天国から来た大投手 三、誕生!エースで四番 28 | 六月の虫のブログ

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 二月一日、いよいよ入部の日がやってきた。森次郎の不安は一つだけ、城田克也がボールを捕れるようになっているかどうかだ。浩輔はいろいろ不安があった。理論的に無駄な非合理的な練習の強制、トーナメントになったときの連投など森次郎の酷使、森次郎の登場による周囲の反応など不安材料は尽きなかった。森次郎が部室に行くと、みんな歓迎してくれた。特に克也は、特訓の成果を早く試してみたいと、森次郎に興奮気味にしゃべった。森次郎が裸になると、部員達は森次郎の身体を見て「すげぇ」と言って驚いた。浩輔に会ってから、森次郎の身体は二廻り以上大きくなっている。着替えてグランドに行くと、監督が部員全員にホームベース前に集合するように言った。全員が揃うと、監督は「急なことだが、今日から新しく野球部の監督になる池崎君だ」とみんなに紹介した。森次郎は、少し驚いた。浩輔は、野島に感謝したい気持ちだった。新しく監督になるのは、森次郎のボールを受けてくれていた野島のアシスタントコーチだった。野島は、森次郎を守るために池崎を監督として派遣したのだ。前監督は、池崎の紹介を終えると、グランドを去った。
 池崎は簡単に自己紹介すると、練習前のストレッチを教えた。とにかく寒いので、入念にウォームアップするよう徹底した。怪我をしたら元も子もない。みんなの身体が温まると、各人に守備位置に着かせて実戦形式の打撃練習をすることにした。まず、打席には森次郎が入ることになった。ピッチャーは背番号一を付けていた沢口だ。森次郎はほとんど打撃練習をしたことはなかったが、沢口が投げた速球を軽々と打ち返した。十スイング中、七スイングがヒットで、その内三スイングは外野の頭を越えた。浩輔は森次郎のセンスの良さに目を細めた。池崎も彼のバッティングセンスに感心していたが、彼のピッチングを知っているので驚きはしなかった。池崎は、沢口のコントロールの良さに手応えを感じていた。森次郎が連投しなくても、沢口でもそこそこやれると思ったのだ。実際、沢口がコーナーに投げわけると、森次郎以外のバッターはなかなかヒットを打てなかった。
 いよいよ森次郎が投げる番がやってきた。浩輔が乗り移ると、克也を相手に投球練習を始めた。肩が温まると克也に駆け寄り耳打ちした。二人で簡単なサインを決めた。内角、外角と低め、高めとコースだけは森次郎がサインを送ることにした。球種は速球だけに限定した。克也が座って、ミットを構えると、森次郎はサインを送った。最初のバッターをびびらせてやろうと、内角高めに投げることにした。森次郎が八分の力で投げると、克也は見事にキャッチした。バッターは腰が引けて、のけぞった。浩輔は高校生相手でも手加減しない。常にコーナーを狙って投げるよう心がけた。五人のバッターに投げたが、ボールに当てた者はいなかった。
 池崎は、部員全員の体力測定を行い。各部員個人個人に合った基礎トレーニングメニューを作成して、各人に配った。上半身の力が弱いものには、上半身を鍛える基礎トレーニングを中心としたメニューを、持久力がないものには持久力をつけるメニューを、という具合だ。考え方は野島と同じで、部員一人一人に自主性と自立心を植付け、自分に責任を持たせるようにした。彼らは、学生スポーツ、特に高校スポーツは、勝つことより人間の育成に重きをおくべきだと考えていた。組織の中での個人とその責任を明確にした。二週間後に、もう一度体力測定を行い、向上が見られないものにはメニューの変更などの対策をとることにした。二月中の全体練習は短時間で終え、基礎トレーニング中心の練習メニューにした。
 克也はまだ森次郎のカットボールにてこずった。なかなか捕れないが、後ろに逸らすことはほとんどなかった。浩輔は、克也の身体能力のよさに感心した。ピッチャーのボールをホームベースの五メートル前で捕る特訓により、克也はキャッチングだけでなく、バッティングも上達していた。その特訓によって、ボールを見る能力が向上したのだ。
 三月は紅白戦など実戦練習を中心にし、四月から始まる対外試合に備えた。監督の池崎は、部員の能力を見極め、森次郎をエースで四番バッター、さらにキャプテンに指名した。


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