マミーとは、98年に起こった通称和歌山カレー事件の犯人として死刑が確定した林真須美のことである。映画は、この判決に意義を唱える二村真弘監督の作ったドキュメンタリーである。
まずヒ素の鑑定については、オレはSPring-8での鑑定のニュースを見てそんなことまで分かるのかと驚いた記憶があった。しかしその鑑定が、犯行に使われたヒ素と林家にあったヒ素が中国産であるということのみが分かったことであり、最近の鑑定では異なることが分かったと紹介されていた。また、当時その家の周りでもヒ素が使われている家が多かったという。
映画には夫の健治も出演していて、当時のことを色々と語っていた。オレはこの人もヒ素で殺されかけていたと報道された記憶を持っていたのだがこれも違うという。本人曰く、まず試しに舐めてみた。それで入院した。その後は保険金詐欺のためにヒ素を口にするようになったと語った。一切悪びれもせず滔々と語るシーンには、逆に胡散臭く、この人のせいでも印象が悪くなり、真須美が死刑になったのではないかと感じた。
I氏とされてきた泉という人も話に出てくる。家族が皆警察関係者で、一人だけはみ出し者となり、巡り巡って林家のもとにいたらしい。長男はそういう大人を両親同様に泉と呼び捨てにしていたようである。実際に親子で彼に会いに行ったシーンもあったのだが、非常に感じが悪く気持ち悪かった。
マスコミが取り上げ作り上げた真須美像も非常に感じが悪いものだった。とは言え、印象が悪いために死刑になるのは、法治国家ではないと思う。古沢良太脚本ドラマ「リーガル・ハイ」の堺雅人演じる古美門弁護士の「この国では世間様に嫌われたら有罪」というセリフが思い出された。現実社会ではあってはいけないことではないのか? 本当に黒ではないということなら、本当に白と証明できなくても推定無罪とすべきではないのか? ヒ素を入れた証拠もなければ、動機も不明なのである。
ラストに、監督が行き過ぎた取材で訴えられ示談となったというエピソードが挿入され、映画は唐突に終わった。とにかく何らかの成果を得たかったというようなことを語っていたと思う。その気持も分からないわけではない。だがこれですべてが嘘っぽくなってしまったように思う。無罪を信じて支えている人たちもいて、オレのように凝り固まった人とのやり取りもあったのだが、果たしてこの映画についてはどう思っているのか知りたいと思った。もっとうまいやりようがあったのではないのか…?
折しもようやく袴田氏が無罪となったが、真須美はどうなるのか? オレは確たる証拠がない以上、無罪ではないかと感じた。そして、犯人とその目的を本当に知りたい。
映画としての評価は難しいと思うのだが、色々と考えさせられた。その点では良い映画ではないかと思う。見て良かった。