ヴィーン国立音楽大学の教授として活躍したフェルディナント・グロスマン(1887~1970)も素晴らしい指揮者です。

日本ではヴィーン少年合唱団の音楽監督(在任1938~1945・1950~1965)として、また武蔵野音楽大学で教鞭をとった声楽指導者として知られていますが、本国オーストリアでは宗教音楽の権威として今も尊敬されています。

 

演奏スタイルは、世俗音楽の指揮者では同世代のオットー・クレンペラー(1885~1973)が最も近く、一定のテンポを最初から最後まで通すインテンポというものです。

フルトヴェングラーやクーベリックが曲の箇所によってテンポを変えるのとは大きく異なります。

 

グロスマンが指揮したレコード、はヴィーン少年合唱団を指揮したもの以外はほとんどがモノラル盤で、ステレオ盤も含めて今日では入手困難なのが現状ですが、その中でもバッハのマタイ受難曲(1955年録音)は世評では決定盤とされるカール・リヒター(1926~1981)と互角の名盤といえます。

日本の音楽評論家では、宇野功芳(1930~2016)だけが評価していた指揮者でした。

日本でも知られているグロスマンの代表的録音は、ヴィーン少年合唱団と組んだモーツァルトの『戴冠ミサ』という宗教作品です。

インテンポでの指揮が功を奏し、25分ほどのミサ・ブレヴィスが壮大な音楽となっています。

聴きどころは第6章のAgnus deiの後半部分(23分11秒以降)です。

お聴き頂くとお判り頂けますが、グロスマンも対向配置の指揮者でした。

『戴冠ミサ』にはヴィオラパートがなく、左はコントラバスと第1ヴァイオリンで、右はチェロと第2ヴァイオリンとなっております。