今日もその娘は、泉の脇にしゃがみこんでおりました。
朝露に濡れた草で、彼女の服は濡れています。
森に光が射して来ました。
鳥たちは歓びの歌をうたい、
木々は目覚め、七色に輝いておりました。
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「私・・・大丈夫かしら?」
彼女はそうつぶやいて、
おそるおそる、泉の水を覗きこみます。
水面には変わらぬ自分が映っています。
それは素直でかわいらしい、いつもの娘の姿でした。
彼女はやっと安堵しました。
昨日も、おとといも、その前の日も・・・。
彼女は自分を確かめに、
必ずここへやって来ました。
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彼女は働き者の機織り娘でありました。
彼女の折る布は独特で、
一つ一つに込められた意味と祈りがあったのでした。
彼女の布は、人々の役にたちました。
けれども娘は、自分を確かめずにはいられないのです。
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ふと娘が顔を上げると、
水面に背の高い、白く長い髪の精霊が立っていました。
その顔は男とも、女ともつかないものでありました。
ごく薄い白い衣に、白い杖を持っています。
「今日も来たのかね?」
精霊が娘に言いました。
「いったいいつまで自分を見れば、自身を信頼できるのかね?」
精霊は続けて言いました。
「だって、あたし・・・」
娘は困惑し言葉が出ません。
精霊はさざ波もたてず、娘の目の前に近づきました。
とても大きな姿です。
精霊の体は半透明で、さらに娘に近づくと、
一歩進んで娘と一体になりました。
彼女自身と精霊が重なったのです。
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物語は後半へ続きます。
( ̄▽+ ̄*)
泉の精霊と、娘≪後編≫