今回はツォルンの補題からZermeloの整列定理という主張を示していきます。
ここで以前証明した補題を紹介しておきます。
補題
(Wλ)λ∈Λを集合Aの部分集合族とする。各WλはAの部分順序集合として整列集合であるとする。
λ,λ*λ∈Λを異なる任意の2元とするとWλとWλ*とは一方が他方の切片になっているとする。
このとき次の⑴,⑵が成立する。
⑴∪(Wλ)λ*∈Λ=WはAの整列集合である。
⑵λ∈Λを任意の元とするとWλはW自身と一致するかまたはその切片となる。
この補題はツォルンの補題や選択公理とは全く無関係に導かれることに留意してください。
さて、Zermeloの整列定理を証明します。
Zermeloの整列定理
Aを空でない集合とする。A上の関係≦で(A,≦)が整列集合となるものが存在する。
イメージ的には集合から元を順番に選んでいき、小さい順に並べることができる、という主張です。
(証明)
WをAの部分集合としOをW上の関係とする。下の条件を満たすような(W,O)の全体の集合をRとする。
(条件) (W*,O*)は整列集合である。
元a∈Aを1つとると{a}は明らかに順序集合になるので{a}∈Rである。したがって、R≠Øである。
R上の関係ρを次のように定める。(W,O),(W*,O*)∈Rを任意の元とする。
「W=W*かつO=O*」または「(W,O)が(W*,O*)の切片である」ときに限り、(W,O)ρ(W*,O*)
このときρによってRは順序集合になるのは明らかである。…(※)
さらにRがρによって帰納的であることが次のように示される。
Rの任意の全順序部分集合をR*とする。R*が上限を持つことを示せばよい。
∪((W,O)∈R*)W=W*とする。このとき補題により下の2つの条件を満たすような順序O*が与えられる。…(※)
①(W*,O*)は整列集合である。
②任意の元(W,O)∈R*は(W,O)ρ(W*,O*)を満たす。
このときW*はR*の上限となる。したがってR*は帰納的な順序集合である。
したがってツォルンの補題により(R,ρ)には極大元(W^,O^)が存在する。
このときW^=Aになることが次のように示される。
W^≠Aだとする。元a∈A-W^をひとつとる。
W^∪{a}=W’とする。W’上の関係O’を下のように定義する。x,y∈W^を任意の元とする。
「x ,y∈W^かつxO^y」または「x∈W’かつy=a」の時に限りxO’y
このときO’はW’上の順序関係になる。
すると(W^,O^)は(W’,O’)の切片になる。(具体的にはW^=W’<a>である。)
さらにminW’は存在し、それはminW^と一致する。
したがってW’∈R*が成立するがこれはW^がR*の極大元であることに反する。
よってW^=Aが成立する。W^A上の関係≦をO^とすると(A,≦)は整列集合になる。(証明終)
次回はいよいよ最終回。Zermeloの整列定理から選択公理を導きます。
これが前回までは選択公理→ツォルンの補題
今回と次回ではツォルンの補題→Zermeloの整列定理→選択公理
という構図になっているので次回で選択公理とツォルンの補題の同値性が示されたことになります。
練習問題
※について詳しく考えよ。
では、源義経に感謝。
参考文献
・『集合・位相入門』、松坂和夫
