■いくつもの驚きを与えてくれる「ローストビーフのお店 鎌倉山」


土曜日のランチに、ローストビーフで有名な鎌倉山の赤坂店で食事をする機会を得ました。赤坂パークビルディングアネックスにあり、都心にも関わらず、非常に広々とした贅沢な空間の中で、食事を楽しみました。2時間ほどの時間でしたが、これまで経験をしたことのない驚きをいくつも与えていただきました。料理には素人で企業価値を分析することを専門にする私にとって、その2時間はとても新鮮な経験でした。それは、「驚きの連打」といってもよいほどでした。


■挨拶の驚き


まず、最初に驚かされたのは、お店に近づいていくと、コックさんが二人透明なガラスの扉の後ろに控えて、すぐに私の名前で挨拶をされたことです。後でわかったのですが、席数に限りがあるため、恐らくお客様の数もすくないため、初めて行ったにも関わらず、お客様を特定することがある程度可能であり、その努力を意識的にしているのではないかと思いました。いずれにせよ、最初の瞬間にとても新鮮な驚きを受けたことには間違いがありません。


■空間の驚き


レストランに入って、非常に驚いたのは、空間がとても贅沢であったことです。都心の一等地でありながら、まるで、箱根や軽井沢の老舗のホテルで食事をしているような気分になりました。窓からも都会とはいえ、広々としたビルの間のスペースが広がり、街路樹などが見え、とても都心にいるような感覚ではありませんでした。きらびやかで豪華でありながら、上品な家具が、さらにその空間のいごごちのよさを増幅しております。


■味の驚き


これこそ、最大の売りものであり、最大の驚きといえるでしょう。霜降りが目立つような感じでありませんが、とろけるような肉の感触は、忘れることができない味わいであり、大事な方とのひと時をすごすのにふさわしい味の感覚を共有できると思います。また、もう一度来たい、そう思わせる味わいです。


■こだわりの驚き


食事を終えて、さあそろそろ終わり、というときに、予想もしなかった驚きがありました。お祝いであったため、普段は2つ選べるデザートを3つにしていただいた、ということにも感謝しましたが、その中で日本でわずかな数しか栽培されていない貴重な西洋梨「セニョールデスペラン」をいただくことができました。とても甘いため、害虫が発生するのを防ぐのに手間がかかるため、栽培されている木の数はわずか数本とのことでした。甘みについては、上品な中で最高に甘い、という表現がふさわしいと思います。これがレストランで食べられるのは、「鎌倉山」でしかないとの説明を受け、ますます驚きが増しました。


その他、砂糖をまったく使わないプリン、単独だと味がしないものの、スポンジ部分と一緒だと非常に甘く感じるクリームなど、どれもこれも、素材の絶妙な組み合わせにより、トータルで見れば、絶妙なバランスの甘みをかもし出していました。そのデザートの豊富さには、とても驚かされました。


■経営方針の驚き:コックが店の運営を全て担う分業否定経営


最後に、最も驚いたことを付け加えたいと思います。コックの方に「何か他の店と違うことがありますが、気がつかれましたか?」といわれても、なお、なかなか気がつかないことがありました。指摘されて初めて気がついて驚いたのは、料理の配膳、ワインの選定、レジ、お客様の案内まで、全てコックの方がやっているということです。身なりもいかにもコックという服装です。単に格好だけでなく、全ての方が実際に料理やデザートを作っているそうです。


通常は、ウェイター、ソムリエ、レジ係などと分業しているのが普通ですが、「鎌倉山」では、実際に料理を行っているコックの方が、全ての業務をこなしているのです。それは、オーナーの意向で、料理を作る本人が、お客の反応を直接聞くことですぐに料理に反映できる仕組みを築くためと聞かされました。


■独自の価値創造をやり遂げる経営リーダーシップの驚き


コック、ウェイター、ソムリエ、レジ係とそれぞれがそれぞれの仕事を専門性をもって分業するということが効率的なレストラン経営には必要だと一般には推察されます。しかし、分業すると情報が正確に伝わらず、お客の生の声や要望がすぐに料理に反映されないということも起こりえます。この分業による情報遮断という、常におきる経営課題について、「鎌倉山」はコックに全ての業務を行わせるという手法で対応しているわけです。


分業による情報遮断という経営課題に、これほどシンプルな回答を出している「鎌倉山」に驚きを覚えました。「お客の反応がコックに正確に伝わらない、ではコックがウェイターやソムリエの役割をすればよい」、ということは、ウェイターやソムリエがいて当たり前であることから考えると、まさに業務のイノベーションといっても良いでしょう。おそらく、そのようなことをいとわない方をコックとして雇い訓練を行うという、見えない部分で、かなりの企業努力を積み重ねていると思います。因果関係を突き詰めて、それをやり遂げるすごい哲学の経営リーダーの存在を「鎌倉山」に感じました。


「鎌倉山」では、隠れた超高収益電子部品メーカー「コーセル(証券コード6905)」の社長に取材をおこなったときを同じ驚きを感じました。コーセルは、後ほど別のブログで詳細をご説明したいと思いますが、多品種少量の標準電源に特化した電子部品メーカーであり、経営哲学を末端の従業員までに浸透させることに関しては、おそらく日本でも有数の企業であると思っております。


■「ローストビーフのお店 鎌倉山」から学ぶ普遍の経営論理


企業とは、顧客価値を生み出すシステムであり、いかに高い顧客満足を作り上げる体制をシステムとして築くかということが普遍の経営テーマであります。また、そのシステムは簡単に他社に真似できるもではないことが理想といえます。「お客の反応をすぐに料理に反映し顧客満足度を高める」ために、コックに全ての店の業務を任せる、という仕組みを築き上げた、「鎌倉山」にその理想を見ました。何でもこなすコックを養成することは非常に時間がかかるため、おいそれとは真似のできない経営システムではないかと推察されます。


これは製造メーカーに例えれば、研究開発の従事者が、マーケティング、営業、製造、品質管理、販売、アフターサービス、経営管理まで全てこなすということに相当します。そんなことができるはずない、といわれそうですが、おそらく「鎌倉山」も当初は、「コックが全てをこなすなど、できるはずがない」と思われたのではないでしょうか?


商品ライフサイクルの短期化、新興国向けのリーズナブルな価格の商品ニーズの拡大という時代の流れの中で、日本企業にとって必要なのは、研究開発の従事者が、研ぎ澄まされた顧客ニーズの把握力を醸成することではないかと思っております。


メーカーに「鎌倉山」のような企業があれば、恐らく存続力という意味で非常に強い企業となるのではないでしょうか?そのような日本企業がもっと増えてくれば、日本企業の競争力はもっとももっと高めることができるのではないでしょうか?そうすれば、21世紀になって、グローバルに見て相対的な強さが低下している日本企業が再び輝くことが可能になるのではないでしょうか?

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