※この物語は、生まれながらに不安障害を持った男が、2018年頃から現在に至るまでに辿った『実話』である。

 

 

 

 なおプライバシーの関係上、全ての人物は偽名とする。

 

 〈前回のお話〉




 

《第45話 邂逅》

 

 

 カフェで30分倒れずにいるというチャレンジは、達成自体は問題無さそうだった。

 

 しかし時間が経つのを待つのが苦痛だった。

 

 要するに暇なのだ。

 

(カフェオレも飲んじゃったし……)

 

 他の人は一緒に来ている人と喋っていたり、ノーパソを開いて作業していたりと時間を有効活用している。

 

(まだ8分くらいしか経ってないな)

 

 ……モンストでもやるか。

 

 俺はスマホを出してモンストを開き、イベントクエストの周回を始めた。

 

(うん、順調)

 

 モンストが、じゃなくて、チャレンジの方。

 

 ここで血液検査のことを考えても、倒れちゃいけないと考えても、あの貧血のような嫌な症状は一向に出てこない。

 

 人でざわつくカフェの中で、俺は30分間カフェに居続けることが出来ていた。

 

(そろそろだな)

 

 俺はカフェオレのグラスをカウンターに返却して、カフェを出た。

 

 そこで、信じられないものを見た。

 

 俺がカフェに入る前から居た、あの女性がまだ立てかけられたメニューの前でちょこんと座っていたのだ。

 

「いや悩みすぎだろ」

 

 つい、俺は声に出してしまった。

 

 咄嗟に大きく言ってしまっていた。

 

 するとその薄ピンクのワンピース姿の女性は、座り込んだ状態で鋭く速くこちらを見た。

 

(やば……)

 

 怒られるかも――とヒヤっとした矢先、彼女は座った状態のまま、ニッコリと微笑みながら、

 

「だって全部美味しそうなんだもん」

 

 言うと、抱えていた日傘を左手に持って、こちらに歩いてきたのだった。

 

 

                    【第46話に続く】