夏の夜をホラーにおとどけ | 男のジブリ飯。

夏の夜をホラーにおとどけ




今夜も汗ばむ夜を過ごすあなたに、

ひとつ、背筋も凍てつかせるお話を差し上げたいと思います・・・。






あれは、つい先週のある日の夜のこと。




僕は、いつものように仕事が長引き、残業をしていた。
休み明けということもあり、だらだらと気だるく社内作業。

同僚や先輩はすでに先に帰っていた。



時刻は日付を変えた。
僕はそろそろ帰宅の準備を始めた。


10数分の電車に揺られ、一人暮らしにはそぐわない
閑静な住宅街の広がる駅に降りる。


いつもの遅い帰り道。


今夜は、気のせいか、なぜか辺りに人は少なく、
しんと静まり返っている。
コツコツとなる僕の靴音がやけに大きく響く。


客足の見込めないこの時間帯に営業している店はなく、
どこかしこも閉まっているシャッターの金属が、
その音を余計に高鳴らせる。


いつもと同じはずの帰り道。
なのに、今夜だけは、どこか違った雰囲気を醸していた。
気味の悪いどんよりとした空気が辺りを包んでいる。


僕の住まいの生活行動圏内には24時間営業している店はなく、
唯一と言っても過言ではないコンビニが帰り道の途中にある。


大きく数字の7が書かれた電飾看板は、まばゆいくらいに
煌々と辺りを照らす。


いつもならなんでもない、そのただの光は、
今夜の僕をほっとさせた。


一瞬、僕の後ろで何かがよぎった。
振り返るが、何かが通った気配はない。


・・・猫だろうか?
・・・それとも気のせいか?

しかし、何かがよぎったと感じた感覚は確かにあった。

僕はそれを、すぐ後に吹いたそよ風のせいにして、
コンビニへの足を速めた。


インスタントな健康への気遣いとして恒例となった
「調整豆乳」と「1日野菜」の小型パックをセットで手に取る。

レジ横に並べられたフライドチキンやフランクフルトを
横目で見つつ、腹をさすりながらサラダのカロリー表示を
確認して、買い物籠にたたきいれた。




・・・今日は買って帰るか。


雑誌棚の左端にこっそりと設けられた
「18歳未満閲読禁止 成年男子向けアダルト誌」のコーナー。
簡単に一言で片付けるなら、「エロ本」のこと。


その中の1冊を手に取り、買い物籠に入れる。
その瞬間、また背筋がヒヤっとする。


コンビニに入ってからは、安心してしまったためか、
すっかり、今夜の小気味悪い雰囲気のことは忘れていた。


なんだろう・・・。イヤな予感がする・・・。

とにかく僕は会計をさっさと済ませ、家路を急いだ。


しかし、コンビニからの帰り道中、背筋が凍りつく感覚が止まらない。
いやむしろ、家が近づくにつれ、その感覚がどんどん大きくなる。

額にはあぶら汗がこびりつき、鳥肌は僕の両腕全体を侵食していく。


その感覚を否定し続け、僕はようやく家にたどり着いた。


鍵を取り出すものの、焦ってしまい手元がおぼつかず鍵を落とす。
舌打ちしながら鍵を拾い、ドアを開けた。







ドアを開け、部屋に足を一歩踏み入れた。
今までで一番大きな緊張を感じた。
不安・恐怖・驚嘆の入り混じった、とてつもない嫌悪感。




何かが、いる。




ゆっくり、ゆっくり、一歩ずつ、真っ暗な部屋に向かう。

玄関の明かりは点いているものの、部屋のドアが中身を見せることを阻む。
ドアの真ん中にはガラスが付けられているが、玄関の明かりが
ガラスで反射され、部屋の奥の様子はまったくわからない。

今夜ほど、このドアを憎らしく思ったことはない。


物音をできるだけ立てないように。
意識せずとも、その足はすり足になる。


ドアノブにそっと手をかけ、開いたちょっと隙間から
部屋の入口すぐそばの電気のスイッチに左手を伸ばす。


1回押せば、部屋の明かりは点く。

1回押せば・・・。


覚悟が決まらない。
右手は、緊張を押し殺すように、強く握り締められている。




心の中で、カウントダウンをした。




3・・・




2・・・




1・・・




意を決して、僕は部屋の明かりをつけた。











「う、うわああああああああああああ」













「同じエロ本を買ってるぅぅぅっぅぅ」








        終。