昨年のお正月、国立劇場での平成29年初春歌舞伎公演がいかにも新春らしい、
華やかに賑々しくもある芝居であったのですなあ。
「通し狂言 しらぬい譚 (ものがたり)」という出し物でありました。
一年経ってもその印象が強く残ったままだものですから、
ついつい出かけた平成30年の初春歌舞伎公演@国立劇場、
演目は「通し狂言 世界花小栗判官(せかいのはなおぐりはんがん)」でありましたよ。
世に「小栗物」と呼ばれる作品群があるほどに
有名な「小栗判官」伝説をベースにしているとのこと。
もっとも例によって予備知識もなく、そうとも知らずに見に行った側は
「小栗上野介のことか?」などとうすぼんやり。
幕末の人が歌舞伎の長い歴史の中で「小栗物」といったものができるまでに
なるはずもなにのですけれど。
とまれ、小栗判官と照手姫の物語を扱った「小栗物」で
その決定版ともいえる歌舞伎作品が「姫競双葉絵草紙」という作品ということですが、
今回の公演はこの作品を「新たに補綴し、全体にテンポアップを図ると共に、
面白い趣向や演出を工夫して上演」するという試み。
いわば旧来のものをリメイクしたとも言えるだけに、
この辺が国立劇場という研究機関をも併せ持つ機関ならではの演目なのかもしれません。
四幕十場を、春夏秋冬と季節の移り変わりとともに場を設定してたどるといった興趣も
添えられておりましたよ。
二幕目は新春の初芝居ならぬ初笑いかと思われる笑いに溢れた楽しさを醸し
(昨年の初春公演ではピコ太郎もどきが登場しましたが、今回はパンダのシャンシャンもどき登場)
四幕最終場は冬の雪で真っ白になった中に輝かんばかりの那智大滝の瀑布を背景として、
これはこれで妙におめでたい感じがしたものです。
話としては「各地の寺社の縁起や霊験譚を絡めて描かれ」るという「小栗物」らしく、
祈願、祈念、怨みといったものがすぐに結果として形になって現れるという驚きの展開含みは
「おお!」というか「えっ?」というものでありましたなあ。
そんな驚きは最後の最後に明らかになる盗賊の素性にも言えることでして、
さすがに魑魅魍魎が跋扈する「太平記」に続く室町幕府、三代目義満の時代の物語だなと。
ではありますが、本来であれば補綴完成された新バージョンの物語は、
何度も上演を重ねられてこそ作品に磨きがかかっていくのでしょうし、
場面転換の点でも巧みになっていくことでしょう。
これはこれで音羽屋一座の活躍で面白かったとは思うのですが、
昨年の「しらぬい譚」に比べてしまうといささか落ちるとなりますと、
後に残っていく「しらぬい譚」の方になりましょうかね。
こちらもまだまだ磨けば光る余地はあろうとは思いますが。

