年の頃は80代くらいでしょうか。曲がった腰を杖で支えながらゆっくり歩いていらしたので。
しばらくショーケースを見つめていましたが、急に腰を伸ばして
「このモンブランを二つください」とおっしゃいました。
この時、モンブランは数種類ありましたので、私は前に回って一緒にショーケースを指差しながら
「こちらのモンブランでよろしいですか?」と、確認いたしました。
「そうそう。これ。ばあさんが大好きなんですよ」
聞くところによると、昨日、おばあさまの誕生日会をお子さんやお孫さんたちが集まってやってくださったそうです。
「今日がばあさんの本当の誕生日なんですよ。だから、これで二人でお祝いするんです」
おじいさまは、目を細めてそう、おっしゃいました。
モンブランをお渡しした時も、袋の中を覗き込みながら
「これ、ばあさんが大好きなんですよ」と、嬉しそうに微笑んでおられました。
「本日はおめでとうございます!おばあさまにもそうお伝えください」
お声掛けではない、心の底から出た自然な言葉でした。
おじいさまの全身から溢れ出ているピンク色が伝染した瞬間でした。
今でも思い出すだけで心にピンク色が浮かんできます。
そして、そのピンク色を感じた時に思い出した記憶。それは五年ほど前に接客したお客様のこと。
老夫婦がお孫さんたちを連れてケーキを買いに来ていました。
お孫さんたちがあれこれケーキを選び、一段落した時に、おばあさまがおじいさまに小さい声でおっしゃいました。
「私の分はないのですか?」
その時のおばあさま。少女のように可愛らしかったです♪
おじいさまは『あー』という顔をなさり、おばあさまを見て微笑みながら
「そうですね。ばあさんは何がいいですか?」とおっしゃいました。
その時はカラーヒーリングを学んでいなかったので、色として捕らえてはいませんでしたが、
色を通して記憶として蘇ったことで、同じピンク色だったことに気付きました。
色を感じると、その色に共通した記憶が蘇ります。