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デタラメな健康情報から身を守る方法





「1年以内に地球に隕石が落ちる可能性が高いので、地下室のシェルターを急いで作りましょう。うちの会社ですぐに作れますよ。」


こんな風に住宅改修の業者の人から宣伝の電話がかかってきても、「そんなでたらめな話、誰が信じるか」とすぐに断ることができるでしょう。


しかし一方で、

「大豆のイソフラボンは認知症予防に極めて有効なことが証明されています。あなたは1年後に認知症になるリスクがあるので、この1年間うちの会社のイソフラボンサプリメントをとった方が良いですよ。」


こう言われると、もしかすると信じてしまうかもしれません。この両者は、医師の私からすれば同じぐらい根拠のないでたらめなのですが、必ずしもそうは感じられなかった人も多いかもしれません。


では、この違いはどこから来るのでしょうか。ここにはいくつかの要素を考えることができます。

不安が人間の判断力を鈍らせる


まず一つは、「そこに不安があるか」という点が大きく異なります。そもそも「1年以内に地球に隕石が落ちる」心配をしている人はあまりいないと思いますが、認知症ならば心配している人も多いかもしれません。年齢とともに増加する病気なので、高齢者ならば尚更でしょう。あるいは、がんのような病気であれば、もう少し若い人でも不安に感じられるかもしれません。


このような不安の感情は、安心するための何かで埋め合わせをしたいというのが人の心理だと思いますが、ここに入り込んできてしまうのがでたらめな健康情報です。健康というのは誰にでも身近で、誰にでも不安が生じうる問題です。だからこそ、誰にでも入り込む隙が生まれてしまいます。

「新型コロナには〇〇茶が有効だ。」


これを聞いても、今でこそ、多くの人がでたらめだと判断できるかもしれませんが、まだ何も分かっていなかったパンデミックの始まりの時期には、皆がコロナに不安を抱き、飛びついてしまったかもしれません。実際にこのようにして誤って売れていってしまった商品は数多くあったと思います。


しかし、冷静になれば、より優先して研究されるはずの治療薬もワクチンもまだできていない時に、有効なお茶などしっかり研究されるはずもありません。それは、冷静さがあれば判断できたことかもしれませんが、そこに不安という感情が入ってしまったとき、人間の判断能力は鈍くなってしまうのです。


医療情報の非対称性

もう一つ鍵になるのが、「情報の非対称性」です。例えば、芸能人の噂話などであれば、誰でも十分に情報がとれ、あまり小難しい話なしに理解ができるので、情報を確認することは比較的簡単なことでしょう。(もっとも、芸能人に疎い著者にとっては、知識があまりに不足しており、医療よりも難しい話と感じるのですが。)一方、健康情報はどうでしょうか。もちろん、風邪の話ぐらいであれば皆に理解できる話かもしれません。しかし、大豆のイソフラボンや認知症のメカニズムを説明されてしまうとたちまちよくわからなくなってしまうと思います。

「イソフラボンには抗酸化作用や抗炎症作用があることが分かっています。アルツハイマー病の発症には、脳への酸化ストレスや慢性的な炎症が重要な役割を果たしていることが知られており、イソフラボンはこの酸化ストレスや炎症からあなたの脳を守ってくれるのです。」

こんな風に説明をされると確かに納得してしまいませんか。実際にこれに近い宣伝は様々なウェブサイトで見つけることができます。しかし、その真偽を確かめる術も限られ、アルツハイマー病の家族がいるなど、この病気への不安があれば真っ先に飛びついてしまうかもしれません。あるいは、不安があまりなくても、「そういうものなのか」と納得してしまうかもしれません。

ここに、「情報の非対称性」があるのです。専門知識を有する医療者や情報の提供者側には容易に理解できても、患者や提供される側には簡単には理解できず、情報の提供者に依存してしまうという「非対称性」です。

でたらめな健康情報で頻用される三段論法

先の文章の真偽について、もう少し見ていきましょう。それぞれの文章は実は必ずしも間違いではありません。実際に、イソフラボンの抗酸化作用は知られ、アルツハイマー病の発症に酸化ストレスが関与している可能性も指摘されています(1)。

しかし、ここには3段論法のカラクリがあります。科学の世界では、「AならばB」、「BならばC」がそれぞれ真だったとしても、「AならばC」は真ではないということが良くあります。その昔、「β遮断薬と呼ばれる薬は心臓の収縮力を弱める」、「心臓の収縮力を弱めると慢性心不全の患者に悪い影響をもたらす」、なので「β遮断薬を慢性心不全には使ってはいけない」という三段論法が信じられ、避けられていました。

しかし、「AならばC」を直接検証したら結果は全く逆となり、β遮断薬はむしろ慢性心不全の人に好影響を与えていたことが分かりました。この結果から、現代の医療は、三段論法の結果とはまるで逆のことを行っています。このような三段論法は説得力を持ちやすいですが、論者に都合の良いデータだけが切り取られる傾向があり、バイアスのリスクが高くなります。このため、真実とは違うことを言ってしまうリスクが生じるのです。

科学の基本に忠実になれば、「AならばC」が真実かを知るためには、「AならばC」を直接証明するための研究が必要ということになります。それを欠いている場合、仮に「AならばB」「BならばC」が分かっていたとしても、「AならばC」かは「そうかもしれないが実際には分からない」としか言えません。

イソフラボンについては、実際にサプリメントが本当に認知症予防に有効かどうか、直接証明するための試験が行われ、その効果は否定されています(2)。

ここにも、量を増やしたらどうか、対象となる人を変えたらどうかなどといった批判的な吟味もできるので、この試験結果もまだまだ完全なものではありません。このため、依然として「イソフラボンが認知症に有効か」というのは「仮説」としては重要だと思いますが、その答えは「まだ分からない」というのが真実で、にも関わらず「有効だ」と言ってしまうのは、やはり根拠のないでたらめということになります。

このように、健康情報には根拠を欠くでたらめがたくさん蔓延っており、皆さんの不安をターゲットにして、そこにつけ入ろうとしてきます。そのような情報から自分自身を守るには、溢れる情報から正しい情報を選びとるリテラシー、アイキャッチな情報が入り込んできても一歩立ち止まる習慣づけ、三段論法を見極める冷静な判断力、そして分からないことは分からないとする謙虚な姿勢が重要になると思います。これらは誰にでも身につけられる能力であり、必ずしも難しいことではありません。








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