(其の七)

 

「私が最初からクリスタルグラスを物質的現象と認識していたら、ですか?」

 

<長い沈黙が訪れました>

<私は全身全霊をもって師の言葉の意味を理解しようと努めました>

<心の中で何度も何度も師の言葉をくりかえします>

 

『わかりますか?

この世に存在するすべてものは物質的現象なのですか?

はい、その通りです。

とても価値あるクリスタルグラス。

あなたの宝物の一つです。

あなたはそれが永遠に存在するものと思っています。

物質的現象ではなく永遠の物質としてです。

その宝物が壊れ去った。

苦悩があなたを襲います。

しかし、もしあなたが、

最初から価値あるクリスタルグラスを物質的現象だと認識していたら、

どうでしょうか?』

 

突然私にひらめきが降り注ぎました。

その様子を見ていた師はにっこりとほほえまれました。

「智慧が手に入りましたね」

 

師は静かに話しはじめられました。

 

「希少価値のクリスタルグラスは、物質的現象なのです。

そして、形あるあるもは必ずこわれ去る運命にあります。

くり返します。

形あるあるもは必ずこわれ去る運命にあるのです」

 

『これを般若心経では『色即是空』(しきそくぜくう)と教えてくれています』

 

「色(しき)とは、エロティシズムのことではなく、物質的現象として存在する、

この場合は、クリスタルグラスのことですね。

目に見えるもの、形あるもののことです。

ところが、目に見えるもの、形あるものは、必ず移り変わり、

こわれ去る運命にあるのです。

もちろん私たち人間も物質的現象として存在しています」

 

次回更新は7月17(金)です。

 

 

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