【ソード☆ビート本編】Chapter23-act1 | 魔人の記

魔人の記

ここに記された物語はすべてフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。オリジナル小説の著作権は、著者である「びー」に帰属します。マナーなきAI学習は禁止です。

★act1 難問★

”さしあたっての問題は、ヤツが光の特性を使いこなせるということだ”

破壊されたラコータ村を出たレインとレギィス。
負傷したライトたちを残し、幻光の魔人を追っている。

「光の特性?」

”そうだ。私は闇を使いこなせるが、ヤツはその逆…それは、色を使いこなせることにも通じる”

「んー…」

レギィスの言葉に、レインは首をかしげる。
彼女は今、歩いていた。

幻光の魔人は、自らの体を透明にして逃走している。
それもまた光の特性を利用しているのだと、レギィスは言いたいようだ。

「もっとわかりやすく言ってよ。ボクにはちょっと難しいから」

”要するに、透明になったり何かを見つけ出したりすることが得意、ということだ”

「それが光の特性なの? んじゃ色は?」

”色というのは、光をどう取り込むかによって決まる。例えば白という色は、『反射する性質が最も高い』ために白になっているのだ。黒はその逆…要するに、見たままの色と実際の色は違う可能性がある”

「んー…やっぱりボクにはわかりにくいなぁ」

”暗い場所で青い色を見ると、見方によっては深い緑にも見えたりするものだ。オレンジ色を暗い場所で見れば、薄い赤にも見える…つまり色とは、光によってある程度変化させられるものなのだ”

「…あ、そういうのを利用して、魔人は透明になってるってことなの?」

”そうだ。わからないという割には、なかなかカンがいいぞ”

「あはは…なんとなくそう思っただけなんだけどね」

レインは小さく笑いながらそう答えた。
そしてふと、自分が笑えたことを不思議に思う。

(こんな時なのに…どうしてボク、笑えてるんだろ)

それとともに感じる、わずかな安心感。
その答えを、彼女はすぐに感じることができた。

(戦いが終わる時は、ボクの記憶が消える時…記憶が消えなくてすんだことを、ボクは喜んでるのかもしれない)

表情が真剣なものに戻る。
心にある安心感を、無理やりに消してしまう。

(何を喜んでるんだ、ボクは…確かに記憶をなくすのは怖いしイヤだけど、そんなこともう言ってられないんだ。たくさんの人が危険な目に遭ったし、ライトくんやニングさんだって傷ついたのに!)

安心してしまったこと。
それを彼女は申し訳なく思う。

だが、普通の少女にしてみればそれは無理からぬことである。
誰が好き好んで、大切な記憶を手放したいと思うだろう。

「…」

自然と手に力が入る。
レギィスを強く握る。

”…レイン”

それを感じたレギィスが、彼女にこう言った。

”複雑な心境かもしれないが、今は目先のことを考えてくれ。ヤツの目的はユームの『間引き』…要するに虐殺だ。頼りは今、お前しかいない”

「うん、わかってる。だからボクががんばらなきゃね!」

幻光の魔人を倒すには、レインの大切な記憶が必要になる。
さらに、魔人が大量の魔力を手に入れてしまえば、それだけではすまなくなる。

彼女の体の中にある原始的な記憶…「本能」すらも差し出さなければ、魔人による虐殺は遂行されてしまうのだ。
どちらにしてもレインは記憶を失ってしまうわけだが、だからといって逃げることはできなかった。

(…これは、ボクが決めたこと。ボクがやるって決めたこと。バズークさんのことも心配だけど、今は時間がない)

16歳の少女が負うにしては、あまりに過酷な覚悟。
それを、レイン本人もレギィスもわかっている。

(やらなきゃならない…虐殺なんてこと、絶対に止めないと!)

自然と歩く速度が上がる。
そこにレギィスの言葉が飛んできた。

”…体力は大丈夫なのか? 先ほどから動きっぱなしだろう”

「大丈夫。確かにちょっと足が痛くなってきてるけど、それどころじゃないもん…それよりレギィス、どうやって魔人を見つけるのか教えて。今は透明になってるんだよね?」

”…そのことだが…”

レインの問いに、レギィスの言葉がにごる。
彼女は、そこに何かいやな可能性を感じた。

”ヤツの攻撃手段といえば、大半は目くらましだ。だが、世界の禁忌である魔人の目くらましは半端なものではない。私には今、ヤツの魔力すら感じられん”

「…そっか」

”それに私は光を操ることができん。闇で塗りつぶすことはできるが、それでは逆にヤツを見つけられなくなる。光で照らし出す、ということが私にはできないのだ”

つまりそれは、レギィスでは魔人の位置を特定することができないということになる。
光と闇の特性が、今はレインたちを不利にしていた。

”ヤツの復活は不完全なものだ。力だけでいえば、今までで一番弱い。だが弱いからこそ、ヤツは知略をめぐらせている…ツァストラの頭脳を使えているということも、大きいのかもしれん”

「でもさ」

レインは真剣な表情のまま、自らが考えた「希望」を返す。

「魔力装置から魔力を手に入れる時は、絶対にそこにいるわけでしょ? 装置を作動させないと魔力は手に入らないわけだし」

”それはそうだが、私たちはプノリ村にある魔力装置しか知らん。ツァストラが残した装置がまだ他にもあれば、転移装置を使われた時点でアウトだ。私たちはそこで完全にヤツを見失ってしまう”

「ってことは、やっぱり転移装置か…」

グルティスにある転移装置。
魔物退治や珍品採取のために、世界各地へと飛べる装置である。

魔人はそれを利用して、魔力を集める装置から大量の魔力を得ようとしている。
それを得てしまえば、不完全な魔人とて相当の力を得ることができるだろう。

それは何としても止めなければならない。
だからこそ彼女たちは、グルティスがある一番近くの町を目指していた。

”転移装置前で張り込むという手もあるが、私たちの方が出発が遅い。それに、一番近くの町を目指すとも限らんのだ…ヤツとしては、私たちを振り切って魔力装置にたどり着きさえすればいいのだからな”

「…うん…」

レインが今歩いているのは、失った体力を回復させるためだった。
しかし、彼女たちには魔人がどのグルティスに向かい、どの魔力装置を使おうとしているのかが全くわからないという、望まざる事態も関係していた。

魔人はツァストラの記憶から、プノリ村の魔力装置について語った。
だがわざわざそれを語ったということは、そこにレインたちを誘導するための嘘であるとも考えられる。

手がかりといえば、魔力装置がある場所を知っているのはツァストラだけ、ということしかない。

「ねえ、レギィス」

そこに思い当たったレインは、レギィスにこう尋ねる。

「レギィスは、ツァストラと昔いっしょに研究してたんでしょ? 何かわかることってない?」

”私もそのことについて考えていたのだがな…そもそもヤツは、魔力装置のことなど何も話さなかった。その頃に記憶も探ってはみたが、ヤツの表の人格は何も知らなかった”

「そっか…」

”恐らく、同族に復讐したことも魔力装置のことも、憎悪の人格だけが知っていたのだろう。せめて、魔力装置がプノリ村のものだけだとわかれば、まだ対処のしようもあるのだがな…”

「手がかりは全然ないってわけか…どうしよう…」

姿も見つけられず、手がかりもない。
ここに来て彼女たちは、手詰まり状態になってしまっていた。

ひとつだけ救いがあるとすれば、それは周囲に人の姿がないこと。
馬車でも使われた日には、その時点で彼女たちの追跡も無駄になってしまうが、他の者がいないために馬車もない。

”ラコータ村の住民たちが、避難に馬車を全て使っている…私たちにとっていいことといえば、それくらいのものだな…”

「あのさ、レギィス。ボクちょっと考えたんだけど」

レインは、少し明るい表情でそう言った。
これまでの会話から、何かいい方法を思いついたらしい。

”なんだ?”

「レギィスは闇を操れるんでしょ? だったら全部真っ暗にしちゃえば、魔人も転移装置を見つけられないんじゃないかな?」

それはシンプルな発想だった。
真昼であろうと、世界の全てを漆黒に染め上げてしまえば、魔人といえど転移装置を見つけられないのではないか…そう彼女は思ったのである。

”…ふむ…”

レギィスは少し考える。
考える価値がある提案だと思ったらしい。

しかしすぐに、レインにこう返した。

”ダメだ。世界を闇に染め上げれば、ユームたちが混乱して別の面倒ごとが起こることになる。それにヤツとて、それは予想しているだろう…何らかの対策があるからこそ、私たちから逃げ出したはずだ”

「別に、世界全部を闇にしなくたっていいじゃないか。転移装置がある部屋だけ真っ暗にしちゃうとかさ。魔人が闇の中でも何でも見えるっていうんなら、どうしようもないけど…」

レインは引き下がったが、ただ引き下がったわけではない。
魔人が闇の中でも夜目が利けば、という条件をつけて引き下がった。

転移装置にはパネルがあり、使用するためにはそれを操作する必要がある。
闇に包んでしまえばそれも見えなくなり、ある程度の時間稼ぎにはなると彼女は考えていた。

”闇の中でも見える…いや、それはないな”

レギィスの声が、興味深そうなものに変わる。

”魔人というのは、誰かの体を借りなければ動き回ることはできない。借りた相手の記憶などを共有できる代わりに、器官が持つ力などは制限される。運動能力はかなりの程度まで引き上げることができるが、視力が良くなるということはない”

「ってことは、魔人の視力はツァストラの視力と同じってことだよね?」

”そうなるな。他の者に乗り換えることもできん…ということは、闇の中ではヤツも目が見えんということにはなる”

ラコータ村での戦いで、レギィスが作った闇の中から魔人はレインを見つけることができなかった。
だからこそ勘違いし、分身を消すという行動に出たのである。

”それに、闇の中で何かを探すとなればおのずと光が必要になる…だとすれば…”

「ね? なんかいけそうな気がしない?」

レギィスのつぶやきに、レインは嬉しそうに反応する。
彼女も、我ながらいい方法だと考えていたのだろう。

しかし。

”…だが、やはりダメだ”

レギィスは否定した。
当然ながらレインは、疑問を呈する。

「どうしてさ。いい案だと思ったのに」

”グルティスにとって、転移装置は重要なものだ。それが闇に包まれたとなれば、グルティスの関係者はこぞって転移装置の無事を確かめようとするだろう”

レギィスの声が悔しそうなものに変わっていく。

”たとえ全てを闇に包み込んでも、大事なものであればユーム自身が守ろうとする。無事を確かめるために、光を照らしてしまう…この方法では、逆に転移装置の場所を鮮明に教えてしまうことになる”

「あ…」

”私もいい案だと思ったが、おそらくヤツの狙いはこれだったのだ…おそらく転移装置は、複数の者に照らし出されることになるだろう。そうなれば、ヤツの影も消されてしまう。それにそもそも、どこのグルティスに向かうかわからないという重要な問題が残っている…くそっ”

そして、ふたりの会話は止まる。
レインは歩き続けていたが、心なしかその速度も遅くなり始めていた。

やがて前方にうっすらと町が見えてくる。
そこは、ラコータ村に行く時にはただ通過した町だった。

この町にグルティスがあるのか、彼女たちは知らない。
そしてそのグルティスに転移装置があるかどうかすら、まだわかっていない。

”…レイン”

「ん?」

ふとレギィスは、彼女に尋ねた。

”私はあまりユームの社会に詳しくはない…だから訊くが、あの町にもグルティスはあるのか?”

「ボクもグルティスとかについてはよくわからないんだ。ずっとポーンの村で暮らしてたし、外の情報ってあんまし入ってこなかったから」

”そうか…”

魔人を追うにしては、自分たちはあまりに情報を持っていない。
それをレインとレギィスは、今になってさらに思い知らされるのだった。

”ツァストラは、裏で政治工作もやっていた…となれば、町についての知識もある程度あるだろう。研究者肌のアイツのことだ、転移装置がどの町にあるかも知っていただろうな”

「そうだろうね。だけどボクたちは何も知らない…だけど急がないとね。まずはあの町でグルティスがあるか訊いてみないと」

レインは落胆する心を奮い立たせ、走り始める。
どうやら体力もかなり回復してきたようだ。

”…”

そんな彼女を感じながら、レギィスは考える。
それはもちろんこれからどうすればいいかということだったが、考えは過去のことにも及んでいた。

(前だけ見て何も見えない場合は、後ろを振り返る必要もある…幻光の魔人がツァストラの体を使うしかない以上、カギとなるのはやはりツァストラだろうな)

魔力に秀でた種族:リエラの男、ツァストラ。
今や魔人に体を乗っ取られ、自分の体を自分で動かすことはもうできない。

(魔人も私と同じく、この社会のことは何も知らないはず…ツァストラの記憶を使うに違いないのだ)

異種族であるユームの妻をめとり、子どもをもうけた。
そのために同族から妻たちを殺され、ツァストラは憎悪に狂った。

それが今の状況を作り上げている。
全ては彼の思い通りとなっていた。

(戦いには不慣れだったこともあり、ヤツは自分の子どもの記憶を使って手下を作った…それがデスティカ、シシリッカ、そしてガリオンが封印される前のテンガイだった)

当初は魔人を自らの手で作り出すはずだったが、「上の存在」であるディドライアスが接触してきたのだろう。
ツァストラは魔人を作り出すのではなく、自らが魔人になることへと行動をシフトさせた。

(私たちとも何度か戦った…思えば、シシリッカには苦戦させられたものだ。ヴォルトの記憶を使わなければ、今頃レインたちは生きてはいなかった)

過去の戦いを思い出していくレギィス。
日数としてはまだそれほど経過していないが、どこか懐かしささえ感じていた。

(私がジェッカだった頃に、デスティカとも戦ったが…ヤツは結局フィロンを守った。私の力を使うことで、その存在が消えてしまった…どうやらそれも覚悟していたようだ)

ツァストラによって生み出されたデスティカ。
シシリッカの弟という彼もまた、レインたちの前に立ちふさがったことがある。

しかし結局はフィロンを守り、その姿を文字通り「消した」。
父であり創造主であるツァストラと戦い、この世界から消えてしまったのである。

その戦いは、レインたちは参加していない。
今ここにいるメンバーでは、レギィスだけが詳細を知っていた。

(………)

ふと、レギィスの思考が止まる。

(待てよ…)

デスティカとツァストラの戦い。
彼はそれをもう一度思い出す。

(あの時、ツァストラは確か…)

戦いの場面が、レギィスの中に映像として浮かび上がる。
それが、あるシーンで止まった。

(…!)

彼は気付いた。
何かに気付いた。

そしてそれと同時に、レインに向かって叫んでいた。

”レイン、急げ!”

「えっ?」

唐突にそう言われ、彼女は意味がわからない。
しかし彼女が問いかける前に、レギィスはこう言った。

”幻光の魔人には、急がなければならない理由があるのだ! それに今気付いた!”

「そうなの!?」

彼の言葉を受け、レインはさらに足を速める。

「その理由ってなに?」

”ツァストラはこれまで、自らの複製を造ってきた。クレイソート城でもそうだった…説明したが、憶えているか?”

「う、うん…レギィスが食べちゃった記憶だけど、また説明してくれたんだよね」

”自らの複製を作るためには、自らの寿命を引き換えにせねばならん! 魔力は装置でも補えるだろうが、寿命はそうはいかん…ヤツには時間がないのだ!”

「!」

レインの顔色が変わる。
彼女も気付いたようだ。

「寿命が短くなってるってこと? それも、とんでもなく短く!」

”そうだ! クレイソート城で会ったシシリッカは、ツァストラの寿命が自分よりも短くなったと言っていた。長くても1年以内と見ていいだろう!”

「1年以内…」

”だがそれは、長く見ての話だ。数ヶ月、いや数日かもしれん。それはツァストラの記憶だけが知っている…魔人もそれを知り、急がなければならないと悟った。だから逃げたのだ!”

幻光の魔人が逃げた理由。
それは、ユームの間引きを最優先させるという目的だけではない。

ツァストラが自らをコピーしすぎたせいで、体の寿命がとんでもなく短くなってしまっているのだ。
その間に魔人は目的を完遂しなければならない。

”本来ならば、目的があろうと私との戦いを最優先するはずなのだ。なんといっても、自分を何度も封印してきた因縁の相手なのだからな…恨みが積もり積もっていてもおかしくない”

「じゃあ、一番近い町に行くよね!」

”間違いなかろう。転移装置がある最も近いグルティスに、ヤツは間違いなく一直線に向かっている! あの町にそれがあれば、そこがヤツの目的地だ!”

「うんっ!」

魔人がどこのグルティス向かうかわからないという重大な問題。
それをレギィスは解決した。

あとは姿を消した魔人を、転移装置に近づけなければいい。
それさえ達成できれば、魔人が魔力を得ることはできなくなる。

”あとは姿を消したヤツを、どうやって見つけるかだ…!”

「絶対に見つけよう! そして止める…もうこれで終わりにするんだっ!」

レインは町へと入る。
そして、このシュリクの町にグルティスがあることを、彼女たちはつかむのだった。

>act2へ続く

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