十六歳のアメリカ ベースボール 二七、カーシャウ家へ 89 | 六月の虫のブログ

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 カーシャウさんの知り合いの結婚式に同行することになった。アメリカでの結婚式出席は、これが初めてだった。三つ揃えのスーツを着込んで結婚式の行われる教会に向かった。この頃になると、スーツを着るのも、ネクタイを締めるのも、慣れっこになっていた。毎週日曜日、ワドリー夫妻と教会のミサに行く時と同じだ。ただ、今回はミサではなく、結婚式に出席のための教会行きだ。教会の前では、両家の親戚や友人たちがお互い挨拶し合っていた。カーシャウさんは、教会の入り口の前で談笑している人たちと挨拶を交わし、ボクをその人たち一人一人に紹介してくれた。ボクたちは、挨拶しながら教会の入り口へ向かって進んだ。外が快晴の小春日和だったので、教会の中が非常に暗く思えた。外で談笑していた人達も、教会の中に入ると静粛になった。

 この結婚式の中で一番印象に残ったのは、花嫁、花婿の指輪の交換でも、誓いの言葉でもなかった。それは、賛美歌としてビートルズの『レット・イット・ビー』が歌われたことだった。この日まで教会の中では伝統的な賛美歌しか聞いたことがなかったし、まさか神聖なる教会で長髪のイギリス人のポップ・ミュージシャンが作った曲が聞けるとは思わなかった。確かに『レット・イット・ビー』の歌詞の中には、聖母マリアが出てくるし、歌詞の内容も宗教的と言えば宗教的だ。でも、参列者の中には、教会の中でポップが歌われたことに驚いたり、不満を持った人もいたようだ。この当時は、まだ教会の中でポップ・ミュージックが演奏されるのが珍しかったらしい。しかし、よく見ると、教会の祭壇の上に飾られている十字架に張り付けになっているイエス・キリストも長髪で、髭を生やしている。外見はキリストも、レノンやマッカートニーと変わらない。キリストも彼の生きた時代においては、ポップな存在だったのだろう。

 式が終わると花嫁、花婿と記念写真を撮ってもらった。花婿は、ボクをこの後開催されるレセプション(披露宴)に誘ってくれた。カーシャウ夫人はボクにウインクすると、花婿にボクたちもレセプションに行く予定でいると伝えた。時間があったので、一度帰宅してからレセプション会場に出掛けた。レセプションは、非常にカジュアルなもので、食べ物も飲み物もセルフ・サービス形式だった。テーブルや椅子は部屋の隅に追いやられていて、部屋の真ん中はダンス・フロアとして広く開けてあった。舞台では、バンドが音楽の演奏準備をしていた。食事が一段落する頃に、バンドが演奏を始め、多くのカップルが部屋の真ん中に出てきて踊り出した。レセプションでは、ダンスでお互いの家や友人との親睦をはかる。カーシャウ夫人に誘われて、彼女と一曲踊った。その後は、花嫁の友達などとスローな曲を数曲踊った。ボクがコーラを手に休憩していると、花嫁がボクのところにやって来て、ダンスに誘ってくれた。非常に光栄なことだ。彼女と踊ったのはスローな曲だったが、彼女はこの日ボクが踊ったどの女性よりもボクに身体を密着してきた。ダンスは彼女に完全にリードされたままだった。曲が終わって、ボクが彼女にお礼を言うと、彼女は黙ってボクの口にキスしてくれた。彼女の幸せを、ボクに分けてくれたんだと感動した。



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                新郎と新婦。


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新婦と踊るボク。