James Setouchi
2026.9.10掲示
読書会資料
ヘミングウェイ『武器よさらば』 読書会資料 20250830 担当:N
1 ヘミングウェイ略歴
[生]1899.7.21. イリノイ、オークパーク
[没]1961.7.2. アイダホ、ケッチャム
アメリカ合衆国の小説家。フルネームErnest Miller Hemingway。[父・クラレンスは医師、母・グレイスは元声楽家で、ヘミングウェイには1人の姉と4人の妹がいた。彼は幼い時、母の変わった嗜好(しこう)によって強制的に女装をさせられており、彼はそのような母の嗜好を子供心に疎(うと)んじていたという。一方、父は活動的な人物で、ヘミングウェイは父から釣りや狩猟、ボクシングなどの手ほどきを受け、生涯の人格を形成していった。父は後に自死している。[]の中の説明はWikipediaより]
高等学校卒業後、しばらく新聞記者をしたのち、第一次世界大戦に従軍、イタリア戦 線の野戦衛生隊に所属して重傷を負った(JS:厳密には赤十字の運搬車要員であって、兵士ではない)。戦後『トロント・スター』紙の記者をする傍ら創作を始め、1921年パリに赴き、スコット・フィッツジェラルド、ガートルード・スタイン、エズラ・パウンドらの知遇を得た。戦後の享楽(きょうらく)的な青春群像を描いた『日はまた昇る』(1926)により、「失われた世代」の代表的作家と目された。スペイン内乱が勃発(ぼっぱつ)すると特派員として赴(おもむ)いたほか、共和派への支援も行った。『武器よさらば』(1929)、『誰がために鐘は鳴る』(1940)、『老人と海』(1952)などの小説のほか、ハードボイルドな文体を駆使(くし)した短編の名手としても知られる。1954年にノーベル文学賞受賞。狩猟、釣り、闘牛を愛し、終始行動的な生活を送ったが、愛用の猟銃で自死、鬱病のためといわれる。死後、『移動祝祭日』(1964)、『海流のなかの島々』(1970)が出版された。(『ブリタニカ国際大百科事典』より)
2 第一次世界大戦について
岩波講座『世界歴20』、『世界歴史21』、NHK『映像の世紀 塹壕(ざんごう)の兵士たちはすさまじい兵器の出現を見た 第2集 大量殺戮(さつりく)の完成』を参考にかなりの頁を担当者は作ってあったが、著作権上 念のため割愛(かつあい)。
3 「失われた世代」について
自分の思想を形成する以前の、最も感受性の鋭敏(えいびん)な時期を一次大戦の真っ只中ですごし、そのために精神と肉体に手ひどい打撃と負傷をこうむらざるを得なかった一群の青年たちを指して呼ぶ名前。その名付け親は、フランス在住のアメリカ女流作家ガートルード・スタイン。彼らは戦争によって経験した死の衝動(しょうどう)におびえ、同時に失われた幸福を手早くわがものにしようとする焦燥のために、夜も昼も可能な限り酒を飲み、無用の争いを繰り返し、実を結ばないその場限りの肉体的な恋愛を追い求め、根無し草に似た生活に終始した。(岩波文庫 谷口睦男訳 『日はまた昇る』p335.より)
4 『武器よさらば』について
(1)気になったところ(新潮文庫版のページ数)
P62、落伍兵(らくごへい)について言及しているのはなぜか?
P63、こんな戦争は僕になんの関係もありはしない。→なぜそう思ったのか?
P84、パッシーニとの戦争についての会話→戦争は誰のためのものなのか?
P108、リナルディ「いまや最高だからな、おれの腕前は」→リナルディは戦争で得をしている?見せてないだけで不幸?
P118、神父との会話→戦争について、神を信じる神父も希望を失う、情欲と愛の違いは?
P152、*このマークの意味はなんですか?
P175、相手の理想の女性になろうとするキャサリン→なんか怖い。昔は普通だった?
P178、ファーガスン「人のすることは喧嘩か死ぬことだけ」→かなり極端、何かあった?
P190、あなたこそが、わたしの宗教→信じられるものは目の前のリアルだけ?
P208、いつまでも愛してくれる?→ヘンリーからの愛を再三確認するキャサリン。愛は不安定なものなのか?
P256、親に合わなくていいという二人→親世代への不信感・拒絶感を感じる。
P275、リナルディ「ものを考えないようにしている」→リナルディは前線での手術を通して、何を見て、何を知ったのか?
P280、理性について→蛇かりんごかというセリフを入れた意味は?
P282、リナルディ「人は生まれた時から完成している」→なぜそう考えるのか?
P288、神父よ地獄にいっちまえ→リナルディはなぜ神父に突っかかる?梅毒にかかっているから。性病に無縁の神父への当てつけ?リナルディが梅毒にかかっていることは何を意味するのか?
P295、キリスト教徒になるのは敗北しているときだけ→価値観の喪失
P296、神父との会話→悲劇的でないキリストはキリストになり得るか?
P306、神聖とか栄光とか犠牲とかいう言葉にまごつく→価値観の変化、喪失
P408、他人と一緒にいるときにこそ、孤独を感じるものだ。孤独と夜→わからない、恋愛経験希薄のせい?
P412、僕は罪人みたいな気がする→戦場から逃げてもつきまとう罪悪感。これを払拭するにはどうすればいいのか?
P421、僕の生活にはいろんなものが詰まっていた。でも今じゃ君がいてくれないと何にもなしになる→恋をする、誰かを愛するということは、1人で生きられなくなるということ、弱くなること?
P539、無神論者のヘンリー、神に祈る→皮肉。人を愛し、悲劇的な状況に追い込まれた彼は神に祈った。悲劇が、不幸が人に信仰心を生むのか?悲しい経験をしている人は人にやさしくできる。
メモ 神父の存在の意味、イタリア軍による将校狩り、雨がもつ意味
(2)問題提起
・なぜ人は戦争をするのか?
・なぜ戦争はなくならないのか?
・なぜ人を殺してはいけないのか?
・なぜ人は生きるのか?
・愛とは何か?
5 『日はまた昇る』について
(1)気になったところ
P39、恋をするってのもこっけいきわまりなしだ。
P87、二人はなぜ結婚しないの?二人とも我が道を行きたいのです。それぞれの生き方があるの。→共通の価値観が持てなくなってしまった。
P91、ブレット「とてもみじめ、ひどくみじめな気がする」→戦後も戦争の記憶が生活に陰を落とす。
(2)解説(ヘミングウェイの文体の特徴)(一般的にこのように言われる)
心理や悲痛感や意識の流れは全部省略するか、あるいは極度に圧縮するかして、ほとんど外面描写に終始し、心理の動きや悲しみは、ちょっとした行為や短い会話やわずかな事物で暗示する。(氷山理論)
失われた世代の嘆きと悲しみという主題の複雑さに、この簡潔な手法をかみ合わせることによって、従来見られなかった新鮮な文学を生むことになった。
それは行と行の間や余白に非情な意味と悲痛な嘆きをいっぱいにたたえながら、表面はあくまでも皮肉と冗談をまきちらし、かわいた抒情とさわやかなスピード感を与え、読者を心理的な抑圧(よくあつ)感から解放する。
(3)感想
第一次世界大戦後の失われた世代である若者が多く登場する。登場人物が多く、関係性も複雑で正直よくわからなかった。でも、彼らの抱える悲劇的感情には共感できた。
理性を失い、目的もなく、快楽に身を投じる、破滅的にも見える人たちが、必死に生きようとしている姿を見ることができた。
6 レマルク『西部戦線異状なし』について
(1)気になったところ
P20、一番頭を冷静に動かしたのは貧乏人、彼らは戦争を不幸だと理解していた。その反対に教育を受けたものは、我を忘れていた。→間違った教育は人を馬鹿にする。正しい教育とは?
P22、その砲火の下に僕らの教えてもらった世界観は、見事に崩れてしまった→親、教師、社会への不信、既成(きせい)の価値観の崩壊
P35、不安定な概念→大人にだまされた若者、では大人が悪いのか?大人もまた別の何かに騙(だま)されていたのか?何かとは?
P66、人間というやつは、初めっから、畜生なんだ→犬にとっての肉、人間にとっての権力、構造は同じではないのか?
P127、僕らは世界から逃避しようとしている→逃げることは悪い事か?それで生きられるなら、生き続けられるなら
(2)感想
この本が刊行されたのは1929年で、『武器よさらば』の刊行年と同じである。ヘミングウェイはこの本の評判をかなり気にしていたと言われている。両本はのちに映画化されている。『西部戦線異状なし』は映画史に残る傑作となったが、『武器よさらば』のできはあまり芳(かんば)しくなかった。『武器よさらば』は本で見た方が断然おもしろい。『西部戦線異状なし』は映画では、本では若干時系列が前後している構成が、綺麗に整理され、学校時代に戦争に行くことを決意してから、戦地でも壮絶な経験、仲間との死別、故郷での感じた違和感と戦友との再会、戦地での死までの流れが、スムーズにまとめられていて、本の世界観をイメージするのに大いに役立つものとなっている。
老教師が、学生である若者たちに向かって戦争で活躍することの偉大さ、英雄的行為の果てに死ぬことのすばらしさを説き、それに感化された彼らは、戦場に向かうことを決意する。意気揚々と戦地へと到着した彼らが見たものは地獄だった。無惨にも死んでいく友人、砲弾が降り続く脅威(きょうい)。戦争の悲惨な現実が若い彼らの希望を、夢を、生きる楽しさを奪っていく。戦地へ赴任(ふにん)して3年目、主人公のパウルは休暇をとることができ、帰郷の機会を得る。しかし、戦地に長くいすぎたパウルは、故郷と戦地との間に生じる、戦争に対する価値観の違いを実感する。戦況は悪化の一途をたどり、自分たちより若い学生が、同じように扇動(せんどう)され戦地へ送られている。年寄りは新聞で見聞きした情報をもとに、現実ばなれした持論を展開する。
僕はやるせなさを感じた。故郷での日々は彼に安らぎを与えてくれなかった。戦地こそが彼の帰る場所であり、戦友こそが彼の理解者となっていたからだ。僕はこの映画を見て涙があふれた。声を出して泣いた。僕よりも若い人たちが、戦争を経験して、もっと生きたいと思いながら死んでいった。そういった過去の人たちのことを思うと、同情してもしきれない気持ちになる。僕は恵まれた時代に、恵まれた環境に、恵まれた国に生きている。道半ば死んでいってしまった人たちのために僕ができる精一杯のことは、もっと自分の人生を力強く生きることだと思った。
参考文献
岩波講座 世界歴史20 二つの大戦と帝国主義Ⅰ 20世紀前半
岩波講座 世界歴史21 二つの大戦と帝国主義Ⅱ 20世紀前半
NHK 映像の世紀 塹壕の兵士たちはすさまじい兵器の出現を見た 第2集 大量殺戮の完成
岩波文庫 ヘミングウェイ作 谷口睦男訳 日はまた昇る(1958)
岩波文庫 ヘミングウェイ作 谷口睦男訳 武器よさらば(上)(1957)
岩波文庫 ヘミングウェイ作 谷口睦男訳 武器よさらば(下)(1957)
新潮文庫 ヘミングウェイ作 高見浩訳 武器よさらば(2006)
新潮文庫 レマルク作 秦豊吉訳 西部戦線異状なし(1955)