先日、AM送信機の実験をしているJG1RQT(exJA9BYD)OMのお宅に伺ったときに興味深い話を聞くことができた。
 
RQTさんによると「AMは言わば『盆栽趣味』だ」・・・と言っていました。
 

 
4P60
4P60ファイナルのAM送信機
言い得て妙と云うか、誠にマトを射た言い回しですね。言い換えれば「限りなく制限を設けて、その中で力を尽くす」、悪く言えば「究極の無駄」とも言えますね。
 
ただ、そうした「力を尽くす」ことで、新たなテクノロジーやステージが開けることも間々あります。
 
究極の無駄こそ、究極のフィールドなのかもしれません。
 
RQTさんの真意は、決して「年寄りの懐古趣味」ということだけではないでしょう。
 

 
そもそも、黎明期の無線技術開発を除けば、アマチュア無線そのものが「盆栽趣味」なのかもしれない。当時の最先端技術であった「通信」は、公共優先になりアマチュアに課せられた様々な制約の中で、より高度なテクノロジーを求め、新たな技術者を育むことで、無線技術の発展や普及にアマチュア無線の貢献は大きかったのだろう。
 
現代のQRP局は、5Wmaxという制約の中で、給電効率を上げる工夫をし、フルサイズ八木を回して、DX-QSOにチャレンジしている局もある。驚く電界強度でSメータを振ってくる。
 
逆にキロワット局は、スプリアスなど電波の品質を追及して、RIG、給電、マッチング、フィルタ、アンテナなど、並々ならぬ努力を重ねていると聞きます。
 

 
現在、自作機を除いて総合通信局の落成検査を必要とする唯一のアマチュア局なので、電波の品質についての重要さを熟知しているからなのでしょう。
 
この点がアンカバーキロワットと考え方が、月とスッポンでまったく違いますね。
 
SSB変調では、音質や音量を調整することで通信の明瞭度を改善して、パイルに勝ち抜き、通信品位を上げる工夫が行われ、7MHz拡張バンドなどでは、局間の実験が日常的に行われています。
 
電離層反射を望めないV/UHF帯でも、アンテナやプリアンプを工夫して遠距離通信を果たしたり、年に数回発生すれば良いとされるラジオダクト現象の予測を試みたりするアマチュア局もいるようだ。
 
マイクロウェーブ帯では、更に制約は多く、ジャンクや手作りRIGやアンテナで到達距離を少しでも伸ばす試行錯誤が繰り返されています。自局のタワーや屋根の上にパラボラやヘリカル・ビームなどを見かけると頭が下がります。
 
エコロジカルでノイズに強いCWでも、当局のように限られたアンテナや送信出力の中で、より遠くへ飛ばすことに力を注ぐ一方で、パソコンを使った自動化に取り込むOMさんもいる。また日本人同士のQSOでは、戦前から脈々と受け継がれてきた和文を、巧みに使いこなすOMさんを耳にします。
 

 
オスカー1号で始まったアマチュア衛星通信も、国産衛星を飛ばしたり、トランスポンダが大幅に改善したり、世界の宇宙開発を支える技術者を生み出しています。
 
地上局(=アマチュア局)も、レピーターのようなお気軽アクセスから、PCを使った本格的な追尾装置を開発している局もいますね。
 
パソコンと無線技術の融合も、多くのOMさんの力で具現化され、業務日誌(ログ)やコンテストの電子化、RTTY、SSTV、PSKなどの通信技術などは日本発、世界標準になっているとも聞きます。
 
しかもアマチュア局が自ら開発してプログラミングしたソフトウェアは、膨大な知識と試行錯誤を繰返して完成したと思われますが、すべてタダ・・・フリー・ソフトなのです。当局も当たり前のように使っているが、太っ腹には感謝の一語です。
 
だったらドネーションでしょう・・・と言われそうです。
 

 
これらに止まることなくEME、デジタル通信など、アマチュア無線家が自らが行う研究開発は、自由な発想やアイディアで、結果を恐れず、採算を度外視した「アマチュアにしかできない」芸当なのだ。
 
アマチュアが苦労して出来上がった考え方やシステムを、チャッカリ拝借するのがアマチュア業界の習わし・・・この時だけは、メーカーもアマチュアに戻るらしい。
 
当局は「盆栽」について全く無知だが、盆栽が究極の耽美や芸術性を求めるのなら、アマチュア無線は、常に最新のテクノロジーを貪欲に取り込んで、新たな可能性を生み続けていることだと思います。
 
こうしたアマチュアの大いなる挑戦と試みを、若い人にダイレクトに伝えることが、「盆栽趣味=年寄りの道楽」と言われない・・・理科離れ、ハムの衰退を嘆かない、最大の方法なのかもしれません。
 
 
 
 
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