episode12
グンソクさんは、追い払う手振りで私を助手席にずれるように促し、何となく泣き止んでしまった私が移動すると、グンソクさんが運転席に乗り込んだ。
私「何してるんですか?」
グンソク「おい、우유。まだ俺たち、始めたばっかりだろ。」
私「…もう何にもなれませんよ…。」
グンソク「なっただろ。俺たち、好きな人になったし。」
不機嫌なまま前を直視してサラッと言うグンソクさんの横顔を見て、また一気に涙が吹き出してしまう。
グンソク「遅くなったのは俺が悪いけど、一人でこんな事決めるお前は早すぎる。
俺、外国人だから…日本語読むの遅いし、RAKU兄さんに聞いてから来たのに。」
バサバサと乱暴に音を立てて写真誌を捲って件の記事のページを開き、私に見せて言う。
グンソク「RAKU兄さんに取られたって思ったらムカついたけど、自分にも怒った。
だから、ゴメンねって言いたかった。」
私「だったら何でそんなに怒ってるんですかぁ。」
バッグからポケットティッシュを出して涙を拭きながら言うと、グンソクさんは写真誌の写真を全部指差しながら応えた。
グンソク「コレもコレもコレも全部!RAKU兄さんと共演じゃん!
共演したかったのは俺だし!」
私「えーーっ?そこぉ?!」
グンソク「大事なことだろう!」
考えもしなかったご立腹の原因に、私は一瞬で泣き止んで笑ってしまった。
途端にホッとした顔で私を見る。
グンソク「さっきのメール翻訳したら、事務所辞めたって書いてあったけど?もう俺が嫌いになったから?」
私「好きだから辞めたんです。」
グンソク「俺が好き?」
私「うん。」
私が返事をすると、グンソクさんは一瞬はにかんだ表情を隠すように窓に向いてから、真剣な顔になって私に向き直って言う。
グンソク「俺の우유は俺が守る。」
episode 13
父親「本当に来ちゃったよ…チャン・グンソクが…」
母親「ねー…。本っ当に…綺麗な男。」
リビングで私の両親が呆然としながら、向かい合うグンソクさんを眺めていた。
グンソク「長い間ちゃんとご挨拶出来なかったこと、済みませんでした。」
父親「わぁ…お母さん、喋ってるよ…」
母親「ねー、お父さん…動いて喋ってるねぇ。」
長兄「二人とも、話し聞いてあげろよ。いつまでグンソクさんを立たせとくんだよ。」
母親「あ…やだ、ごめんなさいねー。座って座って。」
母に促されて、やっとグンソクさんがソファに腰掛けた。
父親「ボクね、テレビ局の警備員だから芸能人は見慣れてるんだけどもねぇ…。いや本当…イケメンですね。」
グンソク「ありがとうございます。よく言われます。」
グンソクさんの返事に兄達が吹き出した。
長兄「でもグンソクさん。未来の何がそんなに良かったんですか?」
次兄「口は悪いし我儘だしプライドは高いし、ほとんど日本にも帰って来ないのに。」
グンソク「だから良いんです。ボクじゃないと、彼女に負けるじゃないですか。彼女に勝てるのはボクしか居ないみたいですから。」
私「それを言うなら、グンソクさんの恋人の条件をクリアできる人なんか、太陽系の隅から隅まで全部探しても私しか居ませんから。」
グンソク「俺にも우유しか居ないみたいだね。」
長兄・次兄「うゆ?」
双子の兄たちに同時に聞かれ、私が事情を説明すると、家族みんなで私を指差して笑う。
次兄「幼稚園の頃のアダ名と同じじゃん!牛乳て!」
私「そうだった?覚えてないんですけどぉ?」
父親「うん、まぁ未来は5歳の頃にZの社長にスカウトされてレッスンで忙しかったからなぁ。」
次兄「あのオバさん、今どうしてんの?未来がアメリカ行っちゃって寂しがってんじゃない?」
グンソク「あーはい、元気です。
ボクが日本に来た時には、いつもミクルは?って聞いてます。」
事務所を辞めたのは3年前。
『俺が守る。』と言ったグンソクさんは、日本では私の活動を真っ当に評価されないのを心配して、社長に私を海外で女優復帰させるように直談判した。
最初はグンソクさんの韓国事務所に所属する話が出たけれど、私たちの関係で要らない炎上を避けるためには、いっそアメリカでゼロから自力でやって来いと、社長に日本を追い出された。
その間、さすがに一人で挫けそうになる時は、必ずグンソクさんが可能な限りの方法で私の心を守ってくれていた。
私「社長はいつもそう。子役時代だって散々意地悪なこと言われて大っ嫌いだったもん。
でも、お陰で新人賞も獲れたし、主演女優賞だって獲れたんだけど。
もしかしたらね、マネージャー業をやれって言ったのも、いつか私を海外に送り出して一人でもやって行けるようにしてくれたのかもしれない。
そう考えると、本っ当にムカつく!」
グンソク「カッコ良すぎるね、社長。」
母親「未来は相変わらずヘソ曲がりだねー。素直に感謝しなさい。」
私「ヤダ!そのせいで結婚するのに3年もかかったんだもん!」
私の言葉で皆んなハッとする。
父親「そうだった!思い出話をする席じゃなかったね。」
そう言うと、急に場が静かになってぎこちなく全員が背筋を伸ばした。
長兄「えー、ではグンソクさん。どうぞ。」
グンソク「あーはい。じゃあ…お父さんお母さん。
未来さんと結婚してみてもいいですか?」
父親「え?え?してみてもって言った?え?試しに結婚してみるノリ?」
母親「ほら、グンソクさん外国人だからぁ…ニュアンスよ、ニュアンス。」
父親「にゅ…ああ、牛乳だけに?」
長兄・次兄「分かんねーよ。遠いし。」
グンソク「親父ギャグ?」
グンソクさんが私の耳元で笑うところかどうかの確認をするから、私は苦笑いで否定しておいた。
父親「えーっと、では…グンソク君。
未来をチャン・ミクルにしてやって下さい。」
グンソク「チャン・ミクル?何ですかそれ?…ああ、韓国では結婚しても苗字は変わりません。」
母親「あらぁ、そうなの?お父さん、夕べから練習してたのに…残念ねぇ。」
私「恥ずかしいんだけど!」
そんな感じで家族とも打ち解けて、夕食前に私はグンソクさんを一番好きな場所に連れ出した。
epilogue
風の音しかしない静かな場所で、今日は二人で夕焼けを眺めてる。
グンソク「後悔させないって言ったよね…あの時。俺は、約束守れてる?」
私「今はまだ分かんない。
でも、グンソクさんを好きになってから今まで後悔なんかした事無いよ。」
グンソク「じゃあ、俺にして欲しいことは?」
私「元気で長生きして欲しい。」
グンソク「何だよそれは!そんなの、孫がお爺ちゃんに言う言葉だよ。」
私「約束出来ないの?元気なお爺ちゃんになるのは難しい?」
グンソク「その頃には우유もお婆ちゃんになるね。
それまでずっと俺だけ見てなきゃダメだよ?」
私「うん。」
グンソク「じゃあ、孫作らないと。
あ、その前に子供作らないと。」
私「いっぱい子供作ってぇ、もっといっぱいの孫たちに『元気で長生きしてね』って言ってもらおうね。」
手を繋いで線路の先を二人で見てる。
枕木で繋がってどこまでも二つ並んで伸びる線路は、手を繋ぐ私たちの足元から長く伸びた影と似ていた。
グンソク「俺たちと似てるね、この線路。」
私「私も今、そう思ってた…」
グンソク「俺たちも、いつか歳をとって錆びても、ずっと手を繋いでいよう。」
私「じゃあ私たち、仲のいい元気なお爺ちゃんとお婆ちゃんになるんだね。」
グンソク「そうだよ。
今は場所が離れてるけど、そんな事に負けないって俺が信じてるから、一緒にどこまでも行ってみよう。」
夢なんて、いつまでも一つだけじゃなきゃいけないものじゃない。数量限定じゃないんだから、幾つでも持ってていい。
でも、夢のない人には未来も描けない。
私たちは同じ未来を描いて、それを信じて歩き出した。
実現するかどうかなんて、今は分からなくてもいいのかもしれない。
ただ、何処かにたどり着いた時に、振り返って一緒に笑える人が彼であるように、私は私らしく彼を見つめて生きてく。
この先もずっと続く物語を。
