトレーニングにスポーツクラブに行く日以外は、帰りはいつも一緒だ。浩輔も森次郎と弘子は、お似合いのカップルだと思っていた。森次郎にはまだ弘子の存在の大切さがわかっていない。浩輔はそんな森次郎が歯がゆかった。森次郎にとって、弘子は彼女ではなく幼なじみの域を越えていない。普段は真面目な森次郎だが、浩輔とスポーツクラブにいる時も、美しい女性がいるとその人の方ばかり見ている。休憩時間にはその女性に話し掛けて、仲良くなる。森次郎が、スポーツクラブで集めた女性の携帯番号は、三ヶ月で二十を超えていた。彼は、年上の女性に興味があるようだ。浩輔が羨ましいと思ったのは、森次郎の女性への接し方だ。彼の接し方は自然で、下心が見えない。女性の方も警戒せず、彼と話をしている。中には彼を食事やベッドに誘う女性もいる。森次郎も何回か、誘いに乗って食事に行ったが、恋に落ちることにはならない。ベッドにもお供することもあったが、関係は続かない。女性の方も、高校生の森次郎を恋愛の対象とは思っていないようだ。弘子と一緒にいる時も、美人がいると彼の目はその彼女に釘付けになる。そんな時は、弘子に腕をつねられるか、足を踏まれるのだが、森次郎には弘子の気持ちがわかっていない。ただ、森次郎は弘子の前で、それらの女性からの電話は取らないし、彼女たちとのデートについても話さない。
 浩輔はジミーへの報告の際、森次郎と弘子の関係がどうなるのか尋ねたことがあった。ジミーは「モリには恋愛を経験して、一皮むける必要がある。浩輔もティーンエイジャーの頃、年上の女性に憧れたり好きになったことはあるだろう?モリは自分にないものを彼女たちから得ようと思っているのではないかな。男として、その部分も成長しないと潰れてしまうよ。これから野球で、注目を浴びると誘惑も多くなる。そういう意味でも、モリには早く真実の愛に目覚めてもらいたいものだ」と言った。ジミーは「大リーグでアメリカに行った時、モリを現地で支えてくれる人が必要になる。特にチームメイトたちに認められて、友達を作るまでは。孤独は種々の誘惑に負ける最大の要素になる」と付け加えた。
 確かに浩輔も野球で注目されるようになると、いろいろな誘惑を経験した。女性からの誘惑はもちろん、大学や企業の野球部、そしてプロ野球球団からもいろいろなアプローチがあった。大学時代は、女性の誘惑も多く、あれほど女性にもてたことはなかった。浩輔が落ち着いたのは、プロに入って裕香と知り合ってからだった。もともと女性に抜け目がない森次郎のこと、注目度がアップすればどうなることやら、心配される。


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