依存症関係の用語集2(メカニズムなど)

 

耐性獲得

・アルコールなど依存性薬物は、継続して摂取を続けると次第にその薬物の効果が弱くなっていく。アルコールの場合には、俗に「飲みあがり」と言われる現象が知られており、これが「耐性獲得」である。

・「耐性」ができるというのは、単に身体がアルコールに強くなる(慣れていく)というだけでなく、アルコールが体内にある状態を普通であるかのようにする疑似的な体内環境が出来上がっていくこと。

・習慣的に飲酒する人は誰でも「耐性」ができるのだが8割の人は問題となるレベルには至らない。

 

離脱症候群

・アルコールに対する薬物耐性ができるにしたがって、酒が抜ける際に不快感や危険な症状が出現するようになっていき、その昔は「禁断症状」と呼ばれていた。これが「離脱症状(症候群)」である。

*「禁断症状」というコトバには、昔ながらの「アル中イメージ」が伴い、スティグマをより強める。

 早期離脱症状

・酒が切れて血中アルコール濃度が低下した際の不快感(イライラ、発汗、細かい手指の振戦)、聴覚過敏や幻聴、吃逆、時には痙攣発作(アルコールてんかん)など。これは「退薬現象」である。

・いわゆる「二日酔い」も「退薬現象」という意味で、早期離脱症状の一つと捉えられる。

 ②振戦せん妄(大離脱)

・早期離脱症状が治まる頃から出現する、粗大な振戦や激しい発汗を伴う意識障害(せん妄状態)

・1日~2日(多くは丸一日)ほどせん妄と不眠が続く。その後終末睡眠を経ておおよそ7日程度で終わる。これは「退薬現象」ではなくアルコールによる疑似的なバランスが正常化する際の嵐である

・早期離脱症状だけで終わる場合でも、大離脱が終わる頃までは疑似的な体内バランスが続く。

・出現するか否か個人差も大きく、飲酒がハードで、身体や脳へのダメージが深いほど現れやすい。

・振戦せん妄の既往のある方は、再び出現する危険も高い。

・振戦せん妄は安全確保とビタミンB群などの補給、全身管理を要する。ベンゾ系薬剤は効かない。

*「離脱症状」の抜けた時期は「否認」が軽くなる傾向あり  “ピンチはチャンス”

 

 ③離脱後症候群

・上記①②が終わってからも続く不定愁訴や意欲減退など。狭義の離脱症状ではなく「病気」を受容す際の心理的プロセスやドライドランクなどにも関係があり、1~2年続くこともある。

適切な薬物療法(離脱コントロール)によって①②の不快感や危険は、ある程度軽減も可能。

・それに対して③は、回復のための行動である自助グループへの継続した出席や専門医療、回復プログラムが基本で、心理的なサポートが有効である場合もある。しかし基本的には「日にち薬」である。

 

報酬系

・脳内の快感を司る神経や神経伝達物質、体内物質の働きなどの総称。

・最も基本的な「報酬系」は「Aー10神経」だが、「報酬系」はけっこう複雑なシステムからなっており単純なものではない。だから谷口にもよくわからないし、知る必要もない。

・よくドーパミンは「快感物質」と言われているが、本当は「心と身体」のアクセルである。

・オピオイド受容体とは、脳内に存在する「麻薬をキャッチするアンテナ」で、飲酒によってここが刺激されると「報酬系」が刺激され、パッピーになっていく。これがオピオイドμ(ミュー)受容体。

・オピオイドμ受容体は快感を増強させるが、飲酒後遅れて働くk(カッパ)受容体は快感を抑制。依存症でない場合には飲酒を切り上げるように働くが、耐性が出来てくるとダラダラ飲みなど依存症の進行を後押しする。減酒治療薬の作用機序はここにも関係している。詳しくは前回の資料を。

アルコール依存症とは、快感を求めることだけによって罹っていく病気ではない ここ重要!

 

その他のメカニズム

 <負の強化への抵抗>

・薬物耐性が強まると、より多くのアルコールが必要。しかも飲めば快くなる率が低下し「ハズレ」の頻度が高くなっていく。この「ハズレ」から生れる不快感などを消し去るために、さらにアルコールが必要になっていく。

  *この現象が「負の強化」と呼ばれるものである。

・人は「負の強化」で飲み進むことに無抵抗ではいられず、必死に酒に闘いを挑む。しかし依存症者自身はこれを意識もせず病気を進行させていることが多く、断酒後にその出来事が思い出される場合もある。

  *これが「負の強化への抵抗」で、「否認」のメカニズムの一つ。

 <間延びした報酬>

 ・「ハズレ」が多くなると“次こそは・・・”と、さらに囚われる傾向がある。「間延びした報酬」は、より人に囚われを作り出しやすい。  ☆太公望の心理

 <欲求のすり替え>

・飢えた実験動物に水だけを与えると、死ぬまで多量の飲水を続ける。これは「飢餓」を喉の「渇き」という欲求にすり替えた行為であるが、決して満足が得られず、その欲求は底なしとなる。

・同じように、人が実存の「渇き」をアルコールで置き換えようとすると、底なしの渇望になっていく。これがちょっと飲むとさらに激しい渇望を発動させるメカニズムの一つである。

 酔いによる退行を求める傾向>

飲酒によって求める酔いは求める「退行」の深さでもある。アルコール依存症が進行すればするほど、より深い酔い(退行)を求めるようになっていく。

・求める退行が激しくなるにしたがって、破壊性を呈するように変化していく。

Addictionの専門医、斎藤学氏はこれを「機会飲酒」から始まり、「寂しがり→自己愛→自己憐憫→昏倒」の順序を辿ると説明し、「勤労大衆の殆どは子供返りの願望を秘めている」、(飲み屋は)「一種の幼稚園に他ならない」とも表現。そこに集う男性(男性の場合)は、ママさんの女性性を求めるのではなく、母性を求めているのかも知れない。だから「ママさん」と呼ばれるのだろうと斉藤氏は語っている。

これは求める酔いの深さ「欲求のすり替え」でもある。

*他にもメカニズムはあるだろうが、考えつく部分をここに挙げた。