台風19号が日本列島、特に関東・東北地方を中心に大きな被害をもたらしました。ここ50年の間では最も広範な地域において堤防決壊が引き起こされたとのことです。多くの河川が氾濫しました。たくさんの家屋が浸水し、避難所生活を余儀なくされている方も大勢おられます。不自由な避難所生活の苦労は大変なことと思います。私自身も20数年前に阪神淡路大震災を経験し、その難渋なことは大変よく理解できます。被害の全容は現時点(1025)では、まだはっきりしません。本当に心が痛むところです。さらに避難所では感染症が蔓延することが危惧されます。そんな思いから日本環境感染症学会が策定した「避難所における感染対策マニュアルを手にとってみました。

 本マニュアルは20113月に東日本大震災の教訓をもとに作成されました。ただ様々な感染症を対象に解説しているため、少し長文となっています。そこで分かりやすいようにとエッセンスとして「感染予防のための8か条」(1)として呈示されています。これが読み易く、大変に実用的な内容となっています。ここら全文を引用させていただきますので一度、目を通してみて下さい。

 

           

           図1 感染予防のための8か条        

http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/disaster_con_5.pdf#search=%27%E9%81%BF%E9%9B%A3%E6%89%80%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B% HYPERLINK "http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/disaster_con_5.pdf" HYPERLINK "http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/disaster_con_5.pdf" HYPERLINK "http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/disaster_con_5.pdf"E6%84%9F%E6%9F%93%E5%AF%BE%E7%AD%96%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AB+8%E3%81%8B%E6%9D%A1%27

 

 このようにマニュアルを読み理解の上実践しても、避難所では感染症の発症・蔓延が心配されるところです。それは避難所では心身のストレスから皆様の免疫力が低下していること、加えて狭い空間に人間がいるので感染症の蔓延が容易な環境だからであります。

 ではどうすればよいでしょうか。これにヒントを与えてくれるもののひとつにサーベライアンス(surveillance)という手法があります。そこでサーベライアンスについて紹介いたします。

サーベライアンスとは調査監視という意味ですが、医学では「疾病の発生状況を正確かつ継続的に調査、把握しその情報を基に疾病の予防と管理をはかる一連のシステム」と定義されています。早い話、感染症の流行を阻止するための正確な情報システムのことです。もっと分かりやすくいえば「インフルエンザが流行しはじめた」ということを広く知ってもらい適切な対応をとろうということです。サーベライアンスは1950年ごろアメリカで考案され、1970年代には有効な医学的手法として確立されました。日本でサーベライアンスが有効であった実例を挙げてみます。

20159月、今回と同様な豪雨が関東・東北にあり、避難所が設置されたときのことです。その際、直ちに茨城県では「避難所サーベライアンス」を立ち上げ、避難所での感染症の発症状況の把握に努めました。その活動内容は日本公衆衛生学会雑誌(日本公衆衛誌 第168:3-9,2018)に報告されており、有意義な教訓をうかがい知ることが出来ます。

同報告の一部を具体的に紹介してみます。図2B避難所において発症した感染症のサーベライアンスの経過状況です。図の左を見るとわかるように911日に多くの急性呼吸器症状の人が発生しました。そこで避難所にいる人々に対し、注意喚起、マスクの着用、咳エチケット、早期受診などが勧奨され、これらが実施されました。その努力が成果を上げ、急激に急性呼吸器症状の人が少なくなってきました。ところが925日にかけて再び呼吸器症状の人が増加してきました。そこで患者さんを別に隔離・移動するなどの措置がとられました。その結果、その後には大きな感染症の発生は見られなくなりました。幸い図右に示したように避難所閉鎖の12月上旬まで大きな感染症の発生はみられませんでした。このように正確なサーベライアンスを作成し、適切な早期対応が感染症の発生阻止に大変有意義であることが分かります。神戸市でも感染症のサーベライアンスが毎週報告されており、医療機関はこれを参考に感染症流行状況を把握し日々の診療に臨んでいます。    1025

        

2 B避難所における報告症例数 

日本公衆衛生学会雑誌 65 (2018) 1 号からの引用