常用漢字表といふのは、要するに普通の日本人が日常生活で使用する漢字の大枠である。はじめから専門用語で用ゐるやうな特殊な漢字は想定してゐない。


そして日本工業規格の漢字表は明らかに、常用漢字表の影響を受けてゐる。勿論、常用漢字表だけでは人名や地名さへまともに表示できないので、日本工業規格がサポオトしてゐる漢字はもつと多い。


しかし、使ひものにならない、といふ點では、日本工業規格の漢字表も似たやうなものである。通常のパソコンは第二水準までの漢字を表示できるが、この第二水準がくせものである。


試に記紀の神々の名前などを打込むでみよ。すぐに漢字がまともに入力できない事に氣づく。民族の古典も四書五經もまともに電子化できないのが、今日の日本の電腦環境である。


國文科の學生はパソコンで論文等書かないのだらう。さういふ需要があれば、色々と不滿の聲が挙がる筈である。青空文庫で入手できる文藝は、明治以降の現代物ばかりである。


『古事記』が眞面にテキスト・ファイル化されてゐれば、「素戔嗚尊」が何囘、出て來るかのやうな檢索がパソコンで可能になる。かういふ需要は本當に無いのだらうか。


パソコンやコンピユウタで使ふ日本語は、現代語だけで本當に良いのか。僕はこの賦録を書くだけで、字體の不足や不自由さに困惑してゐる。


常用漢字のやうな現代文の基準漢字表の他に、記紀や八代集、四書五經を書く爲の漢字表も必要なのではないか。未だにそんな提案が何處からもなされない事が、僕にはむしろ不思議である。