ひらひらと花びら。

見上げると、桜だった。

 

重い瞼に陽射しが刺さる。

頭の中にフレーズが流れる―。

 

降るように突然に 車の上桜が散ってる

エンジンをあなたがかけたら 小さく一緒に震えた―

 

そう、始まるその歌が好きだった。

春のにおいと映像と。

出会い別れと。

終わりと始まりと。

ぜんぶあるから。

 

そういえば、振り返るときいつもそこに春があった。

いろんなものが終わり、いろんなものが始まる季節。

花びらと一緒にひらひらと過ぎゆく季節。

 

白にほど近い、薄いピンク色したそれはひらひらと舞う。

流れる車窓の景色のように、セピア色の無意識の中で唯一色を持って揺らめいている。

時折、ふっとつめたい空気の手を引いて、

春の風は、頬にも打ちひしがれそうな気持にも、同じようにやわらかい。

 

音もなく、そっと肩に花びらをのせていく。

置き忘れてしまわぬよう、誰しも大切なものがあるから。

でも、それを思うにはきっと、まだまだ時間がありすぎるから。

過ぎてしまえば時間は色を失うけれど、

過ぎた時間ほど愛おしいもの。

 

ほんとにきれい すごくきれいで 今までいちばんかなしい―

 

花びらは、だからひらひらと舞う。

色を持つから、こころを揺さぶられる。

 

めまいがするほど 散りだした花は

ぽっかり空いた隙間埋めるように 降る―

 

埋めたい隙間はなんだろう。

風に舞う花びらはなんだろう。

どんどん色を失いながら過ぎゆく日常で。

息も出来ぬくらいに飛び込んでくる、鮮やかな色をした日常で。

 

誰かが見上げて、シャッターをきる。

縁取られたリアルには、きっときれいな色した花びらが写っている。

薄いピンクのきれいな花びらが、色を失いながら散っている。