「人々の《脳》が21世紀の主要な戦場になるだろう」 : 2020年のNATO報告が述べる「認知戦」の視点から見る現在

 

 これからの戦場は「脳」

海外のメディアが、NATO (北大西洋条約機構)の 2020年の報告書を紹介していまして、それがまた非常に「今」の感じが強いものでした。

 

以下の表紙の 45ページの報告書で、タイトルは「認知戦」 (Cognitive Warfare)、あるいは「認知戦争」というもので、以下のような表紙の報告書です。

 


Cognitive Warfare

 

これが、目次を見ているだけでも、ゾクゾクとするもので、目次をすべて抜粋しますと、以下のような文字が連なります。


 

 NATO主催の報告書「認知戦」目次を日本語化

序章
認知戦の到来

 

  情報戦から認知戦
  個人をハッキングする
  信頼がターゲットだ
  参加型プロパガンダである認知戦
  行動経済学
  サイバー心理学

 

人間の脳の中心性

 

  脳を理解することは将来の重要な課題だ
  人間の脳の脆弱性
  感情の役割
  注目の戦い
  テクノロジーが脳に与える長期的な影響
  神経科学の約束

 

脳科学の軍事化

 

  神経科学と技術の進歩と実行可能性(NeuroS / T)
  NeuroS / Tの軍事およびインテリジェンスの使用
  NeuroS / Tの直接兵器化
  Neurodata
  神経生物経済

 

新しい運用ドメインに向けて

 

  ロシアと中国の認知戦争の定義
  これは人間についてのものだ
  NATOの推奨事項
  ヒューマンドメインの定義
  戦争開発への影響

 

結論


 

ここまでです。

 

この中の「人間の脳の脆弱性 (13ページ)」というタイトルが気になり読んでみますと、以下のようにありました。

 

何となく「今だな」とも思います。

 

報告書「認知戦」より

人間の脳の脆弱性

「認知戦争では、自分自身を知ることがこれまで以上に重要になる」

 

人間は、情報のより効率的な処理を可能にする認知の限界に対処するための適応を開発してきた。いかに効率的に情報を処理するかとの近道といえる。

 

しかし残念ながら、これらの効率的な情報処理の近道の数々は、私たちの思考とコミュニケーションに歪みをもたらし、コミュニケーションの取り組みを無効にし、誤解を招いたり混乱させたりしようとする敵による操作の対象となる。

 

これらの認知バイアスは、不正確な判断や不十分な意思決定につながる可能性があり、意図しない情報の段階的拡大を引き起こしたり、脅威に対しての即時の特定を妨げたりすることにつながる可能性がある。

 

認知的偏見の原因と種類を理解することは、誤解を減らし、これらの偏見を有利に利用しようとする敵の試みに対応するための、より良い戦略の開発に情報を与えることに役立つ。

 

特に、脳だ。

 

- 脳は、特定の情報が正しいか間違っているかを区別できない。

 

- 脳は、情報過多の場合にメッセージの信頼性を判断する際に近道をとるように       導かれる。

 

- 脳は、たとえこれらが間違っているかもしれないとしても、すでに真実であるとして聞いた声明やメッセージを信じるように導かれる。

 

- 脳は、証​​拠に裏付けられている場合、その証拠の信憑性に関係なく、その声明を真実として受け入れる。

 

本質的に人間の脳に起因する多くの異なる認知バイアスがある。それらのほとんどは情報環境に関連している。

 

おそらく最も一般的で最も有害な認知バイアスは確証バイアスだ。これは、人々がすでに考えていることや疑っていることを確認する証拠を探し、遭遇した事実やアイデアをさらなる確認と見なし、別の観点を支持していると思われる証拠を却下または無視するように導く効果だ。

 

言い換えれば、人々は「彼ら自身が見たいものを見て、知りたいものを知る」のだ。

 

認知バイアスは、地上の兵士から軍スタッフにまで、思われているよりも、さらに大きな範囲ですべての人たちに影響を及ぼす。

 

それを自分自身で認識するだけでなく、敵対者の偏見を研究し、敵対者がどのように行動し、相互作用するかを理解することが重要だ。

 

ロバート・P・コズロスキは以下のように述べている。

 

「真に「自分自身を知る」ことの重要性を否定することはできない。コンピューティング技術、特に機械学習の進歩により、軍隊はかつてないほど自分自身を知る機会を得ることができる。仮想環境で生成されたデータを収集して分析することで、軍事組織は個人の認知能力を理解できるようになる」

最終的に、認知戦における運用上の利点は、最初に軍の認知能力と限界の理解の向上からもたらされる。

 

ここまでです。

 

この、

 

> 脳は、特定の情報が正しいか間違っているかを区別できない。

 

というところが、歴史上のすべての大きな間違い……というのか、「後に悲劇と呼ばれるようになる」ような大きな政治的、歴史的事象ではよく用いられたことだと思われます。

 

ヒトラーなどもこのことをよく知っていたようで、『我が闘争』に以下のように記しています。

 

十分に大きな嘘をつき、それを繰り返し続けると、やがて国民はそれを信じるようになる。

 

真実は嘘の致命的な敵であり、ひいては、真実は国家の最大の敵であるため、国家が大衆の異議を抑圧するためにすべての力を使用することが極めて重要となる。 (我が闘争)

 

これについては、以下の記事など何度かふれています。

 

そろそろ気づきましょう。今はナチス時代の粛正下と同じだということを
投稿日:2021年7月20日

 

また、先ほどの報告書「認知戦」の 15ページには、「感情の役割」という項目があり、そこには「ウェブサイトは感情の爆発を引き起こすように作られている」ことと、その「利用法」が書かれています。それを使って人々の感情をコントロールし、「それを武器」とする。

 

報告書「認知戦」より

感情の役割

デジタルの領域では、デジタル業界とその顧客(特に広告主)が、群衆の中の個人を区別し、パーソナライズと行動分析を洗練することを可能にするのは「人々の感情」だ。

 

すべてのソーシャルメディア・プラットフォーム、すべてのウェブサイトは、中毒性があり、感情的なバーストを引き起こし、投稿のサイクルで脳を閉じ込めるように設計されている。

 

ソーシャルメディア・コンテンツの速度、感情の強さ、エコーチェンバー現象の質によって、ソーシャルメディアのコンテンツにさらされた人々はより極端な反応を経験する。

 

(※ 訳者注) エコーチェンバー現象とは「自分と同じ意見があらゆる方向から返ってくる反響室のような狭いコミュニティで、同じような意見を見聞し続けることにより自分の意見が増幅・強化されること」ideasforgood.jpだそうです。

 

ソーシャルメディアは、暴力的なイメージや恐ろしい噂を非常に迅速かつ強力に広める能力があるため、政治的および社会的二極化を悪化させるのに特に適している。「怒りが広がるほど、インターネットユーザーを扱いやすくなる」のだ。

 

政治的および戦略的レベルでは、感情の影響を過小評価することは誤りだ。ドミニク・モイジは、彼の著書『感情の地政学』で、感情(希望、恐れ、屈辱)がソーシャルメディアのエコーチェンバー効果で世界と国際関係をどのように形作っているかを示した。

 

認知能力を制限することにより、感情は意思決定、パフォーマンス、および全体的な幸福にも役割を果たし、人々がそれらを経験するのを止めることは不可能だ。

 

ここまでです。

 

他に、脳神経科学のことなどにふれています。

 

そして、これは「軍事に関する報告書」であるわけで、このようなことが書かれてある意味は、「 21世紀の主要な戦場のひとつは《脳》になる」と述べているところにあります。

 

以下のようにあります。

 

「ドメイン」とは戦場としての場所という意味かと思います。

 

新しい運用ドメインに向けて

「認知戦」の概念の出現は、現代の戦場に 3番目の主要な戦闘次元をもたらす。物理的および情報的次元に「認知的次元」が追加された。それは、敵がすでに統合している陸、海、空、サイバーネット、空間の領域を超えて、新しい競争の場を作り出す。

 

テクノロジーが浸透している世界では、認知領域での戦争は、物理的および情報的側面が行うことができるよりも広い範囲の戦闘空間を動員することができる。

 

その本質は、人間(民間および軍隊)、組織、国家の支配を掌握することだが、アイデア、心理学、特に行動、思考、および環境の支配も掌握することを含む。

 

さらに、広く定義された認知戦争の一部としての脳科学の急速な進歩は、伝統的な紛争を大幅に拡大し、より低コストで効果を生み出す可能性を秘めている。

 

それが 3次元(物理的、情報的、認知的)に及ぼす共同行動を通じて、認知的戦争は孫子にとって大切な戦いをせずに戦闘の概念を具体化する。

 

なお、「戦争の最高の芸術は戦うことなく敵を征服すること」だ。将来の紛争は、政治的および経済的権力のハブの近くで、最初にデジタル的に、その後は物理的に人々の間で発生する可能性がある。

 

このように人間を中心とした認知領域の研究は、将来の戦闘エネルギーに関連する戦略に不可欠な新しい主要な課題を構成する。

 

認知は私たちの「思考機械」だ。

 

認知の機能は、知覚すること、注意を払うこと、暗記すること、推論すること、動きを生み出すこと、自分を表現すること、決定することだ。認知に基づいて行動することは、人間が行動することを意味する。

 

この領域で実行されるアクションは、人間の領域に影響を与えるために実行されるが、認知戦の目的は「すべての人々を武器にすること」だ。

 

状況を好転させるために、NATO は非常に広い意味で定義するように努めなければならず、NATO に特定の戦略的安全と認知戦の分野における、より広範な課題を提供する国際的な関係者の意味と進歩を明確に認識しなければならない。

 

ここまでです。

 

> 認知戦争の目的は「すべての人々を武器にすること」だ。

 

というのが、究極的な目的のようです。

 

まあ、難しいように考えなくとも、情報やプロパガンダによって「ある国に憎悪を向けさせる」ことで、個人のサイバー攻撃なども自然に増えるでしょうし、経済も十分に戦争目的ですので、ある国への国民の憎悪が高まれば、その国の製品の不買や渡航の停止なども自然に起きてくるものだと思います。

 

なお、この報告書では、ロシアと中国の認知戦についてもふれていますが、特に中国が大きな構築を続けているようです。

 

> 中国は、その認知的操作領域の一部として「軍事脳科学」を定義している(MBS)。潜在的な軍事用途を使用する最先端の革新的な科学としてのガイダンスとなる。

> これは戦闘と戦闘の概念に一連の根本的な変化をもたらすことができる方法であり、まったく新しい「ブレインウォー」戦闘スタイルを作り出し、戦場というものを再定義している。

> 中国による MBS の開発は、人間科学、医学、人類学、心理学などの学際的なアプローチの恩恵を受けている。また中国の場合、「民間」がこの分野で進歩し、民間研究が軍事研究に設計上利益をもたらしている。
 (NATO / Cognitive Warfare

 

ちょっと探してみしたら、今年 4月のロイターに以下のような報道がありました。抜粋です。太字はこちらでしています。

 

6番目の戦場 - 「認知戦(Cognitive Warfare)」

 

2020年10月に行われた中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議において「2035年までの長期目標の制定に関する中国共産党の提議」が審議、採択された。

 

…軍の近代化に関しては、「人民軍に対する党の絶対的指導を堅持する」とし、「法に基づき軍隊を統治し、機械化・情報化・知識化を融合発展加速させる」との方針が示された。そして、「2027年までに軍隊建立の百年奮闘目標の実現を確保することが目標」とされた。従来は2020年までに「機械化及び情報化を概成させる」としていたが、それらは達成されたと評価…

 

…2021年4月に公開された米国国家情報長官室の年度脅威評価には、軍事力や宇宙・サイバーと並んで「影響作戦(Influence Operation)」が評価基準として示されている。

 

影響作戦とは、敵対国が米国に対して経済的、文化的影響力拡大を図るとともに、国家主体で米国のメディア等に自らに都合の良い情報(フェイクニュースを含む)をばらまき、世論を誘導し、国家指導者の政策決定を自らに都合の良い方向に変えるというものである。

 

これは、人間の認知領域に働きかける新たな戦争形態と言え、第5の戦場である「サイバー空間」に次ぐ第6の戦場として「認知空間」が認識されつつある。

 

2017年米国防省情報局のスチュアート長官は、「戦争の本質は変わらないが、21世紀の戦いは、動的なものから大きく変わる可能性がある。敵は認知領域で戦争を行うために情報を活用している。戦いの前又は最中に意思決定の領域での情報戦に勝つことが重要である」との見解を示している。

 

米軍が2017年の段階で、認知領域を戦闘空間と認め始めていることを示している。2020年に示されたNATOの戦略文書には「認知戦(Cognitive Warfare)」という言葉が使用されている。 ロイター 2021/04/30)

 

ここに先ほどの NATO の文書が出ていますね。

 

いずれにしましても、これを読みますと、「2年前から認知戦は主要国各国で始まっていた」と推測できることもわかります。

 

戦争というと、日本ではメディアも、米国の作家ダグ・ケイシーさんなどが「ガラクタ」と呼ぶ、戦車だ、戦闘機だ、戦艦だというほうの戦争のイメージだけを取り上げますが、すでに、戦争とはそういうものではない、ということが本当に進んでいるようです。

 

ジェノサイド後の世界 ダグ・ケイシー氏が語る次の「危機」
投稿日:2021年9月19日

 

複雑な時代の複雑な戦争のようです。

 

生物戦は、アメリカ軍、中国軍をはじめとして、広くその重要性は認識されていますが、認知戦、すなわち「人民の脳を統制することによる戦争」も、すでに加わっているようです。

 

生物戦については、アメリカ軍は、パンデミックが始まった 2020年の最初の時点で「これが中国による生物戦である可能性」に言及していました。

 

アメリカ空軍の軍団の1つ「航空教育訓練軍団」の主要機関である「アメリカ空軍大学」のウェブサイトに 2020年3月20日、まだアメリカではパンデミックが始まったばかりの時期ですが、その時にウェブサイトに掲載された長い文書の一部を以前メルマガでご紹介したことがあります。

 

その一部をご紹介して締めさせていただきます。

 

その文書の章は、

 

  ・コロナウイルス(COVID-19)
  ・現在の危機
  ・中国の生物兵器開発の歴史
  ・中国、CRISPR、および遺伝子編集
  ・遺伝子編集:新しい大量破壊兵器
  ・結論

 

というタイトルのセクションからなりますが、ここでは「遺伝子編集:新しい大量破壊兵器」をご紹介します。

 

今現在が、なお「この渦中にある」という可能性を排除できないのが現実です。そして、それが停止されるという理由もなさそうです。

 

いろいろな戦争が同時に進んでいるということなのかもしれません。

 

バイオハザード:中国の生物学的能力とコロナウイルスの発生に関する考察

Biohazard: A Look at China’s Biological Capabilities and the Recent Coronavirus Outbreak
Wild Blue Yonder 2020/03/02

 

「遺伝子編集:新しい大量破壊兵器」

 

米国当局は現在、CRISPR 遺伝子編集を、国家安全保障に対する深刻な脅威と見なしている。

 

ジェームズ・クラッパー元アメリカ国家情報長官は、2016年に、大量破壊兵器と増殖によって引き起こされる脅威のリストに遺伝子編集を追加した。

 

CRISPR の発明により遺伝子編集がはるかに簡単におこなえるようになった。

 

クラッパー元長官は、「このデュアルユース技術(軍民両用技術)の広範な配布、低コスト、および開発の加速されたペースを考えると、その意図的または意図的でない誤用は、広範囲にわたる経済的および国家安全保障への影響につながる可能性がある」と述べた。

 

この発言は、CRISPR のような遺伝子編集技術からの脅威は、それらのデュアルユース属性と、通常の科学的開発以外の何かに使用される可能性から来ている。

 

CRISPR を使用して、遺伝子操作された兵器としての殺人蚊の作成、あるいは特定の作物を標的にして一掃する病原体、さらには人々の DNA を盗む可能性のあるウイルスを作成することができるのではないかという懸念がある。

 

別の可能性は、CRISPR を使用して、特定の遺伝子のみを標的とする方法で病気を変えることだ。

さらに一歩進んで、CRISPR を使用して、特定の遺伝的特性に病気を集中させることにより、ある人種全体を対象として病気とすることが可能かもしれない。

 

この方法で中国は日本人を標的とする病原体を作り、それを放った可能性がある。それは中国の人々には感染することがないものとして。これはサイエンスフィクションの映画の筋書きのように聞こえるかもしれないが、もはや考えられないことではない。

 

遺伝子を編集できるだけではなく、中国はすでにそれを成功させている。

 

 

 

 

 

引用元