みどり・オルトナーがロベルト・ホルを語る【後編】 | 住友生命いずみホールのブログ

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5/21「ロベルト・ホル(バス・バリトン)」公演に出演するピアニスト、オルトナーさんから、ホルさんの魅力をたくさん語っていただきました前編に続き、
後編では、今回のプログラムについてお話していただきたいと思います。





桜(スタッフ):プログラムについて少し説明いただけますでしょうか。

mum1(オルトナー):とても哲学的なプログラムです。頭に歌われるシューベルトの「人間の限界」という曲は、滅多に歌われませんが、これはホルさんのような重厚な声の力がないと表現できないんですね。
この曲のゲーテの詩は、かえって立派な訳になればなるほどわかりづらいのですが、この詩の内容が全プログラムを貫いていると考えてよいでしょう。「人」の存在の小ささ、「運命」の力、神への、大自然への畏敬、それが主題でしょう。


桜日本で最もよく知られたドイツ歌曲のひとつといえるシューベルトの「魔王」がプログラムに入っていますね。

mum1:「魔王」は、実は歌うのはあまり難しくありません。一人で四人分の役を演じるのが難で、下手にそれを強調すると田舎芝居のようになってしまう危険がありますが・・・。


桜では、シューマンの「竪琴ひきの歌」については?

mum1:「竪琴ひきの歌」は、シューベルトの作曲による曲の方が一般によく知られていますが、シューベルトの作品は音色的にテノールに向いており、気のふれた父親のあわれさが強く表現されています。ホルさんがシューマンの「竪琴ひきのうた」を選んだのは、こちらの作品はバスの声に合い、深い苦しみ、終わりのない苦悩がシンプルな音の中によく表現されています。

桜今回、後半にヴォルフがプログラムに入りました。

mum1:ヴォルフの「ミケランジェロ歌曲集」は、バスの声のために作曲された珍しいもので、中世イタリアの天才ミケランジェロの晩年の詩の独訳されたものに作られた歌です。このドイツ語訳がまたいいのですね。作曲者ヴォルフの、死の直前の作品で、彼の「白鳥の歌」になりました。それだけにどこにも軽い部分や、甘っちょろいところはありませんが、特に第3曲のこの上なく浄化された、極めて男性的なロマンティシズムには、誰もが恍惚となってしまうでしょう。


桜そして後半はブラームスが死の前年に書いた最後の歌曲集「四つの厳粛な歌」ですね。

mum1:ブラームスの「四つの厳粛な歌」は、テキストが聖書からとられている上、作曲者の死の前年に作られたほぼ最後の作品ですから、いかめしい作品のように一見聴こえてしまいます。でも、ドラマチックな第一曲には、この上なく真面目なテキストにも関わらず人間的でドキドキし、終曲は希望と愛へのゆるぎない信仰を歌い上げ、体中が温まるような何か暖かく湧き上がるような力が聴き手にみなぎって終わることでしょう。
人間のはかなさ、無力さをテーマにしつつも、最後は愛と希望と信仰の力で私たちの存在も永遠の命を持つのだ、と。それはドイツ・リートの核心的な主題なのかもしれませんね。






桜とても楽しみなプログラムです。ところで、オルトナーさんは声楽科ご出身で、その後ピアノに転向されたのですよね?

mum1:はい。私はもともと歌い手でして、歌の勉強をしにウィーンへ渡りました。最初の3年間はおとなしく歌だけやっていたのですが、学友たち、特にオーストリア人の学生たちの中には、大学をいくつかかけもちし、複数以上の主科をかけもちしている連中がけっこういて、びっくりしたのですね。こういうことが許されるんなら、私もあれこれ勉強してみたい、と思い、えいやと思い切ってピアノ科を受けに行ったんです。一番多いときは、2つの大学と5つの主科をかけもちしていました。欲張りなんですね、基本的に。


桜その経歴は、ドイツ歌曲の伴奏をされる際の作品解釈に大きく影響してくることですね?

mum1:ピアノを始めたのも、ドイツ歌曲のすばらしい伴奏をしたいと思ったことがきっかけですし、歌い手の息づかいや曲想をつかむことには、自分の歌い手として経験から助けられていることは大と思います。もし、前の主人のロマン・オルトナーが長生きしていたなら、私はピアノを大して弾いていなかったろうと思いますが・・・どこか、彼の仕事を継がなくては、というような思いが強くて始めた、演奏稼業かもしれません。


桜ますます楽しみなリサイタルになってきました。最後に大阪の音楽ファンへのメッセージをお願いいたします。

mum1:もう日本を離れて30年以上になる私ですが、人生を捧げている音楽を通じて日本とも細やかなコンタクトを得られて、とても幸せに思います。そして懐かしい大阪にも行ける!それも世界最高のドイツ歌曲の巨匠と、この素晴らしい世界を皆さんとご一緒に分かつために!ぜひ聴きにいらして下さい!!5月を心から楽しみにしております!


様々なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
こちらもとても楽しみにしております♪



ロベルト・ホルとみどり・オルトナーの演奏が聴けるのは、こちら↓
ロベルト・ホル(バス・バリトン)
【日時】2015年5月21日(木)19:00開演
【出演】ロベルト・ホル(バス・バリトン)/みどり・オルトナー(ピアノ)
【曲目】シューベルト:人間の限界 D716 ( ゲーテ )
             魔王 D328 ( ゲーテ )
             プロメテウス D674 ( ゲーテ )
    シューマン:「竪琴ひきの歌」より ( ゲーテ )
             涙なくパンを食べたことの無い者には op. 98a-4
             自ら孤独に生きる者は op.98a-6
             扉に忍び寄り op.98a-8
    シュテファン:二つの厳粛な歌( ギュンター、ヘッベル)
    シューマン:夜の歌 op.96-1 (ゲーテ)
    ヴォルフ:ミケランジェロ歌曲集 ( ミケランジェロ )
    ブラームス:四つの厳粛な歌 op.121  (ヒュンニネン、ゴトーニ)
【料金】一般=¥5,000 学生=¥2,500
    いずみホールフレンズ会員特別価格=¥3,000

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