2023.4.26 新曲 発売 市川由紀乃
横須賀の貸切ヴィラに潜伏して
いたヨーロー・ム(以下YM)。
訪ねて来た松原ひとみと共に、
神奈川県警・特別機動班によって
拘束された。
何故か「Audi A4」の後部座席
へ押し込まれた。
運転席に俣阿野、隣に京歌。
京歌は流暢なフランス語で、
YMに話し掛けた。
「何も、心配はいらない」
「私たちは、ICPOを通じ貴方の
エージェントの指示で動いて
いる。そのことは、日本の警察
トップも承知している」
「信用出来ないなら、母国のエー
ジェントに、直ぐに電話するが
いい」
と。
YMは、車内から電話をし。
事情を理解した。
松原ひとみは、
母国のエージェント?ICPO?
警察トップ?
何よりも、
つい先日、会社の同じ部署に通訳
として入社した京歌?が、いるこ
とに驚いた。
Audiは横須賀ICから横横道に。
首都高速―都心環状線・霞が関を
出て、虎ノ門ヒルズレジデンシャ
ルタワーに着いた。
◆
タワーマンションの上層階の
俣阿野の広い、リビング兼応接。
浜まりと白木唯が、
四人を出迎えた。
時間は既に、22時を過ぎていた。
隣室の、
ダイニングルームのテーブルの
上には。
フレンチのフルコースを予感
させるに十分な、食器類が。
六人が席に着くと、
京歌の父と母が、ワインクーラー
を持って登場。
言うまでもなく、今宵のディナー
も母親の手料理。
食前の乾杯は。
勿論、MHDの高級シャンパン。
ドン・ペリニヨン ヴィンテージ。
食事が終わる頃。
唯が、手を挙げて提案。
「皆さま、演奏会をしましょう」
「1stギターは、ひとみさん」
「2stギターは、まりさん」
「ヴィオラは、私が」
「チェロ奏者は、勿論YMさん」
「志隈さんと京歌さんは観客ね」
選んだ曲は、
あのクルーズターミナルで
演奏した。
ハイドンのセレナーデ
「弦楽四重奏曲第17番ヘ長調」
Op.3-5。
約15分間の演奏が終わった。
YMが、弾いていたチェロを
愛おしむように眺めながら。
「この楽器は、素晴らしい」
「どこで手に入れたのですか」
「フランスは元より、ヨーロッパ
でも。このレベルの品は、中々
手に入らない」
「35万ユーロくらいですか」
と、感慨深い様子。
YMに高く評価されたチェロは。
唯がヤフオクで、6万円で落札
した。韓国製の中古品だった。
翌日の全国紙の朝刊と朝のTV
ニュースは。
「警察当局が行方を追っていた
世界的なチェリスト/ヨーロ
ー・ムは、自国フランスのパリ
の自宅に無事帰還。捜査本部
は解散」
と、紙面と画面から流した。
事件から二週間後、
東京国際クルーズターミナルに
初めて。
外国の大型クルーズ船、
「MSCポエジア・パナマ籍」が
入港。本格オープンとなった。
一方、驚く事態が。
6万円で落札したチェロ。
YMが高額を予想した品。
じっとしていられない唯。
「5千万円ARUKAMO」と、
YAMAHAや島村楽器に鑑定を
依頼した。
その結果、両社は同じ回答。
「恐らく19世紀前半の品。
国内での鑑定は、不可能」
「我社が責任を持って、フラン
スで鑑定して来る。お預け下
さい」
そして、一ヶ月後。
島村楽器の担当者がパリから。
唯の元へ、メールを発信した。
「製作者はストラディバリウス。
史上最高のチェリストと尊ば
れる、ジャン=ルイ・デユポー
ルが愛した一品」
「値段の想定は不可能」
「もしも世界の二大オークショ
ン『ザザビーズ』か『クリステ
ィーズ』の、どちらかに出品し
たら。最低でも10憶円は下ら
ないだろう」
と、書いてあった。
唯から鑑定結果を聞いた京歌。
志隈に、
「あのチェロに、絶対触っちゃ
ダメ。15万円くらいのを買っ
て上げるから」
と言った。
(つづく)
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■主な登場人物(適宜掲載)。
▶俣阿野志隈。私立探偵。極秘諜報員。
▶浜まり。弁護士。ヤメ検。裏検。
▶京歌。極秘諜報員。志隈の妻。
▶白木唯。映像クリエイター。極秘諜報員。
▶鬼頭史郎。警視庁公安部/肩書不詳。
▶ヨーロー・ム。世界的チェリス。
▶松原ひとみ。元飲料メーカー社員。
現洋酒メーカー社員。
■本作品は、フィクション作品。
登場する、地域・人物・組織等の名称及び
写真・イラスト等は現存のものと無関係。
法規制度や時代考証などの齟齬は、容赦。
■添削・校正なしでの配信につき、誤字脱字
の程ご容赦を。
〈鰯の頭〉
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