母は 子どものころ

猫をいつも蹴っ飛ばしていたの

可哀想よね…

猫を蹴っ飛ばすなんて



20年ぶりに再会した彼女の横顔が笑っている

窓の外は真っ暗な12月の夜が広がっている



僕は初めて会う人たちと

温かい食事と赤ワインをいただいている

彼女が住む部屋のリビングで


グレーのショートヘア

彼女の母がぼくに話し始める


私が生まれたのは中国、大連

5歳まで大連に住んでいたのよ

戦争が終わって 船に乗って日本に帰国したのよ

寒い船で息をひきとる人たちがいた

食糧不足でカラダが衰弱していた人たちがね



猫 そう 猫の話ね

飼っていたの 三毛猫 

足で軽く蹴っ飛ばしては抱き寄せる

足で軽く蹴っ飛ばしては抱き寄せる

それが私の愛情表現

猫が唯一の私の友だちだったから

いっしょに猫とごはんを

食べてたりしてたの







今朝

彼女の母が亡くなったことを知った

彼女の母を想って


隆一