-続-三日目の事故
ショップで過ごしていた時は食欲もなかったらしいので不安ながらも決められたパピーフードの量と栄養剤を混ぜ、お湯で一度ふやかしてペースト状に潰したものを一日四回に分けて食べさせた。
家に着いて早々に出した食事は残さず完食。
食欲があるという事実で幾らか不安は和らいだ。
食後にトイレ。
お腹の調子は良くはないようだ。
餌の量の問題なのか、環境変化の問題なのか、住みだしたその日では当然判断材料が足りない。
ショップ側でもネット上でも飼い始めて一週間位はあまり構わないで、できるだけ薄暗い環境で様子を見て引っ越し先の景色、匂い、音に慣れさせたほうが良いという。
しかしケージの半分を隠してこちら側が見えないとやたら「クゥンクゥン…」と鳴いていた。
試しに解放すると鳴き止んだ。
何度か繰り返し様子を見たが、どうやらこの子の場合隔離されていることのほうが不安らしい。
寝ている時を除いて周りの景色は見えるようにした。
とはいえ子犬の平均睡眠時間は17時間なのでほとんどの時間は寝ている。
外に出たいのか柵をやたらと噛む。
子犬は歯の抜け替わりまで歯の痒みから何でも噛みたがるというが柵を噛むのはいただけないので「ダメ!」という説得を敢行するも聞く耳はもたない。
無視も効果なし。
ひたすらに「ダメ」という言葉と感情を知らせる時間は続いた。
当然抱っこしても手を噛む。
服も噛む。
親兄弟と早くに離されたせいで噛んだらどんなことが起きるか、相手がどんな反応をするのか、この子はまだ知らない。
自分は幼少期に近所の犬に追いかけられたトラウマのせいか、噛み癖がついていては今後コミュニケーションのとりようがなくなってしまうことが危惧されたので強制的な躾にとりかかることになった。
「噛み返し」。
それは犬同士の取っ組み合いの如く。
この不毛なる闘いを一か月近くも続けることになるとは自分もこの時点ではまだ知らず。
それでもケージの扉を開ければすり寄ってくるのだからこの子はよほど人好きなのだろう。
自分が寝る時も様子を確認しやすいようケージの隣で眠ることにした。
翌日も食欲旺盛。
お腹の調子は良いとは言えないが元気いっぱいだ。
本当に先日まで弱っていた子なのだろうかとおもうほどに。
ショップの環境的な影響で体調不良を起こしていたことがこの日に確信できた。
健康でさえいてくれたら後は何とでもなる。
そして三日目の朝。
トイレトレーのシートを取り替える時は小さいサークルに隔離するようにしていたのだが
片している際に背後から鳴き声が。
「キャン!クゥーンクゥーン!」
何とケージから出てフラついて歩いている。
自力で柵を飛び越えてしまっていた。
落下時のショックか目が虚ろになっている。
当たり前だが動揺せずにはいられなかった。
大声で叫んでいた自分がいた。
数秒の隙。
自分の監視が甘かったせいで大怪我をさせてしまったのだ。
対処のしようもわからず近所の動物病院へすぐ運んだ。
到着時すでに脳しんとうらしき症状は止んでおり、獣医に看てもらったところ
「目が虚ろになっていたのは落下時のショックからくる軽い脳しんとうだとおもうのでそんなに心配しないでください。一応レントゲンも撮りましょう。」
レントゲン撮影したところ右手首の骨が曲がっているかもしれないとのこと。
骨については先天性異常もありうるし、子犬の場合は骨も若木の状態なので現時点で骨折とも判断できないらしい。
応急処置としてギブスをつけることに。
本人がギブスを噛んで外してしまうようならと、エリザベスカラー(首に装着する医療器具)を貸していただけたのだが、器具が大きすぎて眠ることすら辛そうなので様子をみることに。
最初は違和感もあり噛む気配もあったがすぐに諦めてくれた。
言葉を伝えられないもどかしさ。
痛くて辛いおもいさせちゃって本当にごめんね。
ここからの三日間、自分はほとんど眠れずちゅらの様子を看続けた。
そして一週間後に再検査。
無事ギブスを外せた。
獣医さん「おそらく大丈夫でしょう。これから明らかに足が曲がっていたりしたらまた連れてきてください。」
骨として異常があるかは成長過程をみて判断したほうがいいとのことだった。
セカンドオピニオンとして近所で評判の良い動物病院にも連れて行ったが同じ内容だった。
とりあえずはもう安心。
これから一緒に気をつけようね。
そしてまた暴れん坊ちゅらの暴走劇が新たな幕を開けた…