男女の問題に混入する裁判官の価値観2(その2)

テーマ:

昭和30年の裁判例の紹介の続きです。

事案の詳細は、前回の記事をご参照ください。

 

さて、この事案の判決の主文は、

以下のとおりです。

 

「原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。」

 

妻による離婚請求は退けられてしましました。

現代の弁護士の感覚では、

ほぼ離婚は認められてしかるべき事案だと思います。

 

なぜ、裁判官は、離婚を認めなかったのか。

 

さて、その前に、この裁判官は、

現代的感覚でいえば、

およそ受け入れがたい価値観を持っているように思えます。

 

判決の中で、このような記載があります。

「原告(妻)が、年齢満50歳で、

女性としては既に、その本来の使命を終り、

今後はいはば余生のごときもので、

今後において、花咲く人生は到底これを期待しえないと考えられるのに反し、

被告(夫)は、ようやく令49歳にたっしたばかりで、

その前半の人生が順調であったのに反し、

終戦後は、苦難の生活が続き、妻たる原告にすら見限られるような失態を演じつつも、

その体験を深め、人間として漸く成熟し来たったと認められるので、

男子としての真の活動は、今後において、

期待し得られる事情にある」

というわけです。

 

このようなことを現代の裁判官が書くと、

バッシングの嵐でしょう。

 

さて、では、なぜ、この裁判官は、

離婚を認めなかったのでしょうか。

 

この裁判官は、

戦後、10年たって国内の情勢がおちついてきたので、

被告も、今後は就労などして豊かになりうるとしたうえで、

そうなれば、

「原告は、妻として、また、明るい生活を期待し得られるのであるから、

客観的に見れば、原告が、被告と離れ、

若干の収入を得て淋しく一人身の生活を送るよりも、

幸福であること幾倍増である。」

のだそうです。

 

女性の幸せが、夫の経済力に依拠する、

いう価値観なのでしょうかね。

 

そのうえで、この裁判官は、

夫が妻の帰りをひたすらに願っている状況について、

「原告(妻)は、この際、被告(夫)の許に復帰すべきであって、

一人我を張り、復帰を肯んぜないとすれば、

それは俗にいう、女妙利に尽きる仕儀であると認められても、

亦、止むを得ない事情にあると認められる。」

のだそうです。

 

ここのところは、昔の裁判例なので、

表現が小難しいですね。

「俗にいう女妙利」という表現が私にもいまいちよくわからないのですが、

要は、夫から強く愛情を示されているのに戻らないというのは、

「俗にいう女妙利」ではあるが、

それは、我を張っているだけですよ、

という程度の意味でしょうか。

 

もっと砕けていえば、

せっかく夫が好き好きいっているのに、

我を張らず戻りなさい、

という意味でしょうかね。

 

ほっといてあげればいいのにと思います。

 

さらに、この裁判官は、

この妻に対して、辛辣です。

いわく、

「被告が、経済的に豊かな生活をしているときは、

被告に前記のような所業(注:妾を作っていたことを指していると思われる)がありながら、

原被告間の夫婦関係には、ほとんどというに足るべきほど、

風波もおこらなかったにもかかわらず、

被告が経済的に息詰まるやいなや、たちまちにして風波が立ち、

ついには、その関係が、破たんに瀕するに至った」というのです。

そのうえで、世間の経済状況は上向きで、

夫が経済力をつければ、

夫婦の問題も解消するのだそうです。

 

そうして、次のように判決中に述べて、

妻を諭しています。

 

「男子として、今後の活動を期待し得られる被告と離別することは、

婚姻以来二十有余年にわたり、よきにつけ、悪きにつけ、

とにかく、労苦を共にして築いてきた礎石の上に、

来るべき幸福を捨てるに等しいことであって、

これは、二十有余年の努力を無にし、

その余生を捨て去るに等しいもので、

それは原告にとって不幸である」

「離婚することは、たやすいことである。

今一度、被告の許に復帰し、

努力してみてついに被告と夫婦生活を送ることができないとなれば、

その時、離婚しても決して遅くはない。」

 

さて、このような判決をもらった妻は、

この判決をどう思ったのでしょうか。

そうして、このあとどうしたのでしょうか。

 

夫を信じてもどるという決意を妻が自分でするならば、

他人がとやかくはいえませんが、

夫は今後元の生活を取り戻すはずだから戻りなさいと、

他人である裁判官が決めつけるのいかがなものでしょうかね。

 

この裁判官は、この判決の時点で

なぜ、ここまでこの夫を信じるのか。

奥さんが出て行った後も、

他の女性と関係を持っており、

そのうえで、妻を愛しているといっても、

誰も信じないように思うのですけどねえ。

 

この記事を読んでいただいた皆さんは、

この判決が絵空事を述べているように感じた方も

多いのではないでしょうか。

 

男女関係に関する価値観は、

当時と今ではずいぶん違うとは思いますが、

現代人からすれば、

違和感しか感じないですね。

 

逆に言えば、

時代は変わったとまとめることもできるのかもしれません。

 

世間の人は、

判決が出れば、

それが真実だと思うのでしょう。

しかし、時代とともに価値観が変わるとともに、

裁判官個々の価値観も多様です。

 

その中で、最大公約数のようなものの抽出物が法律である、

ということも可能でしょう。

 

いずれにしても、

この裁判例は、

現在の裁判実務には、

影響が皆無だと考えられますのでご安心ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AD