北海道から東京へ遊びに来ていた31歳のMさん

離婚し子供も置いていけと言われ一人息子を残して来た

泣いて泣いて泣いて泣きすぎて目が腫れたまま友達に誘われ居酒屋に

しっぽり飲みたかったのに騒がしい男性3人組がいた

一人がMさんの友達に手招きする

友達は「ほら!出会いは突然に!」と言いMさんの腕を掴んで3人組に混ざった


そこで出会ったトラック運転手の彼

自信満々なくせに照れ屋で可愛げがあった
Mさんの話を聞いてくれた
そうかそうかとカウンターをみながらよく聞いてくれた
こんな話をしてごめんなさいと謝ると
Mさんの目をみて言った


「全部失くしたなら新しいスタートしかないじゃねーか、おめでとう」

そういってグラスを出した

Mさんはハッとした…

それから涙ぐんで笑った

そして彼は
「おれん家 荷物持ってきちゃう?」と冗談で言った

イヒヒと笑う彼にMさんはなにかを感じた







それから数日たって
彼は仕事に行こうとアパートの扉を開けようとしたら
ピンポンとチャイムが鳴った

ガチャンと開けると

Mさんが立っていた

「え?!どした?」

「え…荷物持ってきちゃった」と舌をだして麦わら帽子を脱いだ

足元にはボストンバッグ1つ……

普通なら困る…でも彼はなにかを感じた


それから1年後2人は結婚した

お腹に子供が出来たのだ

幸せしかなかった

真夏に出産した

彼女は新しい人生を愛おしく思っていた

3日ほど頭痛がした

しかし彼女は違和感を感じながらも母として子育てをした









それから時が立ち、寒さが厳しくなって辺りがひんやりした夕方

父親となった彼は仕事からお土産を持ってドアを開けた

いつもなら明かりがついてるのに暗い

「おーい、帰ったよ?いないの?」

玄関からまっすぐに冷蔵庫が薄く見える

西日が沈みかけてる薄暗い部屋に妻が倒れていた

横にはおすわりをして妻のスカートで遊ぶ我が子

「どうした?おい!!」

抱き抱え微かに温かい

すぐに救急車を呼び病院に…

それはバレンタインデーの日だった

彼女は天に帰った

彼と幼子をおいて





そんな話を父が語った
あの日の事はわたしも脳裏になぜか残っている

母は32歳
一番きれいな時に幸せいっぱいで死んだ

彼女は新しいスタートをきりゴールが早かった

どんな思いで天にいったのか
一度もわたしの前には出てきたことはない


父はそれから再婚は一度もしなかった
出会った人もいたが

「あいつよりきれいな人はいない」
とポツリと言った


そして

「失ったってことはこれが俺の新しいスタートだ。
でも俺は続きでいい、このまま一人ゴールを目指す」

そうやって下を向いて笑った



父とは父親という感覚は離れてからない

話も何年かしていない

父の物語を歩んでるに違いない

わたしも今物語の分岐点にいる

魂について
あの世について
ヒトのあり方について

そんなことを考えながら川の流れをみている