東京オリンピック・パラリンピック開幕の後も猛威を奮う新型コロナ。今回は、現場のただ中で感じたコロナ対応の限界と今後の課題について、松本ひさし氏にお話を伺いました。

 

 

岩井 今回はお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、オリンピックの取材のために来日した海外の記者が、日本のコロナワクチン接種率の低さに驚いたと聞いていますが、その原因についてどう考えますか?

 

松本 こちらこそ、よろしくお願いします。まずは国産ワクチンを開発できなかったことが挙げられます。そもそもワクチン開発は製薬会社に大きな利益を生みづらいものなのですが、国としてそういった事業への平時からの投資が十分でなく、「いざ開発を」とはいかなかったわけです。

 

岩井 米国やイギリスなどではいち早く対応していましたが、何か国内事情があったのしょうか?

 

松本 20年ほど前になりますが、米国では炭そ菌を用いたテロ事件が発生しています。欧米ではそれを契機に生物兵器への備えを

進めてきたことが、mRNA(メッセンジャーRNA)を使った新しいコロナワクチン開発の手法に繋がっています。

 

岩井 ところで、わが国のワクチン接種が開業医による個別接種が中心となっていることも、接種率向上の妨げになっているそうですね。

 

松本 はい、患者さんの基礎疾患の状態を把握している、かかりつけ医がワクチン接種を行うのが望ましいとの考えから、いわゆる開業医での個別接種を推奨してきた経緯があります。しかし、開業医さんにはワクチンを保管するためのディープフリーザーがなかったり、注射器への小分け作業が困難だったりしたため、ワクチンの手配を担う自治体が大変な苦労をし、結果としてワクチン接種が進みづらかったのは事実です。

 

岩井 その後に全国各地で大規模接種が行われるようになりました。

 

松本 東京、大阪に自衛隊による大規模接種センターが開設されたのは今年5月のことですが、センターによる運営の成功を見て、都道府県などの自治体が「これならできる」と追従したわけです。必要となる医療従事者の数などを見ても、より効率的であると言えます。

 

岩井 話は変わりますが、現場の医師として、ワクチン接種のあり方について要望を続けていたと聞きました。

 

松本 はい、わが国のワクチン接種対象者については、「医療従事者➝65歳以上高齢者➝基礎疾患を有する者➝高齢者施設等の従事者」の順にすると決められています。

 

岩井 そうですね、国の感染症対策分科会の議論を経て決まったものですね。

 

松本 そうです。ところが、気をつけていても職員さんが感染してしまい、高齢者施設でクラスターが発生する事例が頻発したのです。県に対して、特例的に高齢者施設等従事者へのワクチン接種を優先するよう何度となくお願いしたのですが、実現することはありませんでした。感染を拡大させないための戦略的なワクチン接種、これが今後の大きな課題であることは間違いありません。

 

岩井 最後に、看護師への待遇についてもご意見があるそうですね。

 

松本 はい、ワクチン接種の打ち手の中心が看護師であることは知られているところです。ところが、コロナ対応における医師との報酬格差が著しく、危険と隣り合わせで汗をかかれている看護師さんの待遇は何とか改善させなければいけません。現場を見てきた医師の一人として強く発信していきます。