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「抜けた乳歯」って保存してる?抜いた歯が【再生医療】に使える! 再生医療の最新情報を歯科医師が解説


子どもたちは夏休みを迎え、遊びや宿題と充実した毎日を送っていると思います。生活リズムも変わりますので、虫歯予防にも気をつけたいですね。今回は夏休みらしく夢のある話題として、歯の再生など最前線の再生療法を論じます。



再生医療とは?

再生医療は、病気やケガなどで失われた臓器や組織の機能を、細胞から再生しようとする新しい医療技術です。

臓器や組織が失われると、必要な細胞へと変化(分化と呼びます)する「幹細胞」が分裂して増殖し、元通りに回復します。ケガで傷付いた皮膚が自然に回復するのも、幹細胞による再生力が働いたからです。

幹細胞を再生医療で活用するには、いくつかの条件があります。

1.活発に増殖する能力(自己複製能)があること。

2.複数の種類の細胞に変化できる能力(多分化能)があること。

3.患者さんにとって安全であること。

近年ではES細胞やiPS細胞のように、多彩な細胞に変化(分化)できる万能細胞が12の能力に優れるとして、多くの研究が進められています。

特に、細胞に特定の遺伝子を働かせて人工的に未分化の状態に戻すiPS細胞など、先進的な幹細胞の動向も注目されています。

これらの万能細胞は活用の範囲が広いが故に安全性や倫理面でのリスクも懸念されますが、万能細胞を用いなくても、患者さんの臓器や組織にもともと存在する幹細胞(組織幹細胞)を利用し、安全かつ即応性も兼ね備えた治療の研究も進められています。

具体例として、骨の中に含まれる骨髄幹細胞を活用して血管や神経の細胞再生を促進し、脳梗塞などの疾患による後遺症を和らげる治療など、いくつかの治療法がすでに医療現場で実施されています。

このような再生医療で近年注目を浴びているのが、歯にある歯髄(しずい)幹細胞です。

再生医療における歯髄幹細胞のメリット

歯髄は歯の中にある組織で歯髄組織とも呼ばれ、図1のように歯の中の黒く写る部分(歯髄腔)にあります。歯に栄養を与える血管、痛みを感じる神経などを含みます。



もし、抜けた(抜いた)乳歯を見る機会があれば、歯を裏返して見てみてください。ほんのり赤く血の付いた、白っぽいゼリー状の組織が歯冠部の裏に付着しているのが確認できると思います。それが歯髄(組織)で、ここに歯髄幹細胞が含まれています。

幼児の乳歯でも高齢者の歯からも採取できる歯髄幹細胞には、再生医療に適した様々な特性があることが分かっています。

先述した自己複製能や多分化能があるのに加え、腫瘍化(がん化)する可能性が極めて低く、年齢や性別を問わずに患者さんから採取できるメリットもあります。さらに、患者さん自身の細胞を使用するため、移植後に免疫反応(拒絶反応)を起こす恐れもなく、安全性も優れています。

歯髄幹細胞は骨髄幹細胞と比べて34倍もの増殖力があるため、短期間で大量の治療用細胞を得ることができる利点もあります。

しかも、骨髄幹細胞の採取では骨髄穿刺(骨に針を刺して骨髄液を採取すること)という体に負担がかかる処置をしますが、歯髄幹細胞は必要な治療で抜いた歯(抜去歯)の歯髄から採取するため体の負担は最小限です。

これらの優れた特性により、歯髄幹細胞を用いた再生医療に期待が高まっているのです。

歯髄幹細胞の活用法

歯髄幹細胞は骨、神経、筋肉などの細胞にも分化できるため、細菌感染などで失った歯髄の再生治療だけでなく、脊髄損傷や脳・心筋梗塞、筋ジストロフィーなどの疾患の治療への応用が期待されています。

神経疾患、筋疾患などは動物実験の段階で効果が認められており、ヒトに対する有益性が実証されれば、歯科と医科が連携した治療が実践されるでしょう。

このように多くのメリットがある歯髄幹細胞ですから、「抜けた乳歯を捨てるんじゃなかった…」と悔やむ声があるかもしれません。では実際に、抜けた乳歯の行方はどうなっているのでしょうか?

ちなみに図2は、歯科医院で抜いた歯を患者さんにお渡しする乳歯ケースの例です。


抜けた(抜いた)乳歯はどうしてる?

20244月、3040代の母親500人に対して抜けた、または歯科医院などで抜いた乳歯に関するアンケート調査が行われました。

その結果、過半数の母親が歯を保管していると回答し、35%の母親がすべての乳歯を保管していました(図3)。


その理由として「子どもの記念だから」が最も多い一方で、乳歯を残す目的や保管方法についての疑問も認められました(図4)。


ただ、高率で乳歯は保管されてはいるものの、保管して眠らせているだけというのが大半で、実際に何かに有効活用されるケースはほぼ皆無でしょう。

しかし、「それではもったいない」ということで、歯髄幹細胞を保管する取り組みも始まっています。

将来に備えた歯や歯髄幹細胞の保存

日本歯科大学は20154月に「歯の細胞バンク」を設立し、将来必要な時に歯髄幹細胞を利用した再生医療を受けられるように細胞を保管するシステムを作りました。

このバンクでは、認定医から送られてきた患者さんの抜去歯から無菌状態で歯髄を採取して細胞培養し、凍結保存して保管します。

対象歯は、乳歯・親知らず(智歯)・矯正治療などで抜いた歯で、認定医(認定医講習会を受講した歯科医師)のいる歯科医院で抜去された歯であることが条件です。

その他、大学以外でも歯や歯髄のプライベートバンクを推進するベンチャー企業などがあり、骨髄バンクや角膜のアイバンクなどと並ぶ「TOOTH BANK(歯のバンク)」の一環として、今後ますます増えることが予想されています。

歯は再生できるの?

歯の周りや歯の一部の組織、つまり歯周病で失われた骨や虫歯で傷んだ歯髄を再生して回復させる治療は、すでに20世紀の後半から臨床現場で行われています。

では、“歯の再生”はどうでしょうか?

実際のところ、iPS細胞などの万能細胞を用いて歯を再生することは理論的に可能であり、それに向けた研究が進んでいます。

現在では、さらに分化が進んだ歯の芽となる「歯胚(しはい)」を成長させて歯を再生することが、マウスやイヌなどの動物実験ですでに成功しています。

20245月、大阪の病院や京都大学などの研究グループが「歯生え薬」の応用に対する治験(医師主導による、実際に人を使用する臨床試験)を9月から開始すると発表し、2030年の実用化を目指して、生まれつき歯の本数が少ない「先天性無歯症」の治療につなげたいと述べました。

この研究は、ヒトにおける歯を再生させる世界初の試みとして、各社のニュースで報道されました。

この薬は、歯の成長を抑えるタンパク質(USAG-1)の働きを抑制することで歯胚を成長させて歯の再生を促すメカニズムで、動物実験ではすでに効果が実証されています。


最先端の治療には、コストや倫理面など乗り越えなければならない課題が少なからずありますが、再生歯が日常診療に使用される日はそう遠くないのかもしれませんね。








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