以前、「星間商事株式会社社史編纂室」なる一作を読んだことがありますけれど、
元が出版社勤めとあって、作者の三浦しをんさんには得意の分野でもありましょうか。
その三浦さん原作の映画化作品「舟を編む」は辞書編纂のお話でありました。


舟を編む 通常版 [DVD]/松田龍平,宮崎あおい,オダギリジョー


先に読んだものに見られた、やはりこれも三浦さんのお得意分野らしいBL色に
いささかたじろぎ、その後に他の話は読んでないですが、
映画ではおよそそうした系のことは無くって、なにより。
もっとも「BL ボーイズラブ」と、しっかり用例採集してましたですが。


話は出版社の中でも地味で今や日の当らない辞書編集部が舞台、
(ロケにいい感じの建物を選んだものです、隣の新社屋との対比がいいですね)
そこで起死回生?の新時代に適合した辞書を作ろうということになり…。


ま、後は笑いありの紆余曲折、涙ありの苦労話が織り成されていくわけですが、

ご存知の方も多いことでしょうから端折るとして、ここでは見ながら考えてたことをつらつらと。


本作の主人公たる馬締(まじめ)くんは出版社に営業として勤務してますが、

朴訥でおっとりした性格、当然に口は達者でなく、人付き合い以前に

今では社会人基礎力とか称してやたらに求められているコミュニケーション能力がどうも…。


となると、一般的な想像の範囲内かと思いますが、

営業マンとしての仕事ぶりはどうもいただけないふう。


馬締くんの経歴を見るに大学院で言語学を専攻していたらしいとなれば、

その仕事ぶりのいただけなさに、つい頷いてしまうところもありましょうかね。


この辺り、大学院出の就職の厳しさに繋がる採用側の思い込みを助長するところかも。

「お勉強好きの頭でっかち」「考える前にうごけっつぅの」と突っ込まなきゃいけないと考えれば

内定は出しにくい。


ただでさえ、(多くの企業には年齢給要素は多少なりとも残ってましょうから)

学部の新卒採用よりは高い給料を払わねばなりませんし。


と、考えると、そもそも馬締くんが出版社に採用されている設定自体に

リアリティーがないとも言えそうですかね。


高度成長期には、

例えば「社長シリーズ」のようなサラリーマン喜劇の映画がたくさん作られましたけれど、

映画だからかもですが、社内の様子からしてそもそもおっとりしており、

時間の流れもゆったりな気がしますし、人の関係にも温かみが残っていたような。


皆が皆では困りものですが、そうした中では「釣りバカ日誌」のハマちゃんのような存在も

よく言えばムードメーカーとしてそれなりの役割を果たしていたのではないかと。

ですが、そうした余地はもはや無い、ですね。


てなことを考えてくると、

言語学専攻の大学院出(よもや博士ではないでしょうから、修士かと)を雇うからには

その専門性を活かす(活かさせる)べく、最初から辞書編集部への配属を想定するか、

あるいはその前提でもまずは研修的に営業にしばらく置くけれど、やがては…みたいな

キャリアパスが描かれていたのでないと、得心しにくいなと思うわけです。


とまあ、採用の事情はともかくとしてですが、

一番に考えたところというのは、人には得手不得手があって、

(その前提に立っているのでしょうか)学校教育の場でも

それぞれの個性を発揮できるような教育を標榜しているふうでもありますね。


ですが、教育を受ける段階を終えて社会人になる際には、

経済産業省が公表している「社会人基礎力」というものさしが当てられることになって、

最近ではさらに「グローバル人材」みたいなものさしまでついてきて、

そういう能力なりを持っていないと就職できませんよ、社会人としてやっていけませんよ、

引いては食ってはいけませんよ!てなことにもなってしまうような。


こうなると、ものさしにぴったり合った形があって、

その形にはまってないといけんよと言っているの変わりがないわけで、

個性を伸ばした果てがこれかい?と思ってしまうところです。


個性を伸ばすことが食っていける、生活していけることにもつながる

職業の多様性と言いますか、いろいろな職業に対する価値観の再認識と言いますか、

(よくドイツのマイスター制度なんかを思い浮かべてしまうところですが)

そういったことも必要なんではないか…と、常々思っているところながら

「舟を編む」の不器用だけれどツボにはまった威力を発揮する馬締くんを見て思いましたですね。

(何だか、こないだの書いた就職のこと の続きみたいになってしまいましたです)