こんにちは。
Kinoshitaです。
患者さんからよく聞かれる質問として
「高刺激をすると、卵子の質が悪くなると聞いたのですが大丈夫ですか?」
これはとても大切な質問です。
なので正しく伝えたいので
何度もブログでも説明してきています。
今回は
有名な専門的な論文を使いながら
さらに深掘りしていきましょう!!
たしかに、不妊治療の世界では以前から、
「強い刺激をすると卵子の質が下がるのではないか」
という議論があります。
しかし私は、
少なくともすべての患者さんに対して
高刺激=卵子の質が悪くなる
と考えることには否定的です。
まず今回の結論です
(これは以前も伝えていた通りです)
高刺激が良い。
低刺激が良い。
そういう話ではありません。
大切なのは、
その方の卵巣機能に合った刺激を行うこと
です。
卵巣機能が十分ある方では、
高刺激によって多くの卵子が得られます。
その場合、
良い卵子だけが増えるわけではありません。
悪い卵子だけが増えるわけでもありません。
良い卵子も、悪い卵子も、両方増える
と考えるのが現実に近いと思います。
その結果として、
妊娠につながる胚に
出会える可能性が高くなることがあります。
「15個が最適」という有名な論文がありますが・・・
採卵数について非常に有名な論文に、
Sunkaraらの報告があります。
この論文では、400,135周期という非常に大きなデータを用いて、
採卵数と出生率の関係を調べています。
論文では、出生率は採卵数が約15個までは上昇し、
15〜20個で横ばいになり、
その後20個を超えると低下すると報告されています。
英語では次のように書かれています。
The overall LBR was 21.3% per fresh IVF cycle. There was a strong association between the number of eggs and LBR; LBR rose with an increasing number of eggs up to ∼15, plateaued between 15 and 20 eggs and steadily declined beyond 20 eggs.
日本語にすると、
全体の出生率は新鮮IVF周期あたり21.3%でした。
採卵数と出生率には強い関連があり、
出生率は採卵数が約15個までは増加し、
15〜20個で横ばいとなり、20個を超えると徐々に低下しました。
ここで重要なのは、これは
新鮮胚移植を前提とした1周期あたりの出生率
を見た論文であるという点です。
つまり、
この15個という数字は、
正倍数性胚(染色体正常)を得るための数
でもなく
凍結胚をすべて使い切った後の累積出生率
を最大化する数でもありません。
当時の新鮮胚移植を含む治療成績の中で、
出生率が最も高く見えた採卵数の目安と考えるべきです。
新鮮胚移植では
採卵数が多すぎると不利になることがあります
新鮮胚移植では、
採卵した周期にそのまま胚を戻します。
この場合、卵胞がたくさん育つと、ホルモン環境が大きく変化します。
特に、
採卵決定日の
黄体ホルモンであるP4が上昇すると、
子宮内膜と受精卵のタイミングがずれてしまい
妊娠率が低下することがあります。
つまり、
卵子がたくさん採れること自体が悪い
というより、
新鮮胚移植をする場合には、
卵巣刺激によるホルモン環境の変化が移植成績に影響する
という問題があります。
だから、新鮮胚移植を前提とした時代には、
採卵数をある程度調整する必要がありました。
全胚凍結の時代では考え方が変わります!!
現在は、凍結技術が非常に進歩しています。
特に
日本では、培養技術、胚凍結・融解胚移植の技術が高く、
また、
全胚凍結を安全に行える器具なども
日本で多く開発されてきました。
全胚凍結では、採卵した周期には移植を行いません。
胚を凍結し、子宮内膜の状態を整えた別周期に移植します。
そのため、新鮮胚移植で問題になりやすい
高P4による内膜環境のずれ
を避けることができます。
ここが非常に重要です。
つまり、全胚凍結ができる時代では、
「15個が最適」
という考え方を、
そのまま現代の治療において
全員に当てはめるのは適切ではありません。
採卵数が増えると、累積出生率は上がる
DrakopoulosらのHuman Reproductionの論文では、
採卵で得られた新鮮胚と凍結胚を
すべて使用した後の累積出生率を評価しています!!
この論文では、次のように報告されています。
Cumulative LBR significantly increases with the number of oocytes retrieved.
日本語では、
累積出生率は、採卵数が増えるほど有意に上昇しました。
という意味です。
これはとても大切な視点です。
1回の新鮮胚移植だけを見るのではなく、
採卵で得られた胚をすべて使った後に、
最終的にどれくらい出産にたどり着けるか。
患者さんにとって本当に大切なのは、
ここだと思います。
なので私は以前から伝えている通り
採卵あたりの妊娠率を
常に意識して治療を組み立てている訳です
採卵数が増えると、
正倍数性胚の数も増えます
次に、
正倍数性胚についてのデータです。
VenetisらのHuman Reproductionの論文では、
採卵数と正倍数性胚の関係が検討されています。
採卵数が多いことは、day3正倍数性胚の数が多いこと
と独立して関連していました。
ここで大切なのは、
正倍数性胚の割合
ではなく、
正倍数性胚の数
です。
例えば、
2個採卵して1個が正倍数性胚なら、
割合は50%です。
一方で、
10個採卵して3個が正倍数性胚なら、
割合は30%です。
割合だけを見ると
下がったように見えるかもしれません。
しかし、
患者さんにとって大切なのは、
妊娠につながる可能性のある胚が何個得られるかです。
この場合、
1個より3個の方が、
妊娠へのチャンスは広がります。
だから
「高刺激で質が悪くなる」と単純には言えなくなります
高刺激によって、
悪い卵子が多くとれてしまう
ことはあるかもしれません。
しかし同時に、
良い卵子も増える可能性があります。
そして論文では、
採卵数が増えることで、
- 累積出生率が上がる
- 正倍数性胚の数が増える
ことが報告されています。
だから私は、
高刺激=卵子の質が悪くなる
と単純に説明することは
できないと思います。
卵子がたくさんとれた時の
卵子のどのデータに目を向けるのか!!
それが、
医者と患者さんとで共有されることが
とても大切だといつも感じます。
なので私のクリニックの培養結果説明は
メールや書類だけで結果説明することはしません
→
あえて今でも
オンラインか外来で直接説明し、
その後にデータをお送りしています。
それくらい、培養結果説明は大事だと思っています。
ただし
全員に高刺激が良いわけではありません
→ここは以前にもお伝えした通り
AMHが低く、卵巣に反応する卵胞が少ない方では、
刺激を強くしても採卵数があまり増えないことがあります。
そのような方の場合、
必要以上の高刺激を行っても、
妊娠率の向上につながらない可能性があります。
だからこそ
高刺激が良い。
低刺激が良い。
ではありません。
その方の卵巣機能に合った刺激が良い
と繰り返しているわけです。
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