わたしには名前がありません…

ここにくる前に覚えていることは、

ペットショップで周りの子犬たちが優しそうな人たちに

抱かれて連れていかれるのにわたしだけはいつまでも

ガラスケースの中で誰か遊んでくれないかと

待っていたことだけ。

「売れ残った...」

そんな声が何度か聞こえてきました。

ある日お店の人がわたしを段ボールの箱に入れて、

タバコ臭いおじさんに渡してから、

この薄暗い建物に連れてこられました。

ここではペットショップのように綺麗にしてはもらえません。

ここにきてから洗ってもらったことなどありません。

食べ物も1日に1回もらえるかもらえないか...

鳥カゴみたいなオリの中で、

針金のすのこの上に乗せられて暮らしています。

そのせいで針金が肘や膝そして肉球に食い込み、

つねに血がにじんでいます。

ウンチはすのこの上に溜まり、たまにしか掃除はしてくれません。

いつも気が狂いそうなかゆみといたみ、

そして悪臭の中で暮らしています。

わたしはここから出たことがありません。

ここから見える地面というものが

どういう感触なのかもわかりません。

ここに来てからおもちゃで遊んだこともありません。

柔らかな寝床で寝たこともありません。

ショップでお姉さんが抱いてくれて以来、

誰かに優しく抱かれたこともありません。

なにより愛されたことがありません。

ただここで死ぬのをまつだけ。

来る日も、来る日も…

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