★魔道士リザの冒険譚★
-星ドラStory日誌vol.074-
第10話<再会と決別>第7幕
「明かされる過去」
アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔オリオリは・・・現在、全宇宙に
君臨する邪悪な組織『宇宙政府』、これに
反抗する為レジスタンスグループ『義勇軍』
を率いて打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと共
に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「ん?なんだお前は?
此処は迫真の洞窟・・・最も今じゃあ俺達
宇宙政府のアジトだ。見ねえ顔だな。
けどスライムに乗ってるところを見るとぉ、
お前もモンスターのようだな。」
(「フン、雑魚が。」)
「・・・宇宙政府とな?
その方ら、政府の手の者と言ったな。
私の事を知らんとは・・・余程の三下らし
いな。」
「な、なんだとぉ!!テメェ何様だっ?
俺らに喧嘩売ってんのかぁ!?」
「どけ、三下。」
ガスガス、ドスッ!!
*******************************************************
「ここがオリオリが子どもの頃住んでた教会
か〜、ようやく辿り着けたな。
・・・けど・・・随分と寂れてしまってる
ようだぞ?」
竜巻の脅威を退け、なんとか辿り着いた竜巻
の教会。此処にピエールとゼンチャン達が
立ち寄ったはず・・・なんだけど。
この教会からはピエールのものと思しき邪悪
なオーラは・・・既に感じられない。
確かにゼンチャンの館を出発する時はこっちの方角から感じられたんだけど。
・・・今は此処ではない、別の場所からうっ
すらと感じる程度になってしまった。
スラッピのほうはどうかしら?チャングーの
ニオイは?
「ピピピッピピ、ピッ!」
「確かにチャングーのニオイは此処に残って
いる、此処に立ち寄ったのは間違いない、と
スラッピは言っているぞ。」
そう、此処に立ち寄ったのは間違いないのね
。では何処へ行ったのかしら?
それにしても・・・。
確かに随分と寂れた教会ね。こんなところで
オリオリは過ごしていたんだろうか?
「懐かしい〜〜〜。目の前にするとありあり
と蘇ってきます、幼い頃の記憶が!
しかし・・・モガ丸さんのおっしゃる通り、
随分と寂れてしまっているようです、一体
どうしたのでしょうか・・・?」
書からオリオリが現れ、教会を懐かしんで
いる、やっぱり此処が竜巻の教会。
しかしオリオリでさえも、目の前の教会の
様子に驚いている。オリオリ達が此処から
立ち去った後に何がこの教会にあったん
だろう?
コンコン
「ごめんくださ〜い、どなたかいらっしゃい
ませんか〜〜〜??」
ドアノッカーを叩きコッツが来訪を告げる。
獅子の頭部を模した立派なノッカー。
不思議な事に・・・ドアそのものは・・・
かなり劣化というか、ところどころ朽ちて
来ているのに。そのノッカーだけは美しく
磨かれて手入れがされているようだった。
遠目には無人の廃教会を装いながらもここの
主が「私は此処に居る」という強い意志を
アピールしているような、そんな印象を受け
た。しかしノックに返事はなく。
再度コッツが・・・今度はさっきより大きめ
の声で呼びかける。
「すみませーーーーんっ!!
どなたかーーーーーっ!いらっしゃいます
かーーーーッ!!」
ややもすると、ギギィとドアがゆっくりと
開き少し大柄な恰幅の良い、修道服に身を
包んだ女性が現れた。
「・・・あらあら、どちら様ですか?
此処は竜巻の教会・・・。
しかしご覧の通り、今は朽ち果てた廃教会
です・・・一体こんな所に何の御用でしょ
う?」
修道服の女性は疲れた顔で応対に出てくれた。
「シスターッ!!シスターイェルバッ!!
あぁ懐かしい〜・・・私です、オリオリです
っ!ご無沙汰しておりましたっ!」
修道服の女性が現れるなり書からオリオリ
が飛び出した。
「え?ま、まぁっ!!オリオリッ!オリオリ
ではないですかっ!」
「はいっ!オリオリですっ!その節は大変
お世話になり、ありがとうございましたっ!
シスター、お元気そうで何よりです・・・と
申し上げたいところですが・・・教会が随分
と寂れてしまっているようですが・・・?」
「懐かしいわねオリオリ。なん年ぶりかしら
・・・シスターは・・・体そのものは元気
なんだけど・・・ね。
教会は・・・この通りボロボロに・・・それ
もこれも全部宇宙政府のせいなのです・・・
!」
「宇宙政府の?まさか魔物が襲って来たの
ですかっ!?」
「いえ、襲われはしていないけど・・・けど
脅されてはいます。
ここ最近、この辺りにも政府の魔物が多く
現れるようになり・・・。」
イェルバと呼ばれたこの恰幅の良いシスター
はオリオリとの再会を喜んだものの、教会の
現状を伝えるにつれ、みるみる暗い表情に
変わっていった。
彼女が言うには、神へ祈りを捧げる行為を
政府の魔物に禁じられてしまったらしい。
約束を破れば容赦なく教会や周辺住民を襲う
、と脅されて。
この教会が崇める神は主神ミトラ。
アタシ達が行使する呪文の詠唱文にもよく、
その御名が登場するあのミトラ神。
そして宇宙王一族が守護神として崇拝してい
た神でもあるらしい。
それをいつまでも崇めているのが政府には
面白くないし、危険思想でもある、という
理由から神への祈りやミサといった祈りの
集まりを禁じたという。
ムムム〜、宗教観の違い・・・それは時に
争いを生む理由として小さくないものになっ
てしまうんだろうか?
宇宙王一族と宇宙政府の争いとは・・・ひょ
っとしたら宗教観の相違から始まったもの
なのかもしれないわね。
「やがて祈りを捧げる人は誰もいなくなり
教会もどんどん寂れていってしまったの
です。」
「そうだったのですか・・・。神に仕える身
であるシスターに取ってみれば・・・それは
生き方を否定されるようなもの、神への祈り
は神職者の方々に取って息をするのと同じ
ぐらいに当たり前の行い。さぞおつらい日々
を過ごされているのですね、心中お察しいた
します・・・。」
「えぇ、大きな声では言えませんが・・・今
では隠れてコソコソとお祈りを続ける事しか
できないのです・・・。」
シスターのやるせない独り言ちを聞き、一同
皆黙ってしまった。
「とりあえず中へお入りなさい、外での立ち
話は竜巻の風でツライでしょ・・・あ、
あら?か、風が・・・吹いていない・・・
??ま、まぁ!これは一体どうした事で
しょうっ!?竜巻が弱まる時節でもないと
いうのに?」
「え!?あ、そ、そうですねっ!そういえば
風がありませんね!子どもの私では歩くのも
ツライぐらいの風がいつも吹いていましたの
に・・・。
久方ぶりに訪れてみて、この辺りの気候も
随分と変わってしまったのかと・・・勝手に
思っていました。」
「いえ、昨日までは変わらず、いつもの通り
強い風が吹いておりました・・・。
一体どうした事でしょう??な、何か・・・
良からぬ事の前触れ・・・!?」
「い、いえっ!シスター様っ!
そ、そのような大袈裟な事ではないと思い
ますが・・・。」
オ、オリオリが・・・風が消えた事の真相を
はぐらかしている・・・、ご、ごめ〜〜〜
んっ
ア、アタシがまたまた失態を犯してしまった
せいでオリオリに嘘をつかせてしまっている
っ
アタシ達が・・・竜巻を吹き飛ばしてしまっ
ただなんて話・・・シスターのような一般の
人には俄かに信じ難い話でしょうから・・・
オリオリはとっさに真相を隠そうと判断した
んだろう・・・うぅぅ、アタシは針の筵に
座っている気分に襲われた!
「ふぅむ、不思議です、風が吹いてないなど
と・・・シスターは長くこの教会に仕えて
いますが・・・こんな事は初めてです。
ま、まぁ、とにかくお入りなさい。立ち話も
なんですから。」
「は、はい。私がお世話になっていたのは
もう10数年以上も前のこと、久し振りにお
祈りをしとうございます。」
「・・・教会は随分荒れてしまってます。
が、祭壇だけは毎日欠かさずお手入れをして
います。お祈りは政府に禁止されていますが
久し振りにオリオリが訪ねて来てくれたん
ですもの、ぜひ祈りを捧げてください。
シスターも嬉しく思います。」
「はい!」
そう言ってシスターは中へとアタシ達を招き
入れてくれた。
中の様子は・・・確かに見るに耐えない
ぐらいに荒れ果てていた。あちこちに蜘蛛の
巣が張られていて長椅子は散乱し埃も凄かっ
た。
しかしシスターが言う通り祭壇だけはピカピ
カに磨かれていた。シスターにとっては祈り
を捧げるこの場所だけは・・・荒れさせる
ワケにはいかないという意地、そして信仰心
の篤さをアタシは感じたの。
オリオリは胸の前で手を組み祭壇に向かって
頭(こうべ)を垂れ祈りを捧げた。
アタシ達全員、オリオリに倣って祭壇に向か
い祈りを捧げた。
アタシは・・・居座り竜巻を吹き飛ばした際
の・・・魔力の暴走、チカラの使い方を神に
向かって懺悔した。自分に眠る、自分でも
把握しきれない程の大きな魔力との向き合い
方を・・・上手にやっていかないと、この先
パーティに迷惑をかけてしまうという自戒を
も誓いながら。
一同、お祈りが終わるとシスターがオリオリ
に声をかける。
「ところでオリオリ・・・貴方はどうして
また此処に?貴方とボロン・・・そして貴方
達2人と一緒に亡命してきた孤児達は・・・
宇宙政府に反抗する為、仲間を募りレジスタ
ンス活動をするんだ、と。ここから旅立って
いきましたね?貴方達はその後どうですか?
見たところ元気で過ごしているようですが。」
「はい・・・とりあえず元気でやっています
、この通り相変わらず宇宙王の書の中に居り
ますが・・・。レジスタンス活動は義勇軍
という組織を立ち上げ、始める事ができ現在
も続ける事が出来ております。此処にいる
少女、コッツも義勇軍の構成員です。」
「シスター様、義勇軍3番隊隊長、コッツと
申します。」
「3番隊隊長!まぁ、お若いのにご立派なの
ねコッツ。」
「いえ、私などまだまだ未熟者です。
しかし、オリオリ様の御身だけは命に代えて
でもお守りせねば、と日々心に刻んでおりま
す!」
「まぁなんと!
未熟者だなんてとんでもない、その志、並の
若者では発言できるものではありません!
オリオリ・・・良き仲間に恵まれたのです
ね。」
「はい・・・コッツは本当に良くやってくれ
ています。そして私達と一緒に亡命してきた
・・・あの孤児達、あの子達も成長して義勇
軍のメンバーとなりました。このコッツが
指揮する3番隊の隊員となって。」
「あの子達もレジスタンスグループに!
そうですか、皆頼もしく成長したのですね
・・・それはよかった。」
シスターは遠くを見るような目にうっすら
光るモノを滲ませゆっくりと閉じた。
思い出に想いを馳せているようだった。
シスターとオリオリが昔話に花を咲かせ近況
を報告し合うのはほっこりしていいんだけど
・・・。
ところで亡命?孤児?って何の話だろう?
孤児達が・・・3番隊のメンバー??
「モガ〜?昔話が盛り上がってるところ
すまないが・・・。オイラ達はオリオリの
過去の話はまだ知らない事が多い。亡命とか
孤児とかってどういう事なんだ?」
モガ丸がアタシ達“ブルリア星組”を代表して
質問した。
「モガ丸殿、私の指揮する隊、3番隊のメン
バーは若い隊員が多かったでしょ?
彼らはオリオリ様がこの惑星クラウドに亡命
されてきた折、共にやってきた子ども達な
のです。」
「モガ丸さん、リザさん達。そうですね、
皆さんにはお知らせしていない事がまだあり
ました。少しお時間をもらえますか?今から
お話いたします。」
「モガガ!も、もちろんだぞ、オリオリの
過去は謎のままの事が多い、是非聞かせて
くれっ、なぁ?リザ。」
うん、先日から・・・処刑の洞窟あたりから
・・・そしてゼンチャンの館でのピエールと
のやり取りからも・・・徐々に明らかになり
つつあるけど・・・そういえばオリオリは
・・・この教会で幼少期を過ごしたとは言え
故郷ではない、とも言っていた。その辺も
含めて聞いておきたいわね。
「シスター様も少しお待ちください。紹介が
遅れましたが彼女達はブルリア星の冒険王
姉弟です。」
「えっ!?ブルリア星の冒険王っ!?」
「はい、義勇軍の強き味方となってもらう
為、私がスカウトしてきた方達です。彼女達
には私の過去の事でまだ伝えていない事が
あります、それを今からお伝えしようと思い
ます、シスター様へのお話はもうしばらく
お待ち願えますか?」
「ブルリア星の冒険王、こんな若い方達が
・・・しかし異星からの助っ人だなんて・・
・オリオリ、貴方の活動はそこまでスケール
が大きくなっているのですね。シスターは
驚きと感動を覚えています!
ええ、わかりました、先に冒険王の方々への
お話を済ませなさい。」
「ありがとうございます。ではリザさん達、
何からお話をしたものでしょうか?」
え?えーと、いざ畏まって言われると何を
聞けばいいか困っちゃうわね。・・・
あ、そ、そう!アタシ・・・うすうすそう
じゃないかって思うようになってて・・・
オリオリのお父様・・・もしかして・・・
宇宙王の末裔どころか・・・その・・・ご本
人??まずそこをハッキリさせたいわ。
「・・・気づかれていましたか・・・。
いえ、隠すつもりはなかったのですが・・・
ご推察の通り、私の父は3代目宇宙王その人
・・・宇宙王ゼナ3世です。」
っ!!!!やっぱりっ!
「モガーーーーッ!!
オリオリの父ちゃんが宇宙王っ!!
そ、そう言われればっ!た、確かにっ!
そうだと言われれば納得できる話が多い気
がするぞっ!!」
そうよ、そうなのっ!ただただ初代宇宙王
の血を引く、一族の端くれぐらいかな〜と
最初は思ったけどそれにしては王政府の歴史
に明るいし!覚悟とか、宇宙王の嫡流でない
とおかしいぐらいに持ってるしっ!
何よりオリオリ自身の人となり、人の器、
やっぱり宇宙王の娘だっていうほうが
しっくり来るわっ!つ、つまり・・・世が世
ならオリオリが次の4代目宇宙王になるはず
だった!?
「さぁどうでしょう?
私が子どもの頃に無法者集団のクーデター
が起こり父は王の座を追われてしまいました
から。誰が次の宇宙王に就くか、そういう
議論すらまだ生まれていなかったのではない
でしょうか?あのまま王政府が存続していれ
ば・・・私の弟が生まれる、なんて事も起こ
り得たわけです、その場合、将来的にそちら
に王位を継ぐというのが本来の王位継承の
あり方でしょうし。」
あ、そうか。
けど可能性の1つとしてオリオリ女王って
いうシナリオもあるにはあったんだろう。
そ、それで・・・亡命って??
「私の故郷・・・それは惑星クラウドではな
く・・・王の惑星アレスという星です。
宇宙王一族は惑星アレスの出身であり王政府
の宮殿もアレスにありました。」
王の惑星アレスッ!!
なんて神々しい、尊厳のある名前なの!
宇宙を統べる宇宙王にふさわしい名前っ!
そして、そうかっ!王の住まうアレスを守る
集団、宇宙王=アレスの名の下に宇宙の平和
を守る集団という意味で組織されたのが
アレスの聖剣なのねっ!
「私の故郷、惑星アレスは・・・緑豊かで
平和な星でした。
星と星との往来も自由でしたし。百花繚乱の
文化も花咲いておりました。あの日までは
・・・!あの日・・・無法者集団による
クーデターが起こり王一族の宮殿は大混乱
に陥ってしまいました。しかし混乱状態
だったからこそ、私達は逃げる事ができたの
です。許嫁であったセアドは私の身を案じ、
この宇宙王の書に魔法を使って私を封印しま
した。それを幼馴染のボロンに持たせ移動の
魔法を使って、この惑星クラウドまでワープ
させたのです。その際に、宮殿に仕える多く
の者達の子息も一緒にワープさせました。
先程お話した、後に3番隊の隊員となる
子ども達です。」
アタシ達姉弟とモガ丸、スラッピは押し黙っ
てオリオリの話に聞き入る。
けどしかし、宇宙王の書にオリオリが封印
されている理由が判明したわ。
セアドがオリオリを宇宙王の書に封印したの
は・・・クーデターからオリオリを守る為
だったのねっ!
「父と母も混乱に乗じて宮殿から落ち延びる
事ができたと後から聞きましたが・・・。
その後の動向はリザさん達もご存知の通り
です。身分を隠し秘密裏に宇宙政府に参加し
内政変革を目指しましたが正体が露見しそし
て・・・コモゴモスさんが語った事実となっ
たのです・・・。」
・・・そ、壮絶・・・その一言しか思い浮か
ばない。この麗しき次期宇宙王の女性は
・・・子どもの頃すでに凄まじく悲惨な経験
をしていた・・・!そしてそんな小さな子ど
もの頃から本の中での生活を余儀なくさせ
られる運命を辿っていたなんて・・・。
アタシには想像もできない苦難の道をオリオ
リは歩んできたんだ・・・。
「私とボロン、そして孤児となってしまった
宮殿の仕官達の子息らは・・・セアドの移動
魔法にて惑星クラウドの、この地方に辿り着
いたのです。大人は誰もおらず、子どもだけ
の集団。
皆、自分達の身に何が起こったのか、薄々は
理解していましたが、やはり子どもばかり
だったので悲しみや不安といった気持ちで
一杯でした。
途方に暮れていた私達を救ってくれたのが
此処におられるシスターイェルバでした。」
「ええ。貴方達はみな、魂が抜けたような
生気のない顔をしていました。
まだまだあどけなさの残る年頃なのに、子ど
もの無邪気さなど微塵も感じられずみな一様
に下を向き誰も口を開く事はなかった。
しかしお父様やお母様はどうしたの?と聞く
と・・・皆一斉に大声で泣き出してしまい
ました。これは只事ではないと、当時の私は
思ったものです。」
「・・・昨日まで平常に暮らしていたのに、
突如として宮殿に魔物達が乱入してくる・・
・・幼い子ども達には理解できない事態で
あり、そして、ただただ目の前に迫り来る
魔物の恐怖があった。親を目の前で殺された
子もいました。その恐怖と理不尽さから自己
が壊れるのを防ぐ防衛本能が働き・・・彼ら
は生ける屍と化してしまったのかもしれない
・・・。それが親というワードがシスター様
から発せられた事により・・・恐怖の体験が
フラッシュバックしてしまったのでしょう。
そしてもうパパやママは死んでしまったんだ
と・・・幼心に理解したのです・・・!」
「あの時私は・・・とても居た堪れない気持
ちになりました。しかしオリオリ、貴方は
・・・涙を堪え必死に自分より小さい子ども
達を元気づけようとしていました。
今思えば・・・あの時既に・・・貴方はリー
ダーとしての資質を備えていたのです。まだ
小さいのに、なんて立派な女の子なんだろう
と、私は感銘を受けたものです、しかし同時
に不憫にも思いました。自分もツライ気持ち
だろうに、と。
それで私は・・・小さい子ども達は勿論の
事、何よりオリオリを1人にしてはいけない
と思いました。そして貴方達のお世話をする
決意をし、この教会で面倒を見るようになっ
たのです。」
「シスター様には本当に感謝しています。
私が本の中になぜ居るのかなど・・・深い
事情はお尋ねにならず・・・とにかく此処に
居なさい、明日から一緒に生活しましょう、
と仰られて。一夜にして全員が身寄りのない
孤児となってしまった私達に・・・生きる
場所をお与えになられました。
いえ、場所だけではありません、その慈しみ
のお心は・・・親を失くした私達の心の拠り
所でもありました。感謝してもし切れない
ほどです。・・・リザさん達・・・以上が私
の生い立ちです。」
・・・プハァッ!こっ、濃いっ!!
濃ゆいわぁっ!!
オリオリの半生のなんと濃密な事っ!
そうだとは思いつつも、正式な正統の宇宙王
の血筋のお姫様だったなんて!
そして・・・まだ幼い頃に体験した一家離散
、一族離散の憂き目!
生まれはお姫様かもしれないけど・・・その
人生のほとんどを追われる身で過ごしてきた
多難な運命。
それがオリオリという人間を形成していただ
なんて。
オリオリ、貴方って人は・・・。
そして・・・。
義勇軍3番隊の若者達もまた、幼い頃に悲惨
な目に遭い、そしてオリオリと共になんとか
生きてきたんだ。
そうか、彼らは牢獄から解放された時、オリ
オリを見て皆一様に涙していた。なんて忠誠
心の厚い若者達なのって、その時はそれぐら
いにしか思わなかったけど彼らの中には
・・・悲惨な境遇をオリオリと共に乗り越え
てきたっていう想いがあるのね。
その悲惨なクーデターが・・・ピエール
が言っていた宮殿での出来事・・・。
そしてピエール、ボロンに取っても教会での
日々は・・・イェルバからの無償の慈愛を
受けていた日々・・・オリオリと孤児達と共
に身を寄せ合って過ごした日々・・・。
それを聞かされたアタシは・・・やっぱり
ボロンが義勇軍を離れるという選択肢を取っ
た事が理解できない、許せない!
オリオリだけでなく、3番隊の若い隊員も
ボロンに取っては昵懇の友のはず。
それを・・・!
身の安全を保障していたとは言え、彼らを
政府の軍勢に襲わせるという事態を招いた
しまった彼の選択肢がますます許せなくな
った!
オリオリや3番隊隊員の凄絶な過去、そして
ボロンへの怒り・・・アタシ達の知らない
様々な出来事が衝撃を与え、アタシ達“ブル
リア星組”はしばし口を開く事ができなか
った。
が、やがてシスターイェルバが口を開く。
「ところでオリオリ。そういえば・・・。
ボロンの姿が見えませんね。
彼とは行動を共にしていないのですか?
あれほど『オリオリは俺が守るんだ』って
言っていた彼が・・・。」
「・・・シスター様・・・実は今日伺ったの
は他でもありません、そのボロンの事なの
です。彼は義勇軍の親衛隊長、つまり私専属
のボディガードのような役割をこなしてくれ
ていましたが・・・。」
オリオリは手短にボロンが義勇軍を離れ宇宙
政府の手先となってしまった事、そしてオリ
オリもボロンと決別する覚悟を決めた事を
伝えたの。
「つい先日もボロンは我々の前に現れゼン
チャンという、えっと、男性とチャングーと
いうオレンジ色のスライムを連行していって
しまいました。彼は今、仮面を被りピエール
と名乗っています。
シスター様、ピエールなる者が此処を訪れ
ませんでしたか?このリザさんとスラッピ
さんによればこの教会を訪れたのは間違い
ない、という事なのですが・・・。」
するとイェルバは黙り込んでしまい・・・
伏し目がちで深い溜息を漏らした。
「はぁぁああ・・・なんて事・・・あの白い
仮面の騎士が・・・あのボロンだったなんて
・・・。」
「シスター様っ!それではやはりボロンは
此処にっ!?」
「ええ・・・。
大柄な男性と・・・少しおかしな格好をして
いましたがその男性とオレンジ色のスライム
を伴っていました、間違いありません。白い
仮面の騎士、確かにピエールと名乗っていま
した。彼は祭壇で祈りを捧げていました。
どういうつもりで祈っていたのかは語りませ
んでしたが。」
やっぱりピエールがここを訪れていた!
そして神に祈りをっ!?
ボロンにとってもこの教会は・・・九死に
一生を得た命を育ててくれた大恩ある場所。
そしておそらくは・・・その頃から想いを
寄せていたオリオリとの思い出の場所でも
あるはず。
何か決意のようなものをミトラ神に誓ってい
たんだろうか?
「しかし・・・非常に遺憾です、まさか
ボロンが宇宙政府に与するなど・・・。
自分達の境遇を苛酷なものにした相手に加担
だなんて・・・おこがましいけど・・・私は
ボロンも含めて・・・此処で育った貴方達
全員の育ての親だと思っています。
“息子”がそんな愚かな事をしているだなんて
・・・!もし先に知っていたなら引っ叩いて
でも行いを改めさせたものを!」
シスターイェルバッ!
な、なんてお優しい方なんだろう!
少なくともアタシは・・・ボロンの裏切りを
知った時、腹が立って仕方がなかった。
殺してやりたいとまでは思わなくてもなんて
勝手なヤツだ!って・・・憤慨の気持ちしか
なかった。
けどこの恰幅の良い修道服の女性は・・・
ボロンの性根を叩き直すと仰った。
血は繋がっていなくとも・・・本当の親子の
ような関係が築かれていたんだろう。
「シスター様・・・ピエールは・・・ボロン
はっ!自分の信じる道に・・・ただひたすら
真っ直ぐなのです、ただ、信じたその道が
・・・私に取っては間違ったものに思えるの
ですが・・・。それはさておき・・・ピエー
ルは何処へ向かったのでしょう?それらしい
事を言っていませんでしたか?」
「迫真の洞窟と星雲の洞窟が魔物の根城と
なり、そこに巣食う魔物達から教会が脅され
ていると伝えたところ、血相を変えて・・・
いえ、仮面を被っていたので表情は伺えませ
んでしたが・・・その魔物達を退治するとい
って飛び出していってしまいました・・・。
私が制止するのも聞かず・・・。」
「えっ!?ボロ、いえピエールが魔物を退治
・・・彼は今、宇宙政府に属しています・・
・・・そんな彼が政府の魔物を倒す・・・
シスター様、ピエールは間違いなくそう言っ
たのですか!?」
「はい。迫真の洞窟と星雲の洞窟とは・・・
オリオリ、貴方とボロンがよく遊びに出かけ
に行っていた場所ではなかったですか?」
「あ、あぁ!そう言えばっ!またまた記憶
が蘇ってきました、確かに私とボロンはその
2つの洞窟に出かけていました。
その洞窟にはそれぞれ・・・そこにしか咲か
ない花が咲いており、私はお花摘みに度々出
かけていました。ボロンはよく一緒について
来てくれていたのです。」
「・・・オリオリ様・・・ボロンに取って
その洞窟達は・・・大切な思い出の場所なの
かもしれません。いくら今は同胞である政府
の魔物とはいえ・・・思い出の地を荒らされ
ている、と捉えたのかもしれませんね。」
「ええ、私もそう思います。いくら政府に身
を置いたとはいえ、あの子にとって、この地
で過ごした日々はやはり大切な思い出なので
しょうし、そうあって欲しいと私は思います
。彼は大丈夫と言い張っていましたが沢山の
魔物が居る場所にたった3人で向かうなど
・・・しかも付き添いの大柄な男性は、自分
は戦えない、というような事を話していまし
たし・・・私はとても案じております。
オリオリ、コッツさん、それに冒険王、助け
に行ってあげてくださいっ!
シスターからのお願いですっ!!」
「・・・ボロン・・・アナタという人は
・・・ホンットにっ!ホンットに自分勝手
なんだからっ!!」
オリオリ!?ど、どうしたのっ!?
オリオリが突然、ボロンの事を叱りつける
ような言葉を発した。
「私や過去の自分と決別する、と言ってみた
り・・・そうかと思えば此処での思い出の
場所を大事に思うような行動・・・人を振り
回すにも程がありますっ!
シスターでなくても、私も引っ叩いてやり
たくなりましたっ!コッツ、リザさん達っ!
迫真の洞窟へ向かいましょうっ!!魔物達に
やられてしまってはボロンを引っ叩く事が
できませんっ!!」
アハッ、そういう事ねっ
笑っちゃいけないけど、なんかオリオリに
元気が出てきたっ!ボロンの事になると塞ぎ
がちになってしまうオリオリだったけど、
そうよ、1発ブン殴ってやればいいのよっ!
敵対しているとはいえ、オリオリもボロン
には目を覚ましてほしいんだ。
言っても聞かないから、もうブン殴ってやる
しかないものね。
よしっ!行こうっ!迫真の洞窟へ!
ボロン、いえピエールなら・・・魔物ごとき
にやられはしないと思うけど、ゼンチャン達
が心配でもあるし。
とにかくピエール達に追いつかなくては。
「あ、ちょっと待ってオリオリ!そう言え
ばっ!!もうひとつ気になる事があり
ますっ!」
っ!?
アタシ達が出発の意思を固めた矢先、突然
イェルバが呼び止める声を発した。
「どうしました?シスター様。」
「そういえば、ボロン・・・ピエールが此処
を発った後、貴方達が今日訪う前にも此処を
訪った者がおりました。・・・若い女性で
剣を携え赤い服・・・あぁそうっ!コッツ
さん、貴方がお召しになっている服装に似た
服を召していました!その者も迫真の洞窟へ
向かったのです!洞窟が魔物の根城になって
いると聞いて退治する為にやって来た、と申
しておりました。
あんなに若い・・・しかも女性が単身魔物
の巣窟に向かうなど・・・危険極まりない
事です!私は強く引き留めをしたのですが
っ、全く聞く耳を持たずといった様子で飛び
出して行ってしまいました・・・。ボロンと
共にその若い女性も助けてやってください
っ!お願いしますっ!」
えぇ!?
剣を持った義勇軍の制服に似た格好をした
女性ですって?一体何者!?
それともアタシ達のまだ知らない義勇軍の
メンバーが居るんだろうか?
「・・・義勇軍には単身で活動している女性
兵士などは存在しません。
一体何者でしょう?コッツ、貴方心当たりは
ありますか?」
「いえ!私も存じ上げません。
帯剣しているという事は・・・多少は腕に
覚えのある者でしょうか?しかし実力の程は
計りかねます、急いで洞窟に向かった方が
良さそうですね、オリオリ様っ!」
「そうですね、コッツ!リザさん達っ!
正体不明の女性戦士の事も気がかりです、
急いで洞窟に向かいましょうっ!」
「ハハッ!」
此処を訪れた若い女性戦士、オリオリ達にも
心当たりがないという。
どれぐらいの実力を持っているかわからない
けど・・・危険である事に変わりはない!
女性戦士の安否、それにピエール達の動向、
とにかく急いで確認しなくてはっ!
アタシ達はイェルバに見送られながら急ぎ
迫真の洞窟へ向かった。
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「グヌヌ・・・つ、強い・・・たった1人で
俺らの軍勢を・・・ぜ、全滅させるとは・・
・・・お前は何者・・・!?」
「・・・フン・・・貴様ら下等な魔物に名乗
る名などない・・・。」
「グッ!な、なんのつもりで・・・俺らの事
を・・・?」
「・・・もう死んでしまう貴様らが知る必要
はない・・・。」
ガッ!!
「グハァッ!!!・・・グ、グフっ!」
アタシ達が迫真の洞窟へ出発した頃、ピエー
ルは既に、この洞窟に巣食う魔物達を全滅に
追い込んでいた。
「ひゃああああっ!ブルリア星の冒険王ちゃ
ん達も強いけどピエール様もとってもお強い
のね〜〜!
ワタシますます惚れてしまうわぁ❤︎」
と、ピエールは洞窟の片隅に咲いている花に
近寄っていく。
(「クラウドケイトウ・・・フフ、無事だった
か・・・オリオリが好んでいた花・・・花言
葉は「博愛」・・・まさにオリオリの為に
あるような言葉よな。」)
赤や黄、ピンクといった鮮やかな色の花々。
花穂の形状が鶏のトサカに似ている事から、
その名前が付いたらしい。
「まぁピエール様、綺麗な花ですこと、ピエ
ール様はお花を愛でる趣味も持ってらっしゃ
るの?ウフフ、かっわいい〜❤︎」
ピエールは花の前で屈み込み、愛でるように
花を撫でた。花を愛でているのか、それとも
この花を愛したオリオリを愛でているのか、
それはピエールにしかわからない。★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
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