静岡県御殿場市(御殿場新天地 御殿場赤線区域)② | お散歩日記

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路地裏、バラック、長屋、昭和の香りがする飲食街、遊郭赤線跡地、廃墟、古い町並み、山奥・・・・そんな場所を訪れては下手糞な写真を撮っております。

引き続き静岡県御殿場市「御殿場新天地」について筆を進めます。









前記した静岡大学の教授氏に因るルポルタージュ「御殿場赤線区域の実態を衝く」、あくまでも「赤線区域が齎す子供たちへの教育の悪影響」を前提としたルポと言う体裁をとっているのですが、学者特有の知的好奇心ゆえでありましょうか。必要以上に「赤線区域」に迫った記述が綴られており、やや偏っていますが当時の界隈の様子を伺えます。





「パンパンの生態」と題された記事を少々引用してみましょう。




パンパンと言う語源が何かは別として、彼女達の言い分をきくと、パンパンというのは侮辱した言葉だから、ガールさんと呼んでほしいというのだそうだ。彼女等は彼女等自身の行為を正当化して、「外貨獲得の一翼を担い、土地の女性の身代りになるガールさん」と自分達を定義しているのである。


分布の上から見ると、キヤンプ附近にいる者、御殿場にいる者、沼津、三島、裾野方面から出張してくる者と三つに分類出来る。出身を調べると殆ど全国的で、年令的に見ると一七~四六才位で、約七百名


(中略)


こうした地域に特有な洗濯業、パーマネント、旅館業一部の医療関係等、遊興地帯に見られる畸形的な発展をしている。いづれも総体的に見て浪費性が強く、此の種の女性自身が浪費性をもつているし、それにつきまとう用心棒が浪費者であり、商売人も普通人より是等の人々を相手にした方が市価よりボレる結果ともなるのである。


然しこまるのは一般人で、是等の変態的な浪費者の生活につられて、一般の物価は高くなる。結果として社会不安が増し、強盗、傷害、暴行等の道徳的感覚の麻痺からくる犯罪が増してきている。米軍の物資を持ち出したり、女性にからんだチンピラの縄張り争いが起る。




オンリー・ワンと云う言葉がある。特定の女性を独占している場合である。相手を信じて国際結婚でハッピー・エンドとなる場合もあるが、女性が悪質で葛藤を生ずる場合もある。相手の悪質なのにかゝつて捨てられた悲惨な女性の話も珍しくない。妊娠して、民生委員の手に委ねられた末路哀れな者もいる。






(引用ここまで)






上記引用文にある「オンリー・ワン(=オンリーさん)」とは、簡単に言えば米兵と愛人契約を結んだパンパン嬢の意。何の因果か御殿場新天地には「オンリーワン」と言う名の飲み屋が存在。




昭和三十年代の地図上でも存在を確認出来た「OK横丁」。「OK」・・・・・「オンリーワン」同様にこの地の因果を感じます。




静岡名物富士山マークに「バー」の鑑札を掲げたお店。





ここは沖縄の社交街か?と錯覚してしまいそうな琉球テイストのスナック跡地。





この地のランドマーク的存在でもある「キャバレーグランドアイドル」の廃墟。如何にも昭和の味わいがする佇まい・・・・・と言いたいのでありますが、調べてみるとそれほど古くない物件であることが判明。





タクシー会社と飲み屋が共存しているビルを進んで行きます。気になる物件が二軒並んでいるのです。




その先には妓楼リフォーム物件の香りがする建物。





お隣にもユニークな佇まいの店舗。




上記の妓楼風の建物が何か気になるので昭和三十三年度の住宅地図を紐解いてみました。地図上にある「ニューアジア」が現在のタクシー会社兼飲み屋ビル。妓楼風物件には「若人」と言う屋号が付けられております。カフエー、バーの類でしょうか。




更に掘り下げるべく、昭和四十六年度の住宅明細地図を紐解く。「ニューアジア」は「こだまタクシー」へと移り変わり現在も営業を続けております。注目すべきは「御殿場トルコ」の記載であります。昭和四十年代は言わば我が国に於けるトルコ風呂第二次伸張期。どうやら気になる物件はトルコ風呂としてニューステージへとヴァージョンアップしていた模様。




中村を抱える愛知、川崎堀の内を持つ神奈川、そして吉原の東京と比べてややトルコ風呂の発展が控え目な感のする静岡ではありますが、こうして御殿場を赤線時代から俯瞰して行くとトルコを抱えた歓楽街へと誘おうとした痕跡が垣間見れるのであります。下記は広岡敬一著「トルコロジー」より「トルコ風呂営業所の分布状況」昭和五十四年調べ。営業所数と検挙営業所数の数字。








・・・・・・・・・御殿場赤線区域のルポが載っている「文化と教育」の機知に富んだ編集後記を以下に引用し今記事を〆させて頂きます。





―ルポルタージュにある御殿場の「赤線区域」というのは、随分ひどいらしいね。


―県の社会教育でも一時問題になったが、どうにも手のつけようがない。今は子供達も、落ちつくところに落ちついてやゝ平静を取り戻したように見えるが、この平静は一種の麻痺状態なんだ。これが変形して成長してしまつた時こそ、人々は事の重大さに驚くだろう。


―あのキヤンプあたりをうろうろ歩いていると危ないそうですね。


―あぶないとは何が?


―つまり、どこからか弾丸でも飛んでくるというような気分に捉われるとか・・・・・。


―そんなこともないだろう。むしろ「赤線区域」に立ち入つて、捕虜にでもなつたら大変だ。


―で、臨時記者の大学教授はどうでしたか。


―まずまず捕虜にもならず無事帰還したようだよ。呵々。ぢや又、来月。