旅立ちの時

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作新学院の“旅立ちの時”は、毎年3月1日の高校卒業式から始まります。

 

夜来の雨も上がり、雲間から降り注ぐ春の陽が辺りを優しく包む中、今年も無事、1244名の生徒たちが学院の学舎から巣立って行きました。

 

 

3月1日は教育に携わる者にとって、

とてもめでたく晴れがましい日であると同時に、何より淋しくつらい日でもあります。

 

以前は、卒業式が近づくにつれ際限なく落ち込んでしまい、鬱状態になって寝込んでしまうこともありましたが、この頃はさすがに脳がそうなる前に生徒たちとの思い出が蘇るのをシャットアウトしてくれるようで、なんとか心身を損なうことなく、この日を迎えることができるようになりました。

 

それでも、冬が来てこの日が近づくにつれ、段々と溜息の数が増え、気持ちが塞いで行きます。

 

今年度は、科学技術政策関連の仕事で昨秋から忙殺されていたお陰で、いつのまにかという感じで3月1日を迎えることができ本当にラッキーでした。

 

 

式典では、戦争が無かった「平成」という時代の最後を飾る卒業生への餞(はなむけ)の言葉として、「信頼」の二文字を贈りました。

 

あまりに平凡過ぎる言葉かもしれませんが、この世のあらゆる営みの根幹を成すのが「信頼」です。

 

それが今、世界中で揺らいでいることが、ポピュリズムの台頭や各地での分断・紛争を生み、世界経済にも大きな影を落としています。

 

英国の劇作家、政治家、教育家でノーベル文学賞受賞者でもあるジョージ・バーナード・ショーは、信頼について次のような名言を残しています。

 

The liar’s punishment is, not in the least that he is not believed, but that he cannot believe anyone else.

 

嘘つきの受ける罰は人が信じてくれないというだけのことではなく、ほかの誰をも信じられなくなる、ということである

 

トランプ大統領を筆頭に、世界の指導的立場にいる人間の言葉や約束は限りなく軽くなり、その信頼は失墜、またどの国よりも誠実で信頼を置かれて来たはずの日本ですら、勤労統計データー不正に揺れる昨今。

 

ネットはフェイクニュースという名の嘘に溢れ、人はまたその信憑性を確かめることもなく、刺激的で面白いからと盲目的に拡散して、その罪や傷を拡げてしまう。

 

そんな信頼を失った世界の行き着く先が、戦争です。

 

学院長は式辞で、平和を守るためには「多様性」を尊重することが重要であると話しました。

 

1244名の卒業生には、一人ひとりに1244通りの個性と価値観と正義があるわけです。

 

ですから、嘘をつかない、自分がされて嫌なことは相手にしない、弱い立場や苦しい環境にある人には寄り添うといった、人として最低限のルールを守り、互いを認め合い尊重し合って生きることを、豊かな多様性の中で育った作新生にはこれからもずっと実践して行ってもらいたいと心から願います。

 

 

今年の式典で最も格調高かったのが、前生徒会長の篠原綾菜さんによる答辞でした。

 

 

130余年受け継がれて来た作新スピリッツを、「書聖」と称される中国・東晋の書家 王羲之の書に喩え、その真筆は戦乱ですべて失われたものの、石版や木板に模刻して制作した拓本により後の世の人々によって継承され、今も全世界で手本とされているように、自分たち卒業生も作新の教えをしっかり受け継いで行かねばならないと、話を結んでくれました。

 

 

式典が終わると、部活の後輩や保護者の皆さんたちが花道を作って、卒業生の“送り出し”が始まります。

 

院長と私は、全員の卒業生を握手で送るのが恒例なのですが、その時に思いがけず生徒たちが掛けてくれる一言に救われたり、報われたり、諦めずに世の中の不条理と戦い続ける力を与えられたりします。

 

 

時代の流れか、今年はスマホ片手に握手の順番を待つ生徒が多く、いつのまにか最後は写メ大会となってしまいました。

 

 

 

 

高校を終えると、翌週から中等部、小学部、幼稚園、大学・短大と卒業式が続きます。

 

今、旅立ちの時。

 

君たちの未来にどうか幸あれと、祈る日々が続きます。