【Ⅱ.考古遺物の修理と仕様設計1日目】平成29年度「保存修復を目指す人のための実践コース」 | NPO JCPのブログ

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人類共通の遺産を護り、育み、次世代に伝えていくために組織されたNPO法人 文化財保存支援機構の活動をお伝えするブログです。

実践コース2回目「考古遺物の修理と仕様設計」コースは、東京国立博物館平成館の小講堂にて8月26日から28日まで3日間行われます。今回は16名の受講者が集まりました。

初日の模様をお届けしたいと思います。

 

 

 

午前前半の講義は、文化庁文化財部美術学芸課文化財調査官の建石徹先生による特別講義「埋蔵文化財修理の現状と課題」です。

 

 

建石先生は、記念物課のお仕事も行っており、主に壁画などの調査・保存にも携わっています。

今回は5つのキーワードに基づいて講義を進めていただきました。

1「現状維持修理」は日本において基本とされる修理方針です。考古では出土した時を起点として考えます。なるほど!再修理可能な処置を施す 2「可逆性」も重要です。そして、史料が持つ多様な情報について 3「何をどう遺すのか」文化財を護る者として、できるだけ多くの情報を後世に伝えられるようアンテナを張っていかねばなりません。また、3にも通じることとして、考古遺物には4「現地保存の原則」があります。闘鶏山古墳(つげやまこふん/大阪府)は未盗掘として国の史跡に指定されています。しかしながら未盗掘とはいえ、結露や石材の劣化が見受けられ埋葬品にまで影響が出ており、これらをレスキュー的に取り出すかどうかの検討がなされています。高松塚古墳も、最終的には壁画を取り出し保存処置を行いました。どの判断が適切なのか、先生は難しい所ではあるけれども、技術者の方に対し繊細になりすぎないで判断してほしいと仰っていました。最後に5「安全性」です。文化財の安全性、人の安全性…様々な場面で一番危険にさらされるのは修理技術者であり、労働安全衛生法の改正についてもお話しいただきました。

今、自分たちの前に“もの(文化財)”がある奇跡を、文化財への、そして先人たちへの敬意を忘れずにとのお言葉をいただきました。

 

 

午前後半の講義は、東京国立博物館保存修復課課長の冨坂賢先生による特別講義「東京国立博物館における修理事業調達について」です。

 

 

「競争入札」はご存知と思いますが、文化財修理事業にも適用されるようになって約10年経ちました。それまでは随意契約を主として行われてきましたが、国における随意契約の見直しの取り組みを踏まえ、現在までの東京国立博物館における修理事業調達についてお話いただきました。

文部科学省の随意契約見直し計画には、「随意契約によることが真にやむを得ないものを除き、可能なものから一般競争入札等による契約に移行する」とあります。

文化財保存修理事業は、文化財の価値を損なうことなく、高度に専門的な技術を要することから、不適切な処理や事業の失敗が発生しないよう細心の注意を払い遂行する必要があります。そのため、一般的な事業とは異なるということを示すために「文化財修復事業等の契約方法について」という随意契約によることがやむを得ない特殊な場合を定義しています。

具体的には、非常に高度な修理技術が必要であり、その技術が特定の者にしか継承されていない、国民の関心の高い国宝重文を取り扱うもの、国家的事業の性質を担っているもの。また、修理対象が一連のものであれば、修理の仕様が業者によって変わることを防ぐために、随意契約となることが多いです。東博で甲冑修理を発注する場合の技術者は現在1人しかおられないそうです。

実際に入札時に審査した企業参加表明書(匿名)を参照し、修理だけでなく、その周辺の枠組みを知り考える講義となり、大変勉強になりました。

 

 

午後の講義は、武蔵野文化財修復研究所の石原道知先生による「考古遺物の修理と仕様設計」です。

 

 

文化財修復士とは? コペンハーゲン憲章の修復理念では次のように定義されています。

①技術職人とは区別し、文化財の材質面の問題を解決する能力を持つ(科学的解決能力は問わない=別の専門家が解決するため) ②直接文化財に触れ、処置を施すことができる ③文化財のオリジナル性、歴史芸術性、資料性を理解し尊重することができる ④他分野との連携を図ることができる ⑤文化財を保存することを優先し、やむを得ず修理を行う場合は最低限の処置を行う ⑥学術的論文を書く能力を持つ

 

当ブログでも頻繁に出てくる「修復」と「修理」の違いについて気になる方もいるかもしれません。「修復:Restoration」は外観を元の状態に戻す、「修理:Repair」は元通りに使える状態にするという違いがあります。また「修復」には復元の意味合いを含むことがあるので、分野、機関によって、どちらの文言を使用するか決めていることが多いです。石原先生は「修復」を使っていました。

 

 

次に土器の修復の実例をスライドで見た後、東京国立博物館内にある考古展示を見学しました。平成館の考古展示室には、石原先生が携わった修復品とレプリカが実際に展示されています。考古展示にレプリカが多いのは、先の建石先生の講義でもあった「現地保存の原則」と、出来るだけ劣化を防ぐこと、また輸送におけるリスクが他の美術品に比べ高いということが挙げられます。

縄文と組紐文が施してある土器を前に、「(縄文と組紐文の)このわずかな差異を当時の人々は大事にしていた」という先生の説明が、とても印象深く感じました。

 

先生方ありがとうございました。

 

 

※当ブログでは、「修理」と「修復」の文言については、講師の先生がその講義内で使用する文言に則りそれぞれ記述しています。