『狙え命中！ホームラン！』

女性の方には珍しい光景かもしれないが、男性にとっては一年365日、下手をすれば見ない日はないかもしれない（外出していればの話）小便器の様子。ボディビルダーでもない限り、明らかに自分の背中の毛よりは眺め慣れた光景だろう。

こちらの尿の温度に引けを取らずに、いつも温かく受け止めてくれるその便器の内側を見れば、消臭剤の玉コロが群れをなしている。

時に男子たるもの、己の尿の水流であの玉コロを転がすことがたまにある。玉だけにたまにあると言っているわけではないが、自分の放った水流の威力で物を動かしたり変化させることが出来るのならば、まるで魔法使い気取りで意気揚々となる人がほとんどだ。便器を飛び越え、尿による玉転がし競争なんてあれば参加者多数だろう。きっとそういう衝動に駆られてしまうこと自体、それは本能的なものに通じているはず。

いくら日本人が農耕民族だろうが、やはりどこかにハンティングしたい血が流れているに違いない。

「追え！追え！追うんだ！あのバンビを追うんだ！！」

と頭の中で言葉にしなくても追ってなんぼというDNAが、宇宙船地球号の乗務員のみんなには刻まれている。

円を描くように腰をグラインドさせている輩など見たことないが、玉転がし職人は今日も自分のナニを名パイロットばりに操縦しながら右へ左へと撃ち続けるのである。

またそれは、尿を当てることで消臭剤の表面を溶かし消臭効果を玉から発生させると共に、そこに狙いをつけさせることでOUT OF 便器への尿のおこぼしを防ぐ面も兼ね備えている。

追うべき相手、狙うべき相手、言わば目的意識というゴールがあるときに、人はそこへと強く意識が集中するのだ。

解き放たれた尿もゴールがあれば目指したがるものだ。

そしてその消臭玉の群れの上に何か小さな模様のようなものが見えるのがお分かりであろうか？

汚れなどではなく、明らかに後から貼られたものだ。

それは何かと訪ねれば、

「便器内下方の的を狙いうち！

命中すると赤色に！？

トイレにゆとりを　　運転に集中を　　」

まさしく用意された目的地こと的。

全てはそこに狙いを集中させることで、おこぼしを防ぐためにある。

さらには命中すればその的の色まで変わるとまで書いてあるではないか？ハワイに着けばレイを首にかけてくれる、マラソンでゴールすればテープを切れる、毎日三食メガマックを食べればご立派な大柄体系になれると、何かしら目的とする先には今ここにはない達成感と変化があるものだ。

ここではない、「そこ」にあるものを目指して人は動く。的だって色ぐらい変わるのである。それこそ達成の後に生まれる「やりがい」という名の充実感。SB(小便）の放ちがい、狙いがい、「おしっこするの嫌いなのよ」という人は滅多にいない、排尿後は気持ちいい。何かを達成するまでの過程が楽しいなら尚いいではないか。

よく見ればテントウ虫の的が便器内にペタリと。

玉たちが転がっている小便器の底よりちょっと上部に貼られているのは、少し上目に貼ることで狙いを定める際に、前に出て用を足させるためであろう。いつもある「一歩前へ」の貼り紙より、自然と前に出るようにされている。このことにより自分の足元及び、便器の手前付近への垂れこぼしも防げる。的に尿を当てたければ前進あるのみだ。

年齢と共に尿の水圧が低くなられた方はより一歩前へと出ることとなる。

また的がその位置である他の理由は、便器とSB(小便）がぶつかりあったときに出来るだけはねっ返りが抑えられる場所が選ばれていると思う。

これに関しては女性の方にも分かってもらえると思うが、縦なり横なり尿を出すところと便器の面とを向き合うように平行真っ直ぐに水をぶつければ、その飛び散り方と言ったらもう、白いシャツを着て思いっきりナポリタンスパゲッティを食べるが如し、醤油とラー油を入れた小皿へと上空30cmから餃子を落とすが如しの飛び散りっぷり。

まだ自分の股間なり、ズボン周りだけに「おかえりなさいませ、ご主人様！」とおつりが返ってくるならまだしも、周りの壁や床に飛び散られては掃除する側としてはたまったものじゃない。そういうことを防ぐという面でもあの微妙な位置が正に的として的確だったのだろう。

バッティングセンターで言う、「ホームラン」という看板が掲げられたところだ。

目指せホームラン。

当てたところで景品は出ないが、誰か（掃除する人）が喜ぶ。

ここは私も一当てとチャレンジしてみようかと思ったが、悲しいかな、タイミング悪し、尿意ゼロ。

ゲップであればコーラを一気飲みでもすれば、すぐにでも蒸気機関車が蒸気を上げるようにゲップ連発機にでもなれようが、さあ今すぐSB(小便）をしろと必要に駆られても、そういった特殊な訓練を常日頃受けていないので出ないものは出ない。

なんとか絞りだしたところで、その水流に勢いのないSB(小便）を的に命中させるためには、かなり大きな一歩前が必要とされる。先ほどのバッティングセンターを例に挙げるならバントでホームランの看板を目指すようなものだ。

無理でござる。

また上記の貼り紙にあるように、他の小便器にはスリーセブン、又はよくある的マークの的が貼られていた便器もあったのだが、いかんせん便器の中を撮るというのは難しい。これが個室の中ならまだしも、ズラッと並んでいる小便器の群れ。

ここは高速道路のサービスエリアだけあって、引っ切りなしに次々と人が来ては放尿しておられる。こんな中でデジカメを出すのがいかに危険か、もう、んとに、どんだけギャンブルか。上のテントウムシを撮るだけでもタイミング的に結構苦労した。

そして状況的には長距離移動の高速バスを利用していた際に、休憩として降りたここのSAでこのマークを見付けたために、時間制限もあり長いこと人が空くまでトイレ内に粘ることが不可能であった。

さすがに「私を置いてバスを発車させて下さい！いいんです！ここが私のゴールだったんです！的だったんです！！」とまでバスの運転手には言えない。ああ、残念極まる。