雲の境で | 飛行機雲の視点

飛行機雲の視点

その瞬間の一コマ、馳せる想い、写真やそれにみえるシーンなどを言葉に綴ってます。本や歌詞から引用させて頂く場合もあります(その際は引用元を記載します)

その日は仕事を少しだけだが早めに切り上げた。普段は寄り道もせず、早々に自分の部屋へと帰るか、必要な物をあらかじめ頭の中にリストアップし、買い物をして帰宅する。
2月の半ばを過ぎ、身に染みる寒さは依然として続いているが、確実に、そして着実に感じ取れる程に陽の長さは、春の訪れを感じさせている。
ここ2週間ほど天候は記録的な大雪をもたらし、どんよりとした空気が広がり、この地方都市をも一面の銀世界へと変えていた。そんな中、その日は久しぶりの晴れ間が覗き、寒いながらも気持ちの良い1日となった。
早めに仕事を終えた分、彼には時間ができた。なぜかそのまま家へ帰るのが勿体なく思えて、普段は通らない道を通り、遠回りして帰ることをとっさに思い付いた。職場から見て彼の自宅は北の方角になる。徒歩で帰る間に、いくつかの大通りを渡り、繁華街を抜けていく。しかし、その日は西側へと大通りを渡った。
普段ならばとうに日暮れて真っ暗な闇が空一面を覆っているのだが、見上げる空は日中の晴れた空を残しているかのような淡いブルーの空の色をしていた。
街灯には早くも灯がともり、足早に帰路へ着くスーツ姿のサラリーマンたちが駅の方向へと歩いて行く。駅は彼が向かっている西とは反対側になり、今の彼から見ればちょうど振り返った真正面に駅がある。この地方都市は太平洋側にあたるので、残念ながら水平線の彼方へと沈み行く太陽の光を全身に浴びることはできない。
彼は大通りを西方面へ渡り、数百メートルのところにあるワインとチーズが豊富に陳列されている店へ寄ろうと考えた。時計を見ると、17時を少しまわったところを短針と長針は指していた。周りは駅に近いオフィス街のため、騒然とビルが建ち並ぶ。
彼は立ち止まり、少し目線を上に上げた。そこには冬特有の澄んだ空気で、はっきりとした午後の光を終わらせまいとする淡いブルーの空と、大きく張り出した雲を境にして、沈み行く太陽が自分の存在をアピールするかのような明るく、そして切なさを併せ持った、はっきりとしたオレンジ色のサンセットを描き出していた。