急に寒くなってきました。寒冷前線が活発となり,暖かめであった秋は過ぎ去りました。各地で積雪の便りが伝えられています。そんな中、やはり勉学の秋というわけです、色々な医学講演会に時間があれば参加しています。講演会は、それぞれ各地の会場で行われています。そして時には同一日に複数の講演に参加することがあります。そんな時には、いわゆる講演会の梯子をすることになります。先日、講演会場の移動のため神戸の町を歩く機会がありました。街を行く皆さん、すっかり冬衣装を纏っていました。寒い風が吹く中、元町通りで面白い看板に出会いました。それは私の好きな神戸をモチーフにしたコンピュータ動画です(写真)。なかなか面白く神戸を紹介しており、寒さを忘れてつい見とれてしまった次第です。

 

写真 コンピュータ動画の看板

 

 今回は知らないため、勘違いをすることについて考えてみました。そのきっかけとなったことは、先日体験したある出来事です。それは講演会に参加するため、某ホテル(写真に写っているホテルです)の会場へいく途中に起こりました。最寄りのJR三宮駅からホテルまで運行しているシャトルバスがあり、ちょうどうまい具合に出発時刻でしたので利用することにしました。私にとって初めてのシャトルバス利用でありました。ホテルのホームページに掲載されているバス乗り場へ行きますと、すでに大勢の人が待っていました。こんなにもバスを利用する人がいるのかと少し驚きながら、列の最後尾に並びました。やがてバスが来たので大勢の乗客が出入口に向かって移動しはじめました。その時のことです。隣にいた男性が「ちゃんと並んで下さい」と声をかけてきました。初めてそこで気付いたのです。何と、私が列の最後尾と思っていたところが実は最前列であったのです。少しバツの悪い思いをした次第です。たしかに図1に示したように前後を誤認しやすい状況ではあります。列の最後尾の人が待合室の出入り口に向いて待っているのですから。しかし、「もう少し注意すれば勘違いしなかったのかな」と後で反省しました。このような個人レベルでの知らなかった、そのための勘違いをするというのは、それほど大きな問題ではないと思います。しかし医学については、知らない、勘違いするということは大変な問題につながる危険性があります。そこで今回、医療に携わる医師があまり知らない、そのため勘違いをしているかもしれないことについて考えてみました。そのひとつの例として一般の人々がインフルエンザの予防接種に対する考え方や対応に注目してみました。

 現在、各医療機関、とりわけ小児科・内科の医療機関には、大変多くの方がインフルエンザの予防接種を受けるためにつめかけています。このように大勢の人々を前にして予防接種をしている医師は、本当に多くの人々がインフルエンザの予防接種を受けているのだと思いがちです。でも実際のところ、どのぐらいの数の日本人がインフルエンザの予防接種を受けているのでしょうか。その接種状況の実態について「我が国におけるインフルエンザワクチンの予防接種率」という論文(日本公衆衛生学会誌、6173543592014)には、数千件に上る医療機関の調査をしたところ日本人全体では推定38.6%の人が受けたとの報告をしています。また雪印メグミルクが平成 26 7 月に2401 名を対象にインターネット調査をした結果によると、インフルエンザの予防接種を受けた人は 25.5%、受けなかった人は 74.5%という結果でした(2)。その他の調査でも、概ね30%程度の日本人がインフルエンザの予防接種を受けていると報告しています。つまり日本人全体の約7割程度にも及ぶ大勢の人々はインフルエンザの予防接種を受けていないのです。さらに予防接種の先進国・アメリカにおける1002人を対象とした調査結果でさえ、インフルエンザの予防接種を受ける予定の人は60%であったとされています(HealthDay News Physician's Briefing 2019104)。アメリカ人でも半数弱の人はインフルエンザの予防接種を受ける予定がないのです。このことから分かるようにインフルエンザの予防接種を受ける人はMRワクチンなどの他の予防接種に比較すると少ないのです。因みに麻疹についてはひとつの集団における予防接種率が95%以上あれば集団免疫効果がありと判定され、麻疹の大流行が起こらないことが知られています。麻疹とインフルエンザを一緒に論じることはできませんが、インフルエンザ予防接種は集団免疫を獲得するほど実施されていないのです。このようにインフルエンザの予防接種を受ける人は少ないのです。

 いずれにしろ目の前いる人の予防接種に専念している医師は、インフルエンザの予防接種を受けている人が全体として少ないという現実を知らないのです(ないしは興味がありません)。さらに社会全体としてインフルエンザ対策が出来ているという勘違いを医師はしている可能性もあります。つまり医師の感覚と現実にはズレがあるのです。将来的に医師は、予防接種を受けない多くの人への対策をもっと講じていく必要があります。そのためにはインフルエンザの予防接種を受けない理由を理解することも大切です。その理由には予防接種への抵抗感、高価であること、面倒であること、さらに別に理由もなくただ無関心ということが挙げられています。なかなか現状の改善は難しいところです。それでも医師は目の前ことにとらわれて勘違いすることなく、正しく現状を知っていくことが大切とあらためて考え直しました。   1125

 

1 待合室の状況

   左上が最後尾、右下が最前列

   私は最後尾と最前列を誤認して並んだ状態

 

2 インフルエンザ予防対策に関する

     インターネットによる意識調査 

   雪印メグミルクによる調査結果

https://www.meg-snow.com/news/2014/pdf/20141112-942.pdf