「はなれ瞽女おりん」の魅力。

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新国立劇場での
「女」三部作 一挙上演

いよいよ来週末に開幕が迫って参りました。

今回は2日目の演目である、「はなれ瞽女おりん」の魅力についてお話いたします。





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昨日まで、「王女メディアの物語」のメイキングレポをお届けしておりましたが…、あちらがダンボールなら、こちらは新聞紙!!

舞台美術は大量に敷き詰められた新聞紙です。


この新聞紙が、動きや光の当て方によって、様々な情景を表現します。


北陸の四季の情景…
しんしんと降る雪、吹雪、日本海の荒波、桜、茂み、紅葉、川…
人々の有象無象感…、人々の魂…、

場面ごとに印象を変えてゆきます。



音楽は全てオリジナル曲です。
私が口三味線で歌ったフレーズを、滝川弥絵さんがピアノに起こし演奏してくださいました。

そうなんです…
私、作曲はするんですけど楽譜も書けない、ピアノも弾けない…なんです。
少し歌っては弥絵さんがピアノで弾く、私の頭の中のメロディと一致したらそのフレーズを楽譜に書く…という実に地道な作業だったのです。



おりんの前日に上演する「王女メディアの物語」の音楽は全て既存のバロック音楽です。それはそれで素晴らしい選曲です!!音楽監修のセバスティアン・マルクさんの類い稀なセンスで選曲された楽曲は、劇世界にあまりにもハマっています。
 


一方おりんは全てがオリジナル曲で、主人公おりんが粛々と旅を続ける様子に想いを馳せながら作曲しました。私自身、この曲が流れた瞬間に、情景反射的におりんの世界へトリップしてしまいます。



因みに…、3日目に上演される「毛皮のマリー」は音楽が一切なし!!出てくる曲といったら私が鼻歌程度に歌うアカペラのみ。おりんもメディアも休憩が入りますが、マリーは休憩もなく、また、私は一度も舞台の袖へ消えることなく2時間演じっぱなし…という作品です。


この3つの全く異なる世界観…、皆さんのスケジュール的にも難しいかとは思いますが…、ぜひとも!3作続けてじっくりと味わっていただきたいものです。





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盲目の女旅芸人・おりんはどのようにして育ったのか…。彼女の生い立ちから描かれます。


2歳の頃のおりんが登場し、そこから、物語は時系列で進んでゆきます。



この2歳のおりん
現場でも大人気…。ファンも多い人形です。
私の友人や家族も、この2歳のおりんが出てくるだけで涙が出る…と言います。

この2歳のおりん、登場は最初だけではありません。2幕ラストのある場面でほんの少しだけ再び登場します。あの瞬間にかける思いが色々とあるのですが…説明はあえて割愛しておきますね。



おりんの人形達…
デザイン画こそ、私が描きましたが、
人形の構造と彫りは、人形作家の川口新(あらた)さんに依頼しました。あらたさんの見事なセンスと技術が光ります!!この2歳のおりんの口元の愛らしさ…、大人のおりんの口元に漂う色気や悲壮感…。あらたさん、お見事です。

小道具や衣裳は、人形劇団プークさんにお世話になりました。どれもこれも丁寧に美しくつくられており、愛情がいっぱい注がれています。

おりんの髪の毛や衣裳に使われているベロア生地は、なんと…全て!染めています。配色カードで私が色指定をした後、全て手作業で染められました。市販のベロア生地では色が限られる…ということで、全パーツ、白のベロア生地から染めてゆく…という途方もない作業でした。





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これまで新国立劇場では「中劇場」で上演されていた「はなれ瞽女おりん」、今回、初めて「小劇場」で上演されます。2歳のおりんの姿もより近くに感じていただけることと思います。


何より、小劇場での上演によって、舞台全体の迫力を存分に味わっていただけることと思います。


全国公演でも比較的大きな会場で上演してきたため、今回、テクニカルスタッフや黒衣さんも、小劇場にどう納めようかと四苦八苦しております。舞台床面に付けられているバミリと呼ばれる印も、これまでの演出のままでは小劇場には納まらず、この度、全ての位置や導線を新たに検討しております。





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4歳の頃のおりん。
おりんの明るく前向きな声を聴ける瞬間です。目は見えませんが、日々の様々な音に耳を澄まし過ごすおりん。


6歳のときに瞽女としての修行が始まります。その細かな経緯は舞台でご覧いただくとして…



瞽女の世界には掟がありました。
男の人と交わると一座から落とされる。
仲間から外され、ひとりで旅を続けなくてはいけない。…という掟です。

一座から落とされた瞽女は「はなれ瞽女」、「落とし瞽女」…などと呼ばれる様になります。諸方各地の親切な瞽女宿に泊まることも許されず、村はずれの地蔵堂や阿弥陀堂を寝ぐらとして孤独な旅を続けるのです。



おりんが瞽女としての修行に入った頃はまだ子どもでした。そのような掟とは無縁でしたが、やがて、おりんも大人の女になってゆき、風貌も変化してゆきます。年頃になると、何とも言えぬ色気を出すようになり、村の若い男衆が次々と寄って来ます。





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おりんが初めて男を知る場面です。

二心二体の演技です…。
ここはきっと、2人の別々の存在を感じていただけることと思います。



おりんのナレーションは場面によっては録音が流れます。それはそれで、空気感の変わるメリハリが出て良いのですが、場面によっては生声の演技でナレーションが語られます。


この交わりの場面の後のナレーションは、おりんの人形を寝かせたまま、私は少し離れた位置から、おりんの気持ちを語ります。おりんのカラダが幽体離脱をして、自分で自分自身を俯瞰で見つめながらその役の台詞を言う感じ。この手法は「ジャンピングラビット!!」という作品で生まれ、その後「お花のハナックの物語」のハナックの衰弱の場面などでも用いられました。人間劇と人形劇を融合させた舞台ならではの演出です。


おりんの人生のターニングポイントとなるこの瞬間。静かなナレーションですが、心して語るようにしています。


おりんナレーションの一部「…おら、待っていたものがようやく来たかのような気持ちになって、悦びとも、不安ともつかぬ気持ちがうずまいて、朝まで眠れませんでした。闇の中で静かに抱かれたのだから誰も知らない。黙っていさえすればわかるまい。そう、信じていました…」



その後、このことが座元に知れて、おりんは一座を落とされることになります。





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いきなりバックステージ写真ですみません。

おりんの親方のテルヨなど、おりん以外のキャラクターはこれらの黒いパネルで影の様に表現されます。舞台写真ではわかりにくいので、バックステージのものを載せました。

おりんが男と関係を持ったという噂話をイソ子という瞽女がテルヨに告げ口する場面。なんともリアリティがあります。シンプルなパネル人形ではありますが、その様子がマジマジとそこにあるような気がして、妙な緊張感を舞台に与えてくれます。



因みに一番左は2幕に登場する30代のおりん。
その隣は1幕前半に登場する17歳のおりん。雪道で初潮を経験する重要な場面で遣われる人形です。ストーリーが前後しますが、おりんが初潮を経験した後、「月やく」についてテルヨがおりんに諭す様に語る台詞もぐっとくる名台詞です。





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はなれ瞽女となったおりんが孤独に村々を巡った後、とある阿弥陀堂で平太郎と出会います。




当初は平太郎も人形で演出しようと考えいました。デザイン画を何枚も描きましたがどうもまとまらず…。自分のカラダで演じることを決断しました。それによって、おりんと平太郎が寄り添い旅をする様子も際立つと判断したからです。


平太郎を演じつつ、私のカラダは、おりんと最初に交わる男「助太郎」や、2幕に登場する薬屋「彦三郎」なども演じます。彦三郎もまた、おりんに欲情する男。それらの役柄と平太郎を同じカラダで演じ分けることはどうかと思いましたが、演じ方を変えればそこは別人になるものです。この作品で培った人間芝居での演じ分けは、後の「オペラ座の怪人」のヒントとなりました。




それぞれの役柄を演じる度、不思議な客観視が自分に生まれます。この不思議な客観視が色濃くなってきたのもこの作品からの様な気がします。

たいらじょうではなくなる感じ…。それを冷静に別角度から見つめるもうひとりのたいらじょう。演じながらも、それぞれに役柄に色々な感想を抱いている感じ…。実に不思議なんです。人形こそ遣わないものの、その演じ方は実に人形劇的なのかもしれません。





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川での行水シーン。

この作品を勉強した際、この場面の美しさにまず惚れました。


平太郎「おりん、そこにじっと立ってみりゃ。仏さまのようじゃ。」



おりんは自分のことをここで抱いて欲しい…と平太郎に頼みます。



この2人には男女の関係はありません。平太郎はおりんのことを妹の様にしていたい。一方おりんは、一度で良いから平太郎に抱いてもらいたい。

この日、思わず平太郎はおりんを抱き締めます。しかし、それ以上のことは何もありません。





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この場面、原作では実に美しい情景描写が成されています。


《  平太郎が、じゃぶじゃぶと水を切って歩いてきて、おりんの前に立ち、大きく息をはきながら、ぬれたおりんを真正面から抱いてくれる。 》



この場面で私が演じる平太郎が深呼吸をしているのは、私の個人的な演技プランではなく、原作の中で豊かに描かれている描写が元になっているのです。





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平太郎は言います
「いとしげな、いとしげな、仏さんじゃ」



そしてここでも、原作では素晴らしい描写が…


《  おりんの腹が千切れるほどに平太郎は抱いた。》




この、腹が千切れるほどに…という表現、水上勉さんの言葉。しびれます。




岩下志麻さん主演の映画では、この場面では抱き締める描写がありません。色々な考えがあってのことなのだと思います。

私の舞台版では、ここは原作に忠実な描写にしました。


新聞紙を敷き詰めた演出が際立つワンシーンでもあります。





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2幕でも様々なドラマがありますが、劇場でお楽しみいただくことにしましょう。

3名の黒衣(くろこ)さんによる美しい動きも素晴らしいものがあります。作品に寄り添うかの様に、無駄のない洗練された動きで劇世界を支えます。しなやかにこなしておりますが、実は、かなりハードな動きです。歴代、様々な業界の方が黒衣さんを務めてくださっていますが、今回は、女優の牛頭奈織美さん、俳優の藤井悠平さん、ダンサーの新井彩冬実さんが、メディアとおりんの黒衣を務めてくださいます。彼らの細やかな気配りにどれだけ助けられていることか…。一方で、3日目の「毛皮のマリー」では黒衣さんは出ません。その劇世界、演出の違いの面白さを続けてご覧いただけるのも、今回の3部作の魅力です。





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おりんのラストメッセージ…
魂のメッセージです。
この瞬間は、劇場空間が不思議な空気に包まれます。じっくり堪能してください。




おりんが旅した地域…北陸
そんな北陸の出身者でもある照明家・松村剛(ごう)さんの照明もみどころのひとつです。

影があってこそ光が存在する…
そんな思いが伝わる美しい照明は身震いするほどに感動的です。


様々な色を多様した舞台照明ですが、おりんのラストメッセージの場面は、色味を最小限に抑えています。


北陸の「曇天(どんてん)」
ごうさんとの打ち合わせの折、この「曇天」が合言葉の様に何度も出てきました。おりんのラストメッセージでの曇天にはえも言われぬ不思議な美しさがあります。





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そして、新聞紙演技のラストシーン。
照明も実に神々しくなってゆきます。



冒頭は北陸の四季の描写で始まり、1曲の間にスピーディーに春夏秋冬が表現されます。

初演の際は、ラストシーンでもう一度、この四季の描写の演出が行われていました。



現在、ラストシーンは初演から進化を遂げ、人々の儚い命を賛美する場面となっています。1枚1枚の新聞紙に命を感じながらのラストシーンです。

この場面については演出補であり事務所社長の輪嶋東太郎さんと何度も話し合いを重ね、稽古を重ね、現在のかたちに深まりました。この場面で、皆さんの心に色々なものがよぎることと思います。



人は誰もが自分の人生を旅しています。


おりんの孤独な旅に思いを馳せながら、あなたの人生のドラマと向き合うひとときになることを願っています。



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公演情報
詳しくは…
をご覧ください。




「はなれ瞽女おりん」は、2011年、神奈川芸術劇場KAATのオープニングラインナップとして企画・制作され初演を迎えました。

その後、奈良県大和高田さざんかホールにてツアー初演を迎えた後、全国各地を巡回して参りました。

この作品の誕生にご尽力いただいた全ての皆様、また、本作の舞台化に温かなご理解をいただいた水上勉さんのご遺族・関係者の皆様、その後の各地での上演に携わってくださった全ての皆様、そして、この作品を愛し育んでくださったお客様に感謝申し上げます。

この度、「はなれ瞽女おりん」が、2年振りに上演されます。関係者の皆様、どうぞよろしくお願いいたします。そしてご来場いただくお客様、日曜日の貴重なお時間を頂戴しますこと、感謝申し上げます。ごゆっくりと、お楽しみください。





人形劇俳優 たいらじょうの世界
「女」三部作 一挙上演
@新国立劇場

開幕まであと…9日!



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