生物学的製剤は2~8℃で遮光保存することになっていますので、在宅自己注射で使っている方のほとんどは家庭用の冷蔵庫で保管していると思います。でも、停電などで冷蔵庫が使えなくなってしまったらどうすればいいのか?
新しいお薬への交換はしてもらえませんし、高価なお薬なので廃棄にもしたくないですよね。
一般的に冷蔵庫は停電しても扉を開けなければ2~3時間は庫内温度が保たれると言われています。なので、しばらくはそのまま様子を見るのがよいと思います。停電から2時間くらい経っても電力復旧の見込みがない場合には、冷蔵庫から生物学的製剤を取り出し、保冷剤(なければ冷凍食品や氷)といっしょにクーラーボックスや発泡スチロール製の容器へ移すとよいでしょう。念の為、温度計もいっしょに入れておくと容器内の温度を確認できます。
それでもまだ停電が続き、8℃を超えた状態で保管しなければならなくなった場合、その生物学製剤を使うことは可能なのでしょうか?
製薬会社としては承認されている条件以外で保存した場合の品質の保証はできないようです。しかしながら、製剤をさまざまな条件下で保存した場合の安定性についてのデータを持っています。これらのデータは各医薬品の「インタビューフォーム」で参照することができます。
在宅自己注射が可能な生物学的製剤のうちインタビューフォームに具体的な記載のあるものを紹介します。
シムジア[1]
保存条件 | 保存形態 | 保存期間 | 試験結果 |
温度:25±2℃/湿度:60±5% | プレフィルドシリンジ/オートクリックス® | 6箇月 | 分解物の増加を認めた。 その他の項目は変化なし。 |
温度:5℃/30℃ | 5℃で3日/30℃で4日、5℃で4日/30℃で3日、5℃で3日/30℃で4日の3回の温度サイクル | 変化なし |
試験項目:性状、pH、確認試験、純度試験、無菌試験、エンドトキシン、力価、含量
トルツ[2]
保存条件 | 保存形態 | 保存期間 | 結果 |
温度:25℃/湿度:60% | ガラス製シリンジ | 6ヵ月 | 凝集体の増加が認められた |
温度:40℃ | ガラス製シリンジ | 4週間 | 凝集体の増加が認められた |
測定項目:純度試験、力価等
保存条件 | 保存形態 | 保存期間* | 結果 |
温度:30℃/湿度:65% | ガラス製シリンジ | 3週間 | 規格内 |
*2~8℃で2年間保存した検体を、この保存条件で3週間まで保存した。
測定項目:純度試験、力価等
※室温(30℃以下)で遮光保存するときには、5 日以内に使用することとした。
ルミセフ[3]
温度 | 保存形態 | 保存期間 | 結果 |
25℃ | 充填済みシリンジ | 0.25、0.5、1、3、6箇月 | 6 箇月時点で類縁物質の増加を認め規格外となった。3 箇月までは規格内。 |
40℃ | 充填済みシリンジ | 3日、0.25、0.5、1、3箇月 | 1箇月以降で類縁物質の増加を認め規格外となった。0.5 箇月までは規格内。 |
試験項目:性状、pH、純度試験、生物学的活性、不溶性微粒子、無菌、タンパク質含量等
以上のデータから、トルツは室温(30℃以下)で遮光保存すれば5日間は使え(5日以内であれば冷蔵庫に戻しても大丈夫)、ルミセフは25℃以下であれば3ヶ月まで、40℃以下であれば半月までは規格内であったことがわかりました。ただし、シムジアに関しては8℃を超えた温度で保存した場合に使用可能かどうかを主治医の先生もしくは薬剤師にお問い合わせください。
なお、コセンティクスは温度25℃/湿度60%の条件下で6ヶ月間保存した結果、類縁物質に増加傾向を認め[4]、ヒュミラは温度25℃/湿度60%遮光条件下で6ヶ月間保存した結果、リジン変異体の減少及び単量体の減少を認めた[5]との記載がありました。
保存条件を逸脱してしまった生物学的製剤が使えるかどうかは、念の為、注射液の色の変化や浮遊物の有無などを確認するとともに、主治医の先生または薬剤師ともよく相談するようにしてください。
参考文献
[1}シムジア®インタビューフォーム
[2] トルツ®インタビューフォーム
[3]ルミセフ®インタビューフォーム
[4]コセンティクス®インタビューフォーム
[5]ヒュミラ®インタビューフォーム