Keith Jarrett
Spirits 1 & 2

さて、チックハービー と来ると当然キース・ジャレットも挙げないわけには行きませんよね!

発表したアルバムが数多いキースですが、彼のベストのアルバムって何なんでしょう?

私にとってはこれ、『スピリッツ』です。

このアルバムはキースが何種類ものリコーダーやトラッドリコーダー、ソプラノサックスやギター、パーカッション、それにちょこっとピアノも含めた、全部の楽器を2トラックカセットレコーダーを使ってどんどんオーヴァーダブしていった、非常にフォーク&民俗タッチの強い小曲集です。

えっ、相変わらず天邪鬼な奴!ですって?

でも、ジワジワと心に沁み込んでくるメロディがたっぷりと詰まった、本当に素晴らしいアルバムなんですよ。

一時期キースはリコーダーに本当にはまり込んでいて、リハーサルでも隅の方でずっと吹いてたり、ステージに出て行く前に袖で吹いて精神統一したりと、まさにべったり状態だったようです。

そんな彼の愛情と努力の結晶がこの作品なのかも知れません。

そもそもどうして私がこのアルバムを知ったのかと言うと、瀬木貴将という日本人サンポーニャ&ケーナ奏者がいるのですが、彼が『LUNA~星の旅~』というアルバムで「スピリッツ」という曲を佐山雅弘のピアノとのデュオでやってて、あまりの素晴らしいメロディに打ちのめされたのです。

で、作曲がキースとある。

オリジナルを探し回ってたどり着いたのがこのアルバムだった、というわけです。

「№15」が件の曲のオリジナルヴァージョンです。

徐々に徐々に重ねられていくリコーダーが、根源的な感動を呼び覚まします。

2枚組分たっぷりのヴォリュームなので全部聴き通すのはそれはまあ辛いかも知れませんが、ポツッポツッと聴くのには非常にいい感じですよ。

「癒し」という言葉は嫌いなので使いませんが、興奮とはまた違った感動と共に、心が落ち着くのです。

本当に優しいメロディがいっぱい出てきます。

パット・メセニーも言ってたのですが、「キースは凄い作曲家なのに、最近やってることはトリオでのスタンダードばかり。どうしてもっと書かないんだろう?」。

全くその通り!

初期ECM時代の、アメリカン・クァルテットやヨーロピアン・クァルテットのあの怒涛のような作曲センス、そしてその類稀なメロディメイカーの才能があって初めて可能な『ケルン・コンサート』のような奇跡のインプロヴィゼイション。

キースは「ジャズ」を追い求めるあまり、代わりに何かを置いてきてしまったような気がしてなりません。


追記(8/09)

ところで、このアルバムはもう一つ、「音楽を作ること」に関するある問題を提起しているような気がします。

それは、本当に納得できる音楽を作るには、「一人きり」でやるしかないのか?ということです。

どんなに素晴らしく優れた共演者でも、「自分」が思い描いた音と同じ音は決して出しはしないのです。

もちろんそれゆえに「嬉しい裏切り」という奇跡の様なハプニングが起こり得るわけですが。

図らずもこのアルバムがキースの傑作の一つに聴こえてしまうということに、「スタンダーズ」という長年同じメンバーでやり続けるという究極の「バンド」をやっているはずの「天才」キースの矛盾と皮肉が感じられてしまいます。

一人であらゆる楽器を操れるブラジルのエルメートのような超天才ミュージシャンでも、「バンド」で演奏する。

そこに何か意味を見出しているのかも知れませんし、あるいはライヴでは一人で同時に全楽器をプレイすることが出来ないので、バンドでやる、のかも知れません。

自分だけの音楽があるミュージシャンにとっては、永遠に答えの出ない問題でしょう。


瀬木貴将のアルバムは、こちら↓。


瀬木貴将
LUNA~星の旅

↓は言わずと知れた『ケルン・コンサート』


キース・ジャレット
ザ・ケルン・コンサート