「これをTVで見てもねえ…」と、そんなふうに思いつつもとりあえず。ハリウッド映画の「音」の歴史を辿るドキュメンタリー映画『ようこそ映画音響の世界へ」、ちなみに原題は「Making Waves: The Art of Cinematic Sound」でありますよ。

 

 

言うまでもなく、映像を記録する技術が生まれた頃には全くの無音の世界だったわけですね。映像が記録され、再現されるということ自体が驚きであった当時、映像だけであっても十二分に人々を引き付けることができたのでしょう。されど、やはり映像を見ながら、本来付随しているはずの音声が無いことに物足らなくなってもきましょうし、それなら補ってやれと弁士が登場したり、オケ伴が付けられたり…となっていきますなあ。

 

そこにトーキーという、映像と音声が同時進行する技術が開発され、あれよと言う間に映画の主流になっていくわけですが、このあたりは映画『アーティスト』でも描かれたところであろうかと。さりながら、技術的には映像と音声をシンクロさせるというのは決して簡単なことではなかったと。こうした裏の事情は先の映画などの埒外、楽屋裏の話といえましょうけれど、そうした点も映画音響黎明期の出来事として紹介されておりましたよ。

 

さて、映像とともに役者のセリフがあり、音が付いていることが当たり前となってきますと、当たり前を超えて観客に与える音響の効果に気付く人たちが出てきますですね。もっぱら現場にあったエンジニアたちです。ところが製作者(プロダクション)の側では、音響に凝ることは経費がかさみ、かさんだだけの費用対効果が得られないと、極めて後ろ向きに考えていたようで。

 

時はTVの台頭著しく、映画に斜陽化を辿り始めた頃。まあ、観客減で収益が上がらないことで守りに入るのも分からなくはありませんが、この1960年代、むしろハリウッドは歴史超大作など、実に莫大な予算のかかる映画を作ったりもしていたわけで、要するに音響効果に対する認識が及んでいなかったということなのでしょう。それが「やっぱり音響にはお金かけた方がいいんじゃね?」となったのは『スターウォーズ』(1977年)がひとつのきっかけであったかもしれないようで。

 

「効果音」というものは昔からあって、例えば映画『ラジオの時間』にも、ラジオドラマで用いる昔ながらの効果音の作り方が出てきたりしたですね。ですが、この効果音、基本的には誰もが聴いたことのある自然音や鳥の鳴き声などをいかにそれらしく再現するかということであったわけですが、『スターウォーズ』のチューバッカの声(鳴き声?)など、誰も聴いたことのない音声を作り出すのも、音響担当者の仕事だったりするのですよね。

 

その後の『ジュラシックパーク』に聞く恐竜の鳴き声も、何となくそれらしいものとして受け止めてしまっておりますが、これなども音響担当者の苦心作だったりするという。決死の覚悟で?いくつもの猛獣の声の収録を敢行した上で、ああでもない、こうでもないと絶妙なブレンドを見つけ出したわけなのですなあ。

 

さらに音響の世界は単なる効果音の再現にとどまらず、観客の心理に訴えかけることにも向かいますね。どんな音をどんなふうに流せば(はたまた音を流さず無音にするかも含め)、緊張感を、恐怖心を、わくわく感を抱かせることができるかどうか。

 

映画の中の音と言えば、セリフは言うまでないながら、もっぱら音楽のことを思い浮かべてしまい、アカデミー賞でも作曲賞やら主題歌賞やらは注目もされますけれど、音響関係の賞はとても地味というか、マニアックというか。そうはいってもこのドキュメンタリーを見て、映画というのは映像体験であると同時に音響体験であるのであるなと、今さらながらに思い至った次第でなのでありました。