第二部 吉野 森次郎
四、佐々木裕香 (つづき)
いよいよ横浜高校との試合の日がやってきた。浩輔は森次郎が彼を見るなり「浩輔さん、今日はよろしくお願いします」と言ったので安心した。森次郎に浮ついた気持ちはなさそうだ。戸塚駅で待ち合わせした弘子も、森次郎が少し緊張している様子を見て少し安心した。でも、弘子は裕香が現れたら森次郎がどういう態度をとるのか、それを見極めるまで安心できないと思っていた。
森次郎と弘子は早慶高校に着くと、チームメイトたちとバスに乗り込み、横浜高校へ向かった。バスの中では森次郎や克也は冗談を言い合うなどリラックスしたものだった。監督の池崎は、この試合の結果如何で夏の甲子園がどれだけ現実味を帯びるのかが分かるだろうと考えていた。
森次郎たちが横浜高校のグランドに到着した時、既にエヌ・ビー・シーの取材陣は準備を整えていた。森次郎は裕香たちに帽子を取ってお辞儀すると、いつものようにウォームアップを始めた。弘子は森次郎が普段どおりなのを見て、ほっとした。横浜高校は自分たちが取材の対象ではないことに少し不満を持っているようだ。横浜高校の監督は、池崎に「君のところのピッチャーがどれだけ凄いのか知らないが、うちには通用しないと思うがね。テレビ局の取材がくたびれもうけにならないといいが」と皮肉っぽく言った。池崎は「今日はよろしくお願いします」と受け流した。
浩輔は取材陣の中に、解説者で元ライオンズの選手がいることに気づいた。彼が森次郎のピッチングを見ると、浩輔そっくりだと思うだろう。ただ、直球がムービングファストボールになったのとカットボールの切れが良くなっているので、浩輔以上と思うかもしれない。浩輔も森次郎とともに進歩していたのだ。
つづく・・・
