わっ!!!えっ!!何!?
パッカリ開いたきよえのスーツケースには松菱UMA銀行の帯封がされている札束がびっしりと敷き詰められていた。
決平は目を丸くしたまま動かず、せつ子は開いた口からよだれを垂らしていた。要子ももちろんびっくりしたが、まずは冷静な銀行員の目で札束をざっと見てそこに4000万円あると確信した。
やっぱりきよえは銀行のお金を持ちだしていた。4000万円という大金を。今まではもしかしたらきよえではなく他の誰かがやったのではないだろうか・・・などとと淡い期待を抱いていたのだが、それもあっさりと崩れてしまった。この目の前の現実を受け止めければならない。
「要子ちゃん。。。やっぱり。。。残念だけど、きよえちゃんは銀行からお金を持ちだしていたんだね。このくらいの大金は僕にとっては大したことないんけど、一般ピープルにしては凄い金額だもんなぁ。いやー、びっくりだ。いやー、いやー、ありゃー」
「決平さん、このお金はべロスでの小学校設立のための資金なんです。これは事実です。横領したお金ではないんです。いいですね!!そこでよだれ垂らしているせつ子さんもいいですね!!これまでのことは忘れて下さい。変なこと途中で言ったりしないでくださいね。きよえと私は資金を運ぶためにべロスに来たんです!!とにかくそういうことです!!」
きよえは毅然とした態度で言い切った。そしてそそくさとスーツケースを閉じ、念の為透明のビニールテープでグルグルと巻いておいた。
「チーカムさんにはこのスーツケースの中のことは絶対知られてはいけません。とにかく普通にふるまいましょう」
「はい、要子ちゃん」
決平はやっと落ち着きを取り戻した。
要子たちが通された建物は2階にいくつか部屋があり、階段を少し降りた一階には小さなソファーと冷蔵庫があった。部屋にいても落ち着かないので3人はソファーに座ってチーカムが来るのを待つことにした。決平は冷蔵庫を勝手に開け、ビアベロを発見した。
「おっ、ビアベロがえーーっと20本は入っているね♪これはお客様用にどーぞってことなんだろうね。では早速頂こうかなっ!!」
要子が止める間もなく決平は缶を開け美味しそうにビールを飲んだ。あっという間に2本目にに突入した時にチーカムがやってきて決平を怪訝そうな顔で見た。
「お待たせしたわね。今ちょっと工房の方でいろいろやってたもんで。日本のアパレルブランドから刺繍を頼まれているものがあっててんやわんやなの。その会社はとにかく細かいことにうるさくて何度もチェックをするのよ。そのくせ、この工房にはめったに来ない。まったくヒドイ話ね」
チーカムは絞りたてのオレンジジュースをお手伝いの若い女の子に持ってくるように言った。
「えっと、何から話しましょうか」
「きよえさん、彼女はうちの工房の従業員のフィアンセなのよ。どこでどう知り合ったかまでは知らないんだけど。そういう約束をしたみたいね」
「私はきよえと同じ会社で働いていてとても仲良しなんですが、彼女がべロスに魅せられたこと・フィアンセがいたことまでは知りませんでした。ここ最近のことだとは思うのですけど」
「愛を深めるには1日あれば十分よ。ま、異国の地にいると余計盛り上がるのかもしれないけど。私も若いころはそういうこともあったわ」
チーカムは遠い目をしてオレンジジュースを飲んだ。決平は3本目のビールを冷蔵庫から出して飲んだ。珍しくおとなしくしていたせつ子だったが、落ちつきを取り戻した途端にお腹が空いてイライラしているようだった。
「私達はいきなり日本からいなくなってしまったきよえを探しにここまでやってきたのです」
「ほー、きよえさんは誰にも言わずに急にべロスに来たってわけなのね。そんなにアダモに会いたかったのね。あの必死さを考えるとそれも頷けるわ。あ、アダモっていうのがうちの従業員の名前ね」
「きよえのフィアンセはアダモさんというのですか。お年はおいくつなんですか?」
「たしか33歳だったと思う。見た目はもっと若く見えるけど」
「そうですか。それで、きよえはなぜガラナホテルからこちらの工房に来て、またさらにどこかに出かけてしまったのでしょうか?もうすぐ帰ってきますか?アダモさんはどこにいらっしゃいますか?」
要子はオレンジジュースを一気に飲み、まくしたてるように質問した。
「話すと長くなるから省略するけどいろいろあってきよえさんは出かけていったのよ。愛するアダモともう一人の日本人の男を助けるためにね。きよえさんは本当にいい人だわ。愛の為に命をかけてくれた」
「え???命をかける??そんな危険なところにきよえは行ったのですか?どこですか?私達も追いかけた方がいいのでしょうか?」
「いや、彼女にしかできない大仕事よ。危ないというより私もよく知らないところに向かってる。うちの召使が二人一緒だから安全だとは思うわ。あなたたちが行っても仕方ないからここで待つのが一番ね。そのうちきっと帰ってくる」
「はあ。。。。とにかく心配です。きよえの元気な姿を見るまでは落ち着きません。。。」
「きっと大丈夫よ。そう信じましょう」
「ところでアダモさんはどうしてるのですか?きよえがアダモさんを助ける為に、ということはアダモさんはどうしちゃったんですか??」
「別の部屋で眠っているのよ。後で連れていくけど、今すぐ行きたいかしら??」
グルグル~~、キュ~~~、キュキュ~~!!
せつ子のお腹の音が鳴った。轟音に近いものがあった。
「もういっぱい歩かされてお腹空いちゃったわよ。これじゃガリガリになっちゃうぅぅ。満さま、何か食べに行きましょう~~」
「決平さん、もしなんでしたらせつ子さんと二人でどこか行ってもらっても構わないですよ。私はせつ子さんほどはお腹空いてませんし」
「この近くにはお店はないよ。そんなにお腹空いているなら、今料理を作らせるからちょっと待ってて。アダモともう一人の男がいる部屋には食べ終わった後に連れていくよ」
「ありがとうございます。これでうるさいせつ子さんがおとなしくなります」
「せつ子、ホントは満様と景色がいいレストランでお食事したかったけど、我慢するわ~~。お料理何が出てくるのかしら~。せつ子の口に合うといいんだけど」
チーカムはキッチンへ行き、要子たちはそのままソファーでビアベロを飲みながら待つことにした。
「要子ちゃん、きよえちゃんはなかなかチャレンジャーな人なんだね。びっくりしたよ。アダモだか何だかの為に危険を顧みず助けようとしているなんてね。そもそも誰にも何も言わずにべロスに行っちゃうってのがびっくりなんだけどね~」
「きよえはおとなしいタイプではあったんですけど、いざという時は行動力があるんです。そう考えると今回の一連の行動も納得できます。お金のことに関して以外ですけど。あ、お金は小学校設立の資金でした」
「危険を冒してまで助けたいと思うってことは、アダモ君ともう一人の男はよっぽど大変な状態にあるってことだよね。っていうか、もう一人は朝密彦だよね!!」
「どう考えてもそうでしょうね。朝密彦さんもとんだ災難に遭ってしまったんですね」
「朝密彦は僕のライバルにはならないけど、知り合いではあるから心配だなー。後で部屋に連れて行ってくれるっていうから顔を確認できるけど。でもどうして巻き込まれたんだろう。取材で来ているだけのはずなんだけど。ま、そこが何にでも首を突っ込む朝密彦の悪いところ!というか、自分が大変な目に遭っちゃったら事件の解決も何もないんだけどね。やっぱり僕の出番ってことか~」
「ここで朝密彦さんに会えて、あとはきよえが無事に帰ってくれば私達がべロスに来た意味がありますね。きよえと私は小学校設立のための資金を無事に渡せばお役御免です」
「でもさ~、きよえちゃんってアダモ君と一緒になるんだよね??そうなるときよえちゃんはそのままこっちに残るのかなぁぁ」
「出来れば一緒に帰りたいですけど、二人の仲をさくわけにはいかないし。。。あとでアダモさんに会ったらよく聞いてみましょう。眠ってるって言ってましたけど、病気で眠っているんですかねぇ」
「きよえちゃんが命を懸けて助けたいと思うほど重病なのかねぇぇ。眠ってるってだけじゃわからないよね」
決平は10本目のビールに手を伸ばした。
数十分してチーカムがやってきて、その後若い女の子が料理を運んできた。生春巻きに揚げ春巻き、スープ、炒め物、焼き魚、いろいろな料理が並んだ。
せつ子は突然元気になって
「早く頂きましょう!!」
と箸を持って食べる体勢を整えた。
「これは普通の家庭料理よ。どーぞ好きなだけ食べてちょうだい」
チーカムはそう言った。
チーカムは少食なのか料理にはほとんど手を付けず、ビアべロを飲むこともなく、果物ばかり食べていた。料理は前日にガラナホテルて食べたものとほとんど変わらない、というよりむしろ美味しいと要子は感じた。ただ、泥水のような色のスープだけはどうにも口に合わずほとんど手をつけなかったのだが、せつ子はとても気に入ったようで器ごと持ち上げて一人でガブガブと飲んでいた。
食事が終わり、ベロコーヒーが出された。
「おねーさん、シュガーね~。よろしく~~。シュガーシュガー。たっぷりね~」
と決平は言ったのだが全く通じず、ふてくされながら通常のコーヒーを飲んだ。
「で、チーカムさん。アダモさんともう一人の男性のところに連れて行って下さい。もう一人の男性はこちらの決平さんのお知り合いだと思われます。日本では有名なルポライターで探偵としても活躍されている方なんです。顔をみればわかると思います。アダモさんにはきよえとのことをちゃんと聞きたいと思ってます」
「うーん、それはちょっと無理だと思うわ。何故だかは行ってみればわかる。さ、行きましょうか」
小さいチーカムに続いて要子たちは歩いた。せつ子はゲフッと言いながらしぶしぶ付いてきた。
アダモたちが眠っているという部屋は今まで要子たちが食事をしていた建物と別のところにあった。この工房は5つの棟からなっているようだった。かなり広い。チーカムが住む棟、刺繍工房、ゲストルームのある棟、住み込みの従業員たちの棟、事務所の棟。
チーカムは自分が住んでいる棟に要子たちを案内した。一階の一番奥の部屋でアダモと朝密彦は眠っていた。
「要子さん、今から部屋に入るけどびっくりしないでね。心の準備をしてから入ってちょうだい」
「はい、でもただ眠っているだけなのではないのですか?起こしちゃダメなんですか?」
「もうずっと眠り続けているのよ。そして見た目が変わってしまっている。。。。」
「見た目??」
「ここで話していても仕方がない。さぁ行こう」
チーカムは部屋のドアを開けた。
要子はおそるおそる部屋の中を覗いたがアダモたちは布団をかけているのでよくわからなかった。部屋の奥までゆっくりと入っていくと、チーカムはアダモと朝密彦の布団をはがした。
「あ!!!」
要子も決平もせつ子も一斉に声を上げた。アダモの顔には口ばしが生えていた。朝密彦の口は何となく尖っていた。人間なのに人間じゃない。とても冷静には見ていられない状況だった。
「きよえさんはこの二人を元の状態に戻したい一心で出かけて行ったんだよ。彼女がうまくやってくれて帰ってくればちゃんと元通りになるはずなんだ。二人がこのままじゃあまりにもかわいそうだ」
要子はきよえの愛の大きさを感じた。たしかに自分のフィアンセがこんなことになってしまったらいてもたっていられないはずだ。きっと同じような行動に出たと思う。
「ところでチーカムさん、一つ質問があるのですが。。。」
「何だい??」
「アダモさんの顔というか口が大変なことになってしまったのはよくわかりました。ただ、体全体から考えると顔が大きすぎるような気がするのですが。。。それと上半身の大きさに対して足が短すぎます。。。。いったいこれは・・・・」
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