山梨県笛吹市のキャッチフレーズは「日本一桃源郷」というもの。
桃の収穫量では全国で一、二を争うくらいであるところからきているようでして、
春日居町あたりを歩いていても、こんな看板に出くわしたりするのですな。
桃の果樹が並ぶ道なのでしょう、季節が季節であればあたり一面桃色に染まるてな話もありまして。
考えてみると、何度も山梨に来ているものの晩秋から冬にばかり訪ねて、
あたかも枯れ木のような姿ばかりを目にしているような。また、いい折りに訪ねるとしましょうか。
と、桃ばかりでなくご当地はぶどうの収穫も多く、桃・ぶどうの観光農園もちらほら目につくわけですが、
ドイツビールで昼飯を済ませた「Bierkrug」の近くに、ぶどうの加工品を扱う農園があると聞き及び、
立ち寄ってみたのでありますよ。ぶどうの加工品といって、ワインではありませんですよ。
いかにもかつては養蚕農家であったろうという、この大きな建物が目印の「なでしこ農園」。
その取扱い品目のメインはといいますれば、ぶどう由来、バルサミコなのでありました。
屋敷の正面に回り込みますと、そこには「国産バルサミコ臨時直売所」と看板のあるプレハブが。
訪ねる人も少ないのか、臨時直売所は無人で、不在のときはお電話を」という番号にかけてみますと、
ほどなく母屋の玄関ががらがらと開いて、こちらへ来いと招き寄せられました。
一歩中へ入りますと、そこはかつての農家の空間をそのまま生かした製品ショールームとなっておりました。
応対してくださったおかあさんが園主さんであったとは…後から知ったことですが。
お話を伺うに、やはりかつては養蚕農家。あたりは一面の桑畑で、同様の農家がたくさんあったとか。
階上は宮様が泊まられた際の改築で(あとでHPを見ましたら秩父宮だったようで)
養蚕をしていた名残は無くなってしまったと言いますが、なかなかに目を引く威風堂々の建物です。
と、それはともかくバルサミコのこと。
料理に使うということと、ぶどう由来なんだろうなあということくらいの予備知識の者には
ここでもまた知ることがたくさんなのでありましたよ。
先にも触れましたようにもともとは養蚕農家だったわけながら、これがぶどう栽培に転換する。
山梨らしい殖産興業への対応のしかたですよね。後の山梨ワインの隆盛もここからです。
そんな中で(HPによりますと)「現在の園主はバルサミコの故郷イタリア・モデナの気候、歴史に
春日居の地と母屋の歴史が似ていることから、バルサミコ造りに挑戦し始めました」とは、
発想力がすごいですなあ。
とまれ、早速に試飲(?)をさせてもらうのでして、「サバ」、「ホワイト」、「ネロ」という3種のバルサミコですが、
スプーンにたらしてもらいながら園主さんのひと言に曰く「バルサミコはワインビネガーとは違います」と。
一般に「バルサミコ酢」とも呼ばれ、ぶどう由来であることからすれば
これは要するにワインビネガーなのではないかしらんと思うところながら、
先にミツカンミュージアムでも酢の製造過程を見ましたように、
アルコール発酵後の原料を酢酸菌で発酵させると酢になるわけで、
ぶどう果汁がアルコール発酵(つまりにはワインになる)して、
それを酢酸発酵させるワインビネガーとどう違うの?と思いますな。
まあ、大きくひと括りにはワインビネガーと言えないこともないのでしょうけれど、
濃縮果汁を長期に樽熟成させる点でいわばヴィンテージもの。
そうしたものにだけが「バルサミコ」と言えるのでもありましょう。
Wikipediaにはこんな記載もありました。
伝統的な生産方法によるバルサミコ酢は、大衆的なレストランや一般家庭で使うには高価になりすぎるため、熟成されていないブドウ酢を主体に着色料・香料・カラメルなどを添加し、大量生産によって作られた普及品が市場に出回っている。 この普及品は本来の製法で作られたものではないため、正確にはバルサミコ酢ではない擬似商品である。
確かにひとなめ程度ながら、味の深みは安っぽいはずもないと思わせるに十分。
それだけに普段遣いにはしにくい値段でもあろうかと思いますが、「ふだんプレミアム」にはいい感じかと。
先の3種をそれぞれ小さな瓶で分けてもらって、いちばん甘味の強い「サバ」をおすすめどおりに
市販のバニラアイスクリームにかけてみますれば、何とも贅沢なデザートの出来上がりといった印象が。
ここでもまた、いいものと出会ったなと思えたものでありました。





