新得駅では、またもや遅れているJRの情報を聞くことになった。当たり前だ、峠があちこちで閉鎖されるくらいの天候なのだ。JRだけが順調にうごくはずはない。午後3時30分前につくはずだったJRが遅れるという放送が流れた。追い打ちをかけるように、列車が動く目処はたってないという情報も伝わってきた。
 

 一瞬、光が見えた僕たちから、再び光が遠のいた。「いつになったらJRは動くのか?」
ツアーメンバーの中からは「焦り」に「諦めムード」が漂い始めた。
 とりあえずチケットだけは買うことになった。3000円くらいじゃないかなぁという人もいたが、札幌までは5250円。予想以上の出費である。少しずつ不満の声が出始めた。

   新得駅

 午後3時30分をすぎたころ、名古屋に住んでいる弟から電話が入った。「そろそろ札幌に入った?」という連絡だった。今回の尋常じゃないチケット代を払うのに、弟にも相談していたからだ。状況を知らせると、学生時代に北海道に住んだことがある弟は、土地勘から「今、新得におったら、ちーとえらない?コンサートに間に合わんのじゃない?」と流ちょうな名古屋弁で心配してくれた。「おーどーなるかわからんけど、待つしかないがや…」とぼくも流ちょうな名古屋弁で答えた。
 列車の定刻を30分以上過ぎてから、放送がかかった。ようやく、列車が動くそうだ。間もなく改札が始まった。プラットフォームから見ると、私たちの激闘とは関係なく、しんしんと降る雪が美しかった。 

  新得駅

 午後4時を過ぎた頃、僕たちはようやく列車に乗り込んだ。僕たちの祈るような思いをのせて、列車は札幌を目指して走り始めた。指定席、自由席いずれも空いていない。札幌までは約1時間30分。立っていてもどうってことない時間…でも、そう感じていた僕は20代だったっけ。

 すっかりよく話すようになった帯広からのストーンズファンは、「午後7時スタートにぎりぎり間に合うかどうかなぁ~」と言っていた。クールだが、多分的確な判断なのだろうということは、何となく分かった。


 午後6時ころ、列車は札幌駅についた。これまで、さんざん苦しめられた天気は、札幌では嘘のように穏やかだった。夕暮れのしっとりとした、落ち着いた雰囲気すら漂っていた。そこからは地下鉄に乗って「福住」駅に向かい、下車後、十数分歩くことになる。「あと、1時間ある。大丈夫だ!」と即座に思った。
 札幌駅で地下鉄に乗る前に集合がかかり、旅行会社から説明があった。
「えー本日は峠が雪のため全て閉鎖になりました。ですから、帰りのバスは運行できません。旅行代金は全額、払い戻しになりますが………」
 なんてことだ。コンサートには間に合いそうなのに、今度は帰路が断たれた。


 次の日の朝に帯広や釧路に帰るためには、JRの夜行に乗るしかない。旅行会社は札幌ドームから新札幌の駅までのバスを用意してくれるとのこと。確かに数万人が移動する地下鉄に乗っていては、夜行列車には間に合わない。列車は新札幌に午後11時22分に着く。それに間に合うために、早く札幌ドームを出なければならない。
コンサートが終わったら終わったで、また追い立てられるようになりそうなことが分かってきた。
 でも、いいそれは。とにかく、ストーンズに会うのが先だ!