女優・倍賞千恵子の出演作品の特集上映ですが、東京では昨年の9月に神保町シアターで行わています。特集上映の公式サイトには、倍賞千恵子さんのメッセージとして「私のデビュー当時からの作品170本の中から17本がこの映画を愛する人達の為の映画館、神保町シアターで上映される事、大変光栄に思っております。」とあります。上映館に対する謝辞をまず最初に述べるあたり、往年の日本映画で活躍されていた女優さんらしさを感じます。カチンコ

 

特に倍賞さんのファンでもない私ですが、その出演映画が「170本」というのは50本近い“寅さん”シリーズがあるとはいえ、やはり凄いな~と思います。神保町シアターの上映「17本」から2作品は減りましたが、名古屋のシネマスコーレでも“15本”の出演作が上映されました。『男はつらいよ』(1969年)と『遥かなる山の呼び声』(1980年)を除けば、すべてが未見でした。

 

松竹の看板女優として、そして寅さんの妹“さくら”のイメージが強いだけに今回どうしても見たかったのは神代辰巳監督の『離婚しない女』(1986年)と山田洋次監督の『霧の旗』(1965年)ですが、いずれも上映の日程とスケジュールが合いませんでした(涙)。とりあえずスクリーン鑑賞を終えることができた2作品を紹介します。シネマスコーレ(会員当日1,100円×2)。グッド!

 

特集上映「女優・倍賞千恵子」公式サイト

 

『あいつばかりが何故もてる』(1962年、監督/酒井欣也、脚本/松木ひろし、山根優一郎、撮影/小原治夫、音楽/牧野由多可、編集/北見精一)

 

渥美清さんが吹きこんだ同名のレコード曲から企画されたという喜劇映画の『あいつばかりが何故もてる』。監督・酒井欣也の名前をまったく知りませんでしたから恥ずかしい限りですが、今回の特集上映の中では倍賞千恵子さんご本人がセレクトした上映作品の一本です。

 

主人公は、渥美清さん扮する銀座界隈で活動するスリの名人・小山田善六。映画の冒頭、刑事・八代(森川信)に追われてビルの谷間を脱兎のごとく逃げている姿を描写しますが、そこにベレー帽をかぶりカメラを手にした倍賞千恵子さんが登場する。彼女は社会派カメラマンを夢見ている女子大生という設定で、銀座で洋菓子店を経営する恵まれた家庭のお嬢さん。音譜


やがて善六は、倍賞千恵子が扮するマリ子から写真のモデルを頼まれる。単に被写体として魅力を感じているマリ子に対して、“ほの字”で舞い上がる善六です。彼女が将来は自身の個展を開く夢があり、その費用が30万円もかかると聞いて、ますますスリ稼業に励むわけです。

 

 

一方、善六には小学校の後輩にあたる新庄英介(松原緑郎)という仲の良い医者がいます。誠実で控えめな性格もあって、彼は善六と違ってヤタラと女性にもてるわけです。この英介の存在があるからこそ、タイトルの『あいつばかりが何故もてる』は理解しやすくなるのですが、

案の定、舞い上がった善六の気持ちを察知もせずにマリ子と英介は恋仲になるのです。ラブラブ

 

そんな中、マリ子の両親が経営する洋菓子店の経営が思わしくなく、店の拡張をとなえるマネージャー(大泉滉)の薦めで、マリ子の父親(田中春男)は高利貸から金を借りたことで窮地に陥ります。膨らんだ期待がしぼむように善六のマリ子への恋心は実るはずはないのですが、彼女の家の窮地を知れば、わが身の危険を顧みず“奮闘努力”の行動を起こすわけです。

 

映画の中では、これが1960年代前半の銀座の街か…と思うような風景が映されます。松竹映画ゆえに(旧)歌舞伎座の外観を一度ならず捉えているのはご愛敬といったところでしょうか。渥美清が松竹と契約して本格的に主演した初めての作品のようですが、女優・倍賞千恵子をマドンナ役に『男はつらいよ』シリーズの前にすでに寅さんを演じているような映画です。パー

 

 

                                                  

 

『二十一歳の父』(1964年、監督・脚本/中村登、原作/曽野綾子、撮影/成島東一郎、音楽/武満徹、美術/佐藤公信、編集/浦岡敬一)

 

21歳の学生・酒匂基次(山本圭)は、マスコミ企業の重役である父・彰(山形勲)とエリート銀行員の兄・市郎(高橋幸治)に反発して家を飛び出し、パチンコ屋でアルバイトしながら盲目の好子(倍賞千恵子)と学生結婚をしている。この心優しい息子・基次を思いやる母親・延子(風見章子)が余命わずかであるため、基次夫婦は母親の存命中の条件付きで実家に戻ってくる。

 

一方、基次の友人で大学の同じ殺陣サークルで活動している越秋穂(勝呂誉)は、学生ながらヤリ手の金貸し業を副業にするような現代的な青年。大学の講義中に教授からセクハラ行為を受ける美貌のクラスメート恭子(鰐淵晴子)を助けたことから、彼女と付き合うようになり、やがて結婚を約束してもらうよう猛烈にアタック。明朗かつ積極的な生き方をしている。チョキ

 

酒匂家で静かな生活を送っていた基次夫婦だが、母・延子が息を引きとると葬儀を前に家を出て、元のアパート暮らしをに戻る。好子の胎内にはすでに新たな命が宿っていて、やがて基次は“二十一歳の父”となり、酒匂家の初孫の誕生に父親の彰も喜びを隠しきれません。

 

 

物語が一気に暗転するのは、赤ん坊を背負った好子が交通事故に遭い、母子ともに亡くなるという不幸に見舞われたからです。映画の中では、この事故シーンが直接的に描写されるわけではなく、馴染みの女将と雪景色の温泉に出かけた父親・彰が突然の訃報の電話を受けるという演出でした。実に大人の演出だなと、この映画で私が感心する数少ない場面です(汗)

 

映画のタイトルは原作通りの『二十一歳の父』ですが、物語の軸となっていたのは“二十一歳の父の父”である山形勲だったように思えます。同居する優等生的な長男夫婦とは異なる、次男夫婦とその子どもに対する愛情。そのあたりを抑制の効いた演技で表現していました。ただ、妻子を亡くした次男の心情まで察知することはできません。彼が実家で睡眠薬自殺を計ったことを悲しむと共に理解を示すのは、対照的な生き方をしているような友人・越秋穂です。

 

中村登監督の映画作品をほとんど見ていませんが、作品の世界としては原作者・曽野綾子の世界観が色濃いのかもしれません。女優・倍賞千恵子に関していえば、盲目の女性役を巧みに演じていましたし、彼女らしい“健気さ”も発揮されていたと思います。そういう意味では、やはりショーケンと共演した神代辰巳監督の映画『離婚しない女』を見たいんですよね。パー

 

 


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